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市場移転計画で見逃された「築地」ブランド

2016年10月12日(水)

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 東京都観光汽船(TOKYO CRUISE)をご存じだろうか。浅草やお台場、日の出桟橋といった東京の湾岸エリアを結ぶ船舶を運航している。東京湾に設けられた乗船地と、隅田川を通って浅草を結ぶルートでは、漁船からも海産物の荷下ろしが可能な築地市場の岸壁を眺められる。この岸壁こそ築地市場が移転せざるを得なくなった時の経過と環境変化を象徴している。

市場移転にともなう「ハード」と「ソフト」の問題

 築地市場は、日本橋にあった市場が関東大震災で潰滅的な被害を受け、当時の陸運と海運を考慮し、復興事業の一環として移転されたという経緯がある。築地市場の開設以降、物流は鉄道輸送ではなく陸上のトラック輸送が主役となった。東京都中央卸売市場の「豊洲市場について」のページには、市場移転にまつわる情報が掲載されている。築地市場開業当時とは物流インフラも大きく異なっており、今や食品サプライチェーンはトラック輸送が支えている。豊洲市場は首都高速湾岸線に近い立地だ。築地から豊洲への移転理由の1つは、物流手段の変化だ。世界最大の取扱量を誇る海産物も、いまや全国から陸上を経由してトラックで築地へ運びこまれる。

 物流手段の変化も、手狭なスペースの問題も、いずれも市場機能のハード(設備)の問題だ。一方で築地市場から豊洲市場への移転に必要となるソフト面は、どのように対応されてきただろうか。問題の根底には、移転後の市場に求められる「あるべき姿」や「ビジョン」の欠落が大きく影響している。移転と同時進行で進んだ2020年の東京オリンピックの開催決定と準備が、ビジョンなき移転事業に拍車をかけてしまった。

世界に発信可能な「築地」ブランド

 築地市場は1935年に開設し、これまで80年以上にわたって生鮮食料品を東京のみならず全国に供給してきた。正確には日本国内だけではない。筆者は、シンガポールで、朝早く築地で仕入れた魚を同じ日の夜に食べた経験がある。築地市場の取り引き価格は全国の水産市場にも影響をおよぼす。日本国内の中心的な市場だ。

 取り引き量の大きさと、取り引き価格の他市場への影響力に加え、2000年代以降は外国人観光客も増えていった。築地市場の見学と食事やショッピングが東京観光の中でも大きな目玉へと成長していった。2007年に欧米主要都市以外で初めて、ミシュランガイドが東京で発行されたのも、東京を訪れる外国人観光客の増加を象徴する出来事だ。こういった経緯を通じて、築地市場は日本国内だけでなく世界で通用するブランドになったと認識すべきだろう。最近では、寿司だけではなく、パスタに代表されるイタリアンでも話題となる飲食店が増えており、築地市場は現在も発展を続けている。

 日本では希少な、世界的ブランド化した築地市場の移転を検討した際、「築地」ブランドをどのように維持するか、あるいは高めてゆくかを考慮しただろうか。確かに市場の移転を決定した2001年よりも後に、外国人観光客の増加が顕著になった。移転を決定した時点では、築地市場のハード面の問題を解決すれば良かったかもしれない。その後、築地は日本から世界へ発信可能なブランドになった。立案した計画を、当初の内容のまま変化へ対処せずに押し進める公共工事の悪しき伝統が、また継承されてしまった。

 東京都には築地のみならず、11の生鮮食料品や生花を扱う市場がある。しかし、他の10の市場とは比較にならないほど「築地」のもつブランド力は大きい。2000年代、外国人観光客の増加と時を同じくして海外での日本食ブームも世界各国の主要都市へ広がっていった。増加する外国人観光客が帰国し、欧米の健康志向に支持された日本食ブームのけん引役となっていった。そういった動きの中心にあったのは築地市場だ。海外の日本食ブームや外国人観光客の増加と築地市場移転をあわせ考え、東京都は新しい市場のあるべき姿を設定する必要があった。「築地」のもつブランド力を高める方向性を示すビジョンが必要だった。いや、その点こそがもっとも重要だったのだ。

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「市場移転計画で見逃された「築地」ブランド」の著者

牧野 直哉

牧野 直哉(まきの・なおや)

未来調達研究所取締役

2012年、未来調達研究所取締役就任。現役バイヤーの立場から情報発信を行い、企業の調達・購買部門における取引先管理・サプライヤーマネジメントの専門家。調達・購買の現場に根ざした理論構築を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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