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中国の14億総主流化と「殺馬特」の死

生存空間を奪われる外れものたち

2018年5月24日(木)

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羅福興の「殺馬特」時代(本人提供、以下同)

 中国でこの春、ある人物の「卒業」が話題になった。

 大きな括りではX JAPANのようなビジュアル系の出で立ちで街を闊歩し写真をネットに上げ、国民の大多数から「悪趣味」「外れもの」と非難されてきた「殺馬特」(シャマト)と呼ばれるスタイルを生み出し、この一群を率いてきた28歳の青年。その青年が、ピンクや緑に染めスプレーで逆立てていた長髪を切って黒髪に戻し、顔のおどろおどろしいメイクを落とし、指、耳、手首、足首にぶら下げていたアクセサリーを外し、スタッズとファスナーに埋め尽くされたレザーの上下を脱ぎ捨て、同じ黒づくめでもシックなロングジャケットに着替えた。つまり、殺馬特の象徴だったスタイルを、創始者の彼が捨てた。そして、彼の卒業を、『人民日報』『新浪』『南方都市報』『広州日報』等、中国の大メディアが相次いで伝えたのだ。

 彼の名前は羅福興。1990年に広東省梅州郊外の農村に生まれた。

 小学校に上がる前、深圳に小さな商店を開いた両親とともに羅氏は暮らしたが、小学校に上がると同時に実家に返され、小学生の彼は両親と離れて暮らす生活が始まった。都会に出稼ぎに行った両親と離れて暮らす、いわゆる「留守児童」として彼も幼年時代を過ごしたというわけである。

 勉強を見てくれる人もいなかったため、成績は振るわなかった。そんな彼を小学校の教師もあまり構ってくれず、「騒がず問題を起こさないでくれていたらそれだけでいい」とばかりに教室の最後列に追いやられたという。中国メディアのインタビューで当時を振り返って彼は、「幼いながらも、自分の存在がないもののように扱われている、ということを感じていた」と回想している。

 そして彼は、小学校5年生からネットカフェに入り浸るようになるのだが、ゲームの中で知ったビジュアル系のキャラクターに惹かれ、自分も真似をするようになる。「このスタイルをすれば、自分の存在を周囲が認めるのではないか」と思ったのである。

 村の理髪店で髪を逆立ててもらい、100円ショップならぬ「2元店」(約34円)で買ったヘアカラーで髪をピンク色に染め、赤い口紅を引き、ピアスの穴を開け、全身黒ずくめで、ハサミで穴だらけにしたジーンズを履いた。そして彼は、その格好で外を歩くようになる。

 羅氏は、中学を卒業せずに街に出て、工場や美容院で働き出す。そして2008年、18歳になった彼は、髪を逆立てビジュアル系のスタイルをする自分のような一群のことを「殺馬特」と名付ける。英語の「smart」から作った造語である。彼は自らの写真を撮り、ネットで拡散するようになる。訪日中国人の増加により日本でも受け入れる店が増えた電子決済「ウィーチャットペイ」(微信支付)やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)「ウィーチャット」(微信)の開発・運営元として知られるIT大手テンセント(Tencent=騰訊)が、ウィーチャットに先行して運用していたSNS「QQ」に「殺馬特家族」というグループを作り、そこに上げたのだ。同じような境遇にある農村出身で都会で働く低学歴の若者たちの間に、「殺馬特」の言葉と共に、スタイルと羅福興の名前が急速に広がっていった。

今まで誰も描くことのなかった中国版ヒルビリー・エレジー
3億人の中国農民工 食いつめものブルース

この連載「中国生活「モノ」がたり~速写中国制造」が『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』として単行本になりました。各界の著名人からレビューをいただきました。

●私はこの例外的に「間合いの近い」取材方法を成り立たせるために著者が費やした時間と労力を多とする。長い時間をかけて、息づかいが感じられるほど取材対象の間近に迫るというスタイルは現代ジャーナリズムが失いかけているものである。
(哲学者 内田樹氏によるレビュー「感情の出費を節約する中国貧困層のリアリズム」より)

●「ブルース」という単語に何とも(やや古びた)哀愁があり、そしてカバーの写真の農民工の写真には、記念写真では決して撮れない、私自身が感情移入して泣いてしまいそうなリアリティがある。
(中国問題の研究家 遠藤誉氏によるレビュー「執念の定点観測で切り取った、中国農民工の心」より)

●だが、最近の日本のソーシャルメディアでは、「親の時代はラッキーだった」、「親の世代より、子の世代のほうが悪くなる」といった悲観的な意見が目立つ。中国においても、農民工の楽観性や忍耐がそろそろ尽きようとしているようだ。
(米国在住のエッセイスト 渡辺由佳里氏によるレビュー「繁栄に取り残される中国の『ヒルビリー』とは?」より)

●同書で描かれるのは、時代と国家に翻弄される個人たちだ。歴史的背景や、共産党政権の独自性うんぬんといった衒学的な解説はさておき、目の前で苦悶している、もっと距離の近い苦痛の言葉だ。
(調達・購買コンサルタント/講演家 坂口孝則氏によるレビュー「年収3万の農民に未婚の母、中国貧民の向かう先」より)

コメント13件コメント/レビュー

先日、長年にわたり中国で生活してきた日本人の方の話を聞く機会があったが、「いろんな政権があった中で、習政権以降の中国が一番圧迫感を感じる。中国人・香港人の友人達もそう感じているようだ。」と話していた。
様々な社会現象を「それも文化、流行だ。」とおおらかに受け入れられなくなってきた社会の空気を、彼も感じたのではないか?(2018/05/26 22:25)

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「中国の14億総主流化と「殺馬特」の死」の著者

山田 泰司

山田 泰司(やまだ・やすじ)

ノンフィクションライター

1992~2000年香港で邦字紙記者。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。2010年からは、「EMSOne」編集長も務める。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

先日、長年にわたり中国で生活してきた日本人の方の話を聞く機会があったが、「いろんな政権があった中で、習政権以降の中国が一番圧迫感を感じる。中国人・香港人の友人達もそう感じているようだ。」と話していた。
様々な社会現象を「それも文化、流行だ。」とおおらかに受け入れられなくなってきた社会の空気を、彼も感じたのではないか?(2018/05/26 22:25)

今の中国社会を覆う嵐の前の静けさ、または全体主義的な重苦しい雰囲気なるものが、この一世を風靡した異端児・殺馬特氏の回答文からも伝わって来ます。あれだけ巨大な国なのに、中国人が表立って口にする私的な意見や見解は日本人や他の諸国の人たちよりはるかに画一的。また、中国の方と会話していると「貴方は中国のことをよくご存知で。もしやスパイなのでは⁉︎」というステレオタイプ型反応もこれまた多い。やはり、中国国内で人民がそのように考えるようにせしめる教育や宣伝が為されているのであろう。人口約14億のマンモス国家ではあるが、それに似つかわしくない驚くほど画一的なところがあるのが中華人民共和国という国家社会だ。あれでは個々人が秘めている多種多様な創造力やポジティブな意欲の大半は抹殺されてしまうだろう。その損失は計り知れないと推察する。(2018/05/26 12:01)

まるっきり、今の日本のリベラルの連中と同じ。
異なる他者を認める余地はなく、寛容さの欠片もなく、自分と同じであることを強要する。
それこそ息苦しい。(2018/05/25 01:55)

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