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中国の出稼ぎ青年を無差別殺傷に追い込んだもの

北京の貧困地域を歩く(下)

2018年2月16日(金)

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かつて2005年に訪れた深センのスラム街の様子。「捐腎」(腎臓寄付します)と書かれている

前回の記事「売血・売春…行き場なくす中国の『下層の人間』」から読む

 私が中国で売血の張り紙を見るのは、前回紹介した北京朝陽区にある農民工たちが暮らす低所得者向け住宅が密集する地域、費家村が初めてではない。高層ビルが林立するいかにもインスタ映えしそうな近未来的な風景が広がることから昨今「深センすごい、日本負けた」とネットの世界を賑わせている香港に隣接する経済特区の深センを、2005年あたりに訪れたときは、深セン駅前にある5つ星ホテル、シャングリ・ラからほど近いスラム街の町角で、「捐腎」、直訳すれば「腎臓寄付します」、正しくは「腎臓買います」とゴミ収集場所の壁にペンキで殴り書きしてあるのを見つけ、思わず凍り付いたこともあった。

 ただ、この15年あまり生活の拠点を置く上海で、私は農民工の住むスラム街をいくつも見てきたが、売血の張り紙は見たことがない。売血をしているのは相当程度、困窮している土地ばかりだったという印象がある。

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 中でも一番印象に残っているのは、広東省の坪石という山間の農村へ、湖南省との省境に架かる橋を見に行った時のことである。山間部を通る日本風に言えば県道のような道の途中で小間物屋をしている李さんという当時45歳の男性に橋までのガイドを頼んだ。農家に生まれた彼は小学校を卒業してすぐ広東省の鉄道局に就職、22年務めた後、35歳の時にリストラに遭い、祖父の代から受け継いでる6ムー(約4000平米)の田畑に米と自分たちが食べる分だけの野菜を作り、数羽の鶏を飼っていた。

 ただ、それだけでは現金収入がまったくないに等しいので、日用品を売る小間物屋をやっていたが、利益でなく売上が月に350元(1元=約17円)しかないと話していた。つまり、現金はほとんど入ってこないというわけだった。北京五輪の2年前、2006年の話である。「まあ、この辺の農家ってこんなもんだよ」と李さんは言っていた。農家だから食べるものは最低限あるとはいえ、かなりの程度の貧困地域である。

 この町の中心部にあるバスターミナルから15分も歩かないようなところに売血する人たちの集まるところがあった。人の背丈より少しだけ高いぐらいのコンクリートの壁で囲まれた、二階建てのやはりコンクリートの建物の前に、人だかりがしているのでなんだろうと覗いてみると、中庭に、中年から初老に差し掛かった年恰好の男たち女たちがいた。その数ざっと50人ほど。何人かで連れ立ってきた人たちが多いようで、こちらに2人、あちらに5人というように、いくつかのグループができている。しかし不思議なことに、彼ら彼女らは押し黙って所在なげに突っ立っているだけで、仲間内で互いに言葉を交わすことをしていなかった。

 いったい、何の集まりなのだろう、この人たちは何を目的にここに集っているのだろうと疑問に思い、声をかけやすそうな人はいないものかと目を移動させると、入り口にかかる看板に、

「採血」

の文字が見えた。改めてそこに集っている人たちに目をやった。ボランティアで献血をしようと集った人たちのようにはとても見えなかった。

今まで誰も描くことのなかった中国版ヒルビリー・エレジー
3億人の中国農民工 食いつめものブルース

この連載「中国生活「モノ」がたり~速写中国制造」が『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』として単行本になりました。各界の著名人からレビューをいただきました。

●私はこの例外的に「間合いの近い」取材方法を成り立たせるために著者が費やした時間と労力を多とする。長い時間をかけて、息づかいが感じられるほど取材対象の間近に迫るというスタイルは現代ジャーナリズムが失いかけているものである。
(哲学者 内田樹氏によるレビュー「感情の出費を節約する中国貧困層のリアリズム」より)

●「ブルース」という単語に何とも(やや古びた)哀愁があり、そしてカバーの写真の農民工の写真には、記念写真では決して撮れない、私自身が感情移入して泣いてしまいそうなリアリティがある。
(中国問題の研究家 遠藤誉氏によるレビュー「執念の定点観測で切り取った、中国農民工の心?」より)

