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ガス漏れを火のついたマッチで調べる中国

危険物の安全軽視は天津の倉庫だけではない

2015年8月20日(木)

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 中国天津市の港湾部で2015年8月12日に起きた大規模な爆発事故。中国国営の通信社、中国新聞社(中新社)によると、発生7日目の同18日までに死者114人、行方不明者70人、重軽傷者698人を出す大惨事となった。現地の日系企業の操業にも影響が出ていることで、この事故については連日、日本でも大きく報道されているから、ここで事実関係を詳しく書くのは省略するが、大爆発の発端となった薬品倉庫の最初の火災はなぜ起きたのか、この倉庫に認められた量の数十倍とも数百倍とも言われる有害物質のシアン化ナトリウムがなぜ保管してあったのかなど不明な点が多く、事故の全容解明にはなお時間を要しそうだ。

 私はこの事故の一報を、帰省中の日本で受けた。その後、水に触れると発火しやすい化学物質に消防士が放水したことが大爆発を誘引したという報道を見て、「ついにこんな大惨事につながってしまったか」という思いを禁じ得なかった。そして、仕事と生活の拠点を上海に置く自分も、同じような事故に遭遇する恐れは十分にあると改めて不安がよぎった。

 今回の事故が起きたのは物流倉庫の密集する港湾部だが、上海であれ北京であれ内陸部であれ、そして恐らく今回事故の起きた天津でも、中国では生活レベルで中国人の大らかすぎる危険物の扱いに遭遇し肝を冷やす場面が少なくないのだ。そして、危険物に対して高をくくり、場当たり的に対処してきたことで培われた意識が、今回の事故につながったような気がしてならない。そう思うに至った理由を、個人的な経験から説明してみたい。

根拠のない安全神話

 「これは大変なところに来てしまった」。水道・ガス・電気工事のベテランだという男の行動を目の当たりにして、私は自分の体が小刻みに震え出したのを感じていた。

 時は1988年、所は中国内陸部の山西省太原市にある大学。日本語を教えるためこの大学に赴任したばかりの日本人夫婦が、自炊用にプロパンガスを手配した。「ガスが来たら夕食をご馳走するから」という誘いを受け、私も彼らの部屋でボンベの到着を待っていた。

 ほどなくして、ボンベを担いで男がやってきた。大学の用務員だという。ところが、コンロとボンベをつなぐゴムのチューブを見るとヒビだらけで、相当の年季が入っている。不安に思って、「ガス漏れしないかな? 新しいのに換えてもらえない?」と尋ねると、男はシャツの胸ポケットからマッチを取り出し、1本擦って火をつけた。そしてボンベの元栓を開けると、おもむろに火のついたマッチをゴム管に近付け、ボンベにつないだ根元から管に沿ってゆっくりゆっくりと動かし始めたではないか。

 「ヒャッ!」「ウオッ!」と小さな悲鳴を上げて思わず後ずさりする我々。男は、そんな私たちを面白そうに眺めながら、「ほれほれ、爆発しないだろ。大丈夫だよ」と歯を見せてニタニタと笑った。

 ガス漏れの有無の調べ方などその時の私は知らず、あとで調べると石けん水をゴム管本体やボンベ、コンロとの継ぎ目に塗り、元栓を開けて泡が立つかどうかを見るのが一般的だということを知った。しかし、火のついたマッチでガス漏れを調べることが、常識外れだということぐらいは考えなくても分かる。

 大学構内の細々としたメンテナンスを一手に引き受けているというその用務員がその時点で生きていたということは、マッチを使ったガス漏れ検査で幸いなことに深刻な爆発事故に遭遇したことがないことの証。ただ、改めて書くのも疲労を覚えるが、一度でも爆発が起きたら一巻の終わりなのだ。それでもあえてその手法を使うのは、「ガス漏れなどしていないし、爆発もしない」と高をくくっているからなのだろう。当然、そこには何の根拠もない。

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「ガス漏れを火のついたマッチで調べる中国」の著者

山田 泰司

山田 泰司(やまだ・やすじ)

著述業/EMSOne編集長

1992~2000年香港で邦字紙記者。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。2010年からは、「EMSOne」編集長も務める。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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