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留守児童が見つけた上海ディズニーより大切な人

上海ディズニーと格差(5) 格差の申し子たちの10年

2016年6月16日(木)

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 チュンリーは、考えすぎて眠れずに天井を見つめ続けては夜が明けてしまうという日を何度か過ごした末、学校を辞めることにした。その時、彼は15歳、中学2年生になったばかりだった。2000万人の餓死者を出す大飢饉を招いた大躍進(1958年)や、10年にわたって国の機能が麻痺した文化大革命(1966~76年)の時代の話ではない。2008年、21世紀に入ってからの話である。

960円が払えず中学中退

 実家のある山の中の村には中学校がないため、チュンリーは学校のある別の村に出てきて寮に住んでいたが、食費と寮費をこれ以上、自分の両親が払い続けるのは無理だと思ったのだ。それはいくらだったの? と尋ねる私に、今年で23歳になったチュンリーは、「両方で毎週60元(約960円)だった」と答えた。

 私がチュンリーと知り合ったのは、彼が小学校6年生、13歳の時だった。明代に建てられた美しい古民家と石畳が残っていながら観光地化されていないということで訪ねた安徽省の、ある古村落に彼はいた。

 風景をカメラに収めながら村を歩いていると、田んぼの脇に転がっていた軽自動車ほどもある大きな岩の上にスックと立ち、無心な感じでどこか遠くの方を眺めている子供が3人いた。当時9歳のチェンシー、10歳のウーガオとウーパンだった。

 彼らの視線の先に目をやってみたが、そこにあるのは田んぼと空。私にとっては十分に美しく物珍しい中国の田園風景だが、ここに住んでいるこの子たちには見慣れ見飽きた風景のはず。君たちは何を見ているの? と声を掛けると、1人が、「没什麼」(何も見ていないよ)とまるで悟りを開いた坊主のようなことを言う。これで彼らにすっかり魅了されてしまった私は、君たちの写真を撮らせてくれないかと頼んだ。すると、この辺りで写真を撮ろうという人間は少ないのだろう、子供たちの表情がたちまち好奇心満々の顔に変わり、「おじさん、何で写真なんか撮ってんの?」「どこから来たの?」「えー、日本人なのか! 初めて見たよ!」とたちまちに賑やかになった。

 この村のどこを見たらいいかな? と相談すると、「明日は日曜日だから、ボクたちが案内してあげるよ。明日の朝7時、またこの岩のところで待ち合わせようよ」と彼らは言う。ただ当時中国では、誘拐したり日本円で5万円に満たないカネで買ったりした子供を山西省のヤミ炭坑に売り飛ばし働かせていたという事件が発覚したばかりだった。嬉しいけど、お家の人が心配するだろうから、まず挨拶に行って許可をもらわなきゃというと、「そんなのいいから。どうせボクたち、いつも日曜日は朝の7時からみんなで遊んでるんだし。家の人には日本人を案内してやるんだとちゃんと言うからさ」。子供たちにそう押し切られ、まあ、送りがてら挨拶すれば大丈夫だろうと判断した。

 結果的に、この甘い判断が大変な事態を招くことにもなり、かつ、彼らとの交情が10年にも及ぶことにもつながるのだが、まだこの時はそのことも知る由もない。

小学生だったチェンシー(右)、ウーガオ(左)、ウーパン(下)
大学生になった10年後のチェンシー(右)、ウーパン(下)

誘拐犯に間違えられて

 翌日。約束の朝7時に待ち合わせの場所に行くと、人数は同じ3人だが、顔ぶれが1人変わっていた。家の用事で来れなくなったというウーパンの代わりにやって来たのが、冒頭で紹介したチュンリーだった。

 山に登ったり川で水浴びしたりと1日楽しく遊び、午後3時ごろ、少し早いけどもう帰ろうかと家路に就き1軒の農家の前を通りかかると、その家の住人が「ウーガオ、おばあちゃんがさっきウチに来て、『日本人の男がウチの孫を連れて行くのを見かけなかったか?』と血眼になって探していたよ」と、私を鋭い目で睨みつけながら声を掛けてきた。ただ、朝から出ずっぱりで連れ回したらやはり親は心配するだろうと思い、昼食時に子供たちをいったん、家に帰していたので、子供たちが午後に再び家を出てからまだ2時間ほどしか経っていないはず。それなのに、ウーガオの祖母が血眼になって探すなんておかしいと思って尋ねると、3人とも、「ここにいない友達の家で昼食をごちそうになったから、家には帰らなかった」と答えるではないか。

 ああ、これは大変なことになったと青ざめたが後の祭りだ。

コメント17件コメント/レビュー

本当に胸打たれました。子供たちが発した言葉にリアルな真実味があって。(それを現前させたのは、山田氏のお人柄ですが)。こういう話、中国の都会人も想像できないのではないでしょうか?ぜひ中国の若い映画人に映画化して欲しいです。もちろん日中友好の美談としてではなく、(それは山田さんが一番望まないことですね!)日々を生きている人間同士、大人と子供同士の誠実な交流が、結果として、この現実に、ありえないような何を生成させるのかということを描く、嘘っぽくない、淡々と生きている人間たちのドラマとして。近年量産される、社会派の深刻すぎるドキュメンタリーにも、あまりにもど派手な青春劇映画にも、中国映画を長く観てきたものとしては、ちょっと食傷気味ですから。本当に、誰か橋渡しする人出てこないものでしょうか?映画化に向けて。(2016/06/26 14:04)

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「留守児童が見つけた上海ディズニーより大切な人」の著者

山田 泰司

山田 泰司(やまだ・やすじ)

著述業/EMSOne編集長

1992~2000年香港で邦字紙記者。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。2010年からは、「EMSOne」編集長も務める。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

本当に胸打たれました。子供たちが発した言葉にリアルな真実味があって。(それを現前させたのは、山田氏のお人柄ですが)。こういう話、中国の都会人も想像できないのではないでしょうか?ぜひ中国の若い映画人に映画化して欲しいです。もちろん日中友好の美談としてではなく、(それは山田さんが一番望まないことですね!)日々を生きている人間同士、大人と子供同士の誠実な交流が、結果として、この現実に、ありえないような何を生成させるのかということを描く、嘘っぽくない、淡々と生きている人間たちのドラマとして。近年量産される、社会派の深刻すぎるドキュメンタリーにも、あまりにもど派手な青春劇映画にも、中国映画を長く観てきたものとしては、ちょっと食傷気味ですから。本当に、誰か橋渡しする人出てこないものでしょうか?映画化に向けて。(2016/06/26 14:04)

ウルムチから海南島まで、10年に亘る少年たちの遍歴を読み進めるうちに、さながら壮大なドキュメンタリー作品を観ている気分になりました。
昔フジテレビで1度だけ放送された伝説のドキュメンタリー「泣きながら生きて」という番組を思い出しました。(2016/06/22 15:43)

山田さんの人とコネクトできる力に本当に脱帽。わたしも中国生活長いけど、ここは人間力の差でそんなことはとてもできません。。しかもここ何年かは日中関係の悪化に伴う環境の悪化でますます中国の人たちとのコミュニケーションがしんどい。でも、日本人として山田さんのような方が中国にいるのが誇らしいです。(2016/06/21 15:02)

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三品 和広 神戸大学教授