●だが、最近の日本のソーシャルメディアでは、「親の時代はラッキーだった」、「親の世代より、子の世代のほうが悪くなる」といった悲観的な意見が目立つ。中国においても、農民工の楽観性や忍耐がそろそろ尽きようとしているようだ。
(米国在住のエッセイスト 渡辺由佳里氏によるレビュー「繁栄に取り残される中国の『ヒルビリー』とは?」より)

●同書で描かれるのは、時代と国家に翻弄される個人たちだ。歴史的背景や、共産党政権の独自性うんぬんといった衒学的な解説はさておき、目の前で苦悶している、もっと距離の近い苦痛の言葉だ。
(調達・購買コンサルタント/講演家 坂口孝則氏によるレビュー「年収3万の農民に未婚の母、中国貧民の向かう先」より)

コメント16件コメント/レビュー

中国の真の姿を見たければ、そこそこの地方都市に住み、買い物は屋台や朝市、大きいスーパーで買い分ける。命に係わる食べ物などはやはりどこでもいいというわけにいかないから。交通はバス、タクシーは乗り合い。鉄道はDなどの新幹線類は使わない。中国語不自由でもニコニコすることを忘れず、日本語でもどんどん話し、相手の言うことを笑顔で理解しようと努める。レポーターでなくとも、これで普通の中国人の姿が見えますよ。私はそうしてました。日本からの駐在員などは普通の人と触れ合う生活などしていません。おんぼろバスに乗り合わせる楽しさを知らない彼らは、高級公用車かせいぜいが小ぎれいなタクシー。食事は高級レストランや高級ホテル。同じレベルの人としか付き合わない。
観光で訪れたら、是非一度は路線バスや、鈍い列車に。辟易することもありますが、現実が垣間見え、素朴な中国人とも触れ合えます。悪い奴もいますが、それは日本も同じですから。(2018/02/26 19:09)

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「中国の出稼ぎ青年を無差別殺傷に追い込んだもの」の著者

山田 泰司

山田 泰司(やまだ・やすじ)

ノンフィクションライター

1992~2000年香港で邦字紙記者。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。2010年からは、「EMSOne」編集長も務める。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

中国の真の姿を見たければ、そこそこの地方都市に住み、買い物は屋台や朝市、大きいスーパーで買い分ける。命に係わる食べ物などはやはりどこでもいいというわけにいかないから。交通はバス、タクシーは乗り合い。鉄道はDなどの新幹線類は使わない。中国語不自由でもニコニコすることを忘れず、日本語でもどんどん話し、相手の言うことを笑顔で理解しようと努める。レポーターでなくとも、これで普通の中国人の姿が見えますよ。私はそうしてました。日本からの駐在員などは普通の人と触れ合う生活などしていません。おんぼろバスに乗り合わせる楽しさを知らない彼らは、高級公用車かせいぜいが小ぎれいなタクシー。食事は高級レストランや高級ホテル。同じレベルの人としか付き合わない。
観光で訪れたら、是非一度は路線バスや、鈍い列車に。辟易することもありますが、現実が垣間見え、素朴な中国人とも触れ合えます。悪い奴もいますが、それは日本も同じですから。(2018/02/26 19:09)

>こういうレポートに対してもただ底の浅い中国叩き、
>左翼叩きみたいなコメントしかしない人は本当に人間的感情がないと思う。

内田樹氏との対談のような面も知っている人なんでしょうよ。
あれを読んで、まだ手放しでエールを送れますか?

私は、この人の農民工に送られる視線の暖かさに共感していました。

しかし。

幾つかの対談で、疑問に思うところがあり、
丹羽宇一郎氏との対談でそれが膨れ上がり、
現時点で最新の、内田樹氏との対談で、それが決定的になりました。

今なら、農民工に寄り添っているようにみえるのは、実はそれは仕込みに過ぎず、
目的は、中国政府のプロパガンダの礼賛だ、と言われても納得しますよ。

内田氏との記事のコメント欄は、強力な検閲に遭っているようです。
さて、このコメントは掲載されるのでしょうかね?(2018/02/22 15:21)

「深センすごい、日本負けた」記事の浅さ、拙さに比べ、本記事の凄さが際立つ内容でした。
この迫力、リアリティを追求するための、筆者の凄まじい気迫までもが伝わってきた。(2018/02/19 09:11)

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