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「肩が痛い」母の言葉を疑ったばっかりに

どこまで家で介護をするか、決心が固まる

2017年6月1日(木)

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(前回→「その姿、パンツを山と抱えたシシュポスのごとし」)

 2015年6月29日月曜日から、母の新しい生活が始まった。

 月曜日はデイサービスで過ごし、金曜日は半日のリハビリテーションで通所。間の曜日もお昼にヘルパーさんが入って生活を補助する。4月に弟が公的介護保険制度の導入に動いてから、実際に要介護1の認定を受け、生活を組み直すまでに、ほぼ3カ月がかかった。

 私は、これでいくらか楽ができるようになるか、と思った。5月のリハビリ通所開始から少しずつ介護の負担は減っていた。失禁は悩みの種だったが、ここからは自分ひとりで背負い込まずに、ヘルパーさん達と協力して事に当たることができる。

 が、新生活開始と同時に事件が起きた。もう一度生活体制の組み直しが必要になるほどの一大事だった。
 母が転倒したのである。

 正確に書くと、誰も転倒したことを確認していない。本人も覚えていない。まるで「誰も見ていない森の中で木の葉が落ちたとして、それは本当に落ちたと言えるのか」みたいな話だ。だが負った怪我から判断すると、間違いなく母は転倒したのである。

デイサービス通所開始日に「左肩が痛い」

 老人にとって転倒は恐怖だ。

 筋力も反射神経も衰えているので、とっさに身をかばうことが難しく、怪我をしやすい。骨も弱くなっているので骨折しやすく、特に脚を骨折してしまうと、そのまま寝たきりになることもある。

 前に書いたように(「母に認知症新薬の臨床試験の誘い、そして幻覚」)、母はこの年の4月9日に犬を連れての散歩中に転倒し、上前歯のブリッジをすっ飛ばし、顔面に擦り傷を負った。ブリッジを直すための歯医者通いは、5月一杯かかった。だからかなり注意していたのだ。それでも転倒は起きてしまった。

 6月28日日曜日、起きると母は「左肩が痛い」と顔をしかめていた。理由を聞いても「分からない」という。

 私はあまり心配しなかった。というのも、母は時折脚の痛みを訴えることがあったのだが、なにもしなくとも1日で直っていたからだ。部位は違うがいつもの痛みだろうと思っていた。

 ところが翌朝29日、はじめての午前9時から午後5時までのデイサービス通所の日を迎えても、まだ母は「肩が痛い」といった。

本連載、ついに単行本化。
タイトルは『母さん、ごめん』です。

 この連載「介護生活敗戦記」が『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』として単行本になりました。

 老いていく親を気遣いつつ、日々の生活に取り紛れてしまい、それでもどこかで心配している方は、いわゆる介護のハウツー本を読む気にはなりにくいし、読んでもどこかリアリティがなくて、なかなか頭に入らないと思います。

 ノンフィクションの手法でペーソスを交えて書かれたこの本は、ビジネスパーソンが「いざ介護」となったときにどう体制を構築するかを学ぶための、読みやすさと実用性を併せ持っています。

 そして、まとめて最後まで読むと、この本が連載から大きく改題された理由もお分かりいただけるのではないでしょうか。単なる介護のハウツーを語った本ではない、という実感があったからこそ、ややセンチな題となりました。

 どうぞお手にとって改めてご覧下さい。夕暮れの鉄橋を渡る電車が目印です。よろしくお願い申し上げます。(担当編集Y)

コメント14件コメント/レビュー

壮絶です!淡々とした感情に訴えない文章に凄味を感じます。(2017/06/08 09:54)

「介護生活敗戦記」のバックナンバー

一覧

「「肩が痛い」母の言葉を疑ったばっかりに」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

壮絶です!淡々とした感情に訴えない文章に凄味を感じます。(2017/06/08 09:54)

実家にいる96歳の祖母は、要介護4です。40代独身の弟が同居していますが、ほぼ70歳近い母が一人で面倒をみている状態です。
電車で数駅程度の距離なので私も月2回ほど顔を出しますが、介護の手伝いと言うよりも母の話し相手が主です。母は祖母が入浴の為に週2回デイケアへ行くときに近所のスーパーへ買い物に行く程度しか外出できないので、私がデパ地下でお総菜やデザートを買っていきます。少しでも息抜きと気分転換になればとの思いからです。

介護の手伝いは、母から断られることが多いです。臭いも汚れも気にしないと言っても、祖母の体を支えたりタオルの用意をする程度の手伝いしか頼まれません。
大変な苦労を子供にはさせたくないと言いますが、私は母が倒れることの方が心配です。

施設への入居、本当に大変です。空きを探すのも大変ですし、相性もあるので、本当に難しいです。でも介護する側の生活を優先して施設への入所を考えて欲しい、心底思います。
その選択を「冷たい」と言うのは、介護経験が無い人だけだと思います。(2017/06/05 13:04)

「どこか預ける場所を探すことにしよう」とありますが、探すのは、すぐ始めた方がよいかと思います。
 希望する施設が、すぐ見つかるとは限りません。
 施設によっては、1~2年待ちになる場合もあります。
 また、自分(または、入所されるご本人)の希望が、適切かどうかも、色々な施設のサービスを 知らないと、正しく判断できません。
 施設を調べに行っても、パンフレットを渡すだけのところ、親切に説明してくれるところ、見学OKのところ、体験入所ができるところ等、対応にも色々あり、それだけでも、自分の希望に沿う施設かどうかの、判断の参考になります。
 ケアマネージャーさんと相談して、できるだけ早く、探しはじめるのがよいと思います。(2017/06/03 06:14)

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