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母、我が家を去る

その日はこうしてやってきた

2017年8月3日(木)

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 2015年、2016年と、正月には甥姪3人を連れてドイツから帰国していた妹は、2016年の年末は、一人で帰ってきた。子供連れではできない、面倒な事務手続きを我々兄弟三人で進めるためである。

 2016年の年末から2017年の年始にかけて我々兄弟は、揃ってケアマネTさんの案内のもと、様々な施設の見学に行った。近隣の特別養護老人ホームとグループホームを7か所ほど回った。

 施設は文字通り千差万別だった。

 たとえば、特別養護老人ホームといっても、充実した設備で明るい対応のところもあれば、どことなく暗く冷たい雰囲気で、それこそ廊下の隅に死神が黙って待機していそうな印象のところもあった。グループホームとなると、ホーム長の個性や運営母体の運営方針が出るので、差はもっと激しくなる。これは性格に合う施設を探さないと、母がかわいそうだ。

 ひとつ、「ここなら母に合いそうだ」ということで兄弟の意見が一致したグループホームがあった。自宅から近すぎず遠すぎずの郊外の畑の真ん中に立地しており、窓からの眺めも悪くない。近くには保育園があって、幼児との日常的な交流もある。なによりも、「老人を管理する」ではなく「一緒に暮らす」という方針で、なにをしてもあまりうるさく規則、規則と言わないという運営方針が母にぴったりに思えた。が、ここも、ご多分に漏れず満員で、空きがない。

 入居申請はいくつもの施設に同時に提出しても良いので、ここを含めて全部で5つの施設に入居申請を出した。そのうちひとつは、2017年4月開所予定の、大型の特別養護老人ホームだった。一気に100人の定員を埋めるので、比較的入りやすいだろうと思われ、この新設ホームが最後の希望になりそうだった。

母、恐るべきヒキを発揮する

 介護施設の入居は、「申し込んだ順番」に入居するというものではない。

 入居申請の書類には、どのような状況で入居を希望するかを記入する。各施設は定員に空きがでると、入居希望者の状況を比較し「もっとも困っていると判断した人」から入居させていく。前回書いた通り、特別養護老人ホームも、グループホームもどこも順番待ちは長い列で、回ってくるまでかなりの時間がかかると思われた。見学ではいつも「運が良ければすぐ入居できますが、そうでない場合もあっていちがいにこうとは言えません」という説明だった。

 特別養護老人ホームは、2015年4月の制度改正で、それまでは要支援2の人から入居できたものが、要介護3以上でないと原則入居できなくなった。このため、現在ではいくらか待機期間が短くなっているそうだが、2017年1月の段階では、個々の施設の現場で「入りやすくなりました」と断言してくれるところはなかった。

本連載、ついに単行本化。
夏の帰省前に、ぜひお読み下さい。

 お待たせいたしました。ご愛読いただいている「介護生活敗戦記」が『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』として単行本になりました。

 非常に実践的(なんせ、著者自身のPDCAの塊ですから)、かつ、ノンフィクションならではの迫力で一気に読める本です。担当編集者の私自身もそうですが、老いていく親を気遣いつつ、日々の生活に取り紛れてしまい、それでもどこかで心配している方は多いと思います。そういう方は、「いざというとき」を恐れつつ、松浦さんと同じように事態を直視するのがイヤなので、介護のハウツー本を読む気にはなりにくいし、もし読んでもリアリティがなくて、「あ、そういうことなのか」と腑に落ちるのは、なかなか難しい。

 その点、この本は、老いた親を持つビジネスパーソンが、いざ介護となったときにどう態勢を構築するかを学ぶための、リーダビリティと実用性を併せ持っていると思います。実際、この本を校了してから、私、田舎に帰省して、さっそく超活用してしまいました。やっぱり、「通販の箱」がたくさんありました!

 そして、まとめて最後まで読むと、この本が原題とは大きく改題された理由もお分かりいただけるのではないでしょうか。単なる介護のハウツーを語った本ではない、という実感があったからこそ、ややセンチな題となりました。

 どうぞお手にとって改めてご覧下さい。夕暮れの鉄橋を渡る電車が目印です。よろしくお願い申し上げます。(担当編集Y)

---------読者の皆様からのコメント(その1)---------

●とてもリアルなレポートで、同居する母の事を考えると、とても考えさせられました。

●対策として何をすべきか、よりはずっと、介護する側される側の心が平穏か、が介護では肝要です。何をするかの本は多くても、ご自身の心がどう傷ついていったかを冷静に記したものはやはり多くないです。

●松浦さんのような勇気を持てるか、実行力を持てるか。全く自信がない。せめて、自分が被介護の立場になったとき,だれも「敗戦」を味わわずに済むように祈るのみだ。

●本人はいくつになっても女性で、私はいくつになってもその子供。認知症になって初めて、家族という内側でなく外側から見る視点が要ることに気づきます。

●日本の未来に確実に迫っている「老老介護の惨劇」を少しでも減らすためにも、このような本音の介護実録が多くの方に周知されることを望みます。

●すごくよくわかる、肉親だからこそ難しい。どうでもいいことで、言い争いになる。肉親の介護は、人生修業そのもの。

●私自身の経験と重ね合わせて涙が出てきました。これから介護される側になろうとしている年代の人たちこそ是非ともこのコラムを読んで欲しいと思います。

●冷静な文章ながら時々感情的になったりしつつ、松浦さんの葛藤と苦労が手に取るようにわかります。

●敗戦記。なるほど。戦いなんですね。認知症の家族と共に暮らすこと。自分も父母がそうなれば、真正面からぶつかってしまうかも。プロの手を借り口を借り、一緒に上手く生きたいから、学ばせていただきます。

●この連載が、広い世代のビジネスパーソンが読む、日経ビジネスオンラインという媒体で連載されていることの意味は、本当に大きいと思います。

●ただの介護のぐちではなく、著者の心の葛藤とお母さまへの愛情、色々と思案されているお姿が微笑ましくもありご苦労も伝わってきます。

(連載にいただいたコメントから引用させていただきました。ありがとうございます)

コメント11件コメント/レビュー

本当の苦労は当事者にしか理解できないでしょうが、それでも自分が当事者になった場合を想像するだけで暗澹たる思いが湧いてきます。殺人だって引き起こしかねません。

介護現場にロボット技術が導入できないと、もはやマンパワー不足で介護現場が悲惨なことになりそうです。熱意や善意だけでは解決できないことは明らかです。

賛同してもらわなくても結構ですが、(強制ではなく)希望する人には安楽死を選択できる社会的な制度が欲しいと考えております。 自分の介護で家族が苦しむことは耐えられないです。(2017/08/06 15:30)

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「母、我が家を去る」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

本当の苦労は当事者にしか理解できないでしょうが、それでも自分が当事者になった場合を想像するだけで暗澹たる思いが湧いてきます。殺人だって引き起こしかねません。

介護現場にロボット技術が導入できないと、もはやマンパワー不足で介護現場が悲惨なことになりそうです。熱意や善意だけでは解決できないことは明らかです。

賛同してもらわなくても結構ですが、(強制ではなく)希望する人には安楽死を選択できる社会的な制度が欲しいと考えております。 自分の介護で家族が苦しむことは耐えられないです。(2017/08/06 15:30)

本当にお疲れ様でした。
これから介護に挑まれる方々の参考になります。
私も参考にします。(2017/08/04 00:30)

現在、50代後半独身男で母親(認知症)を介護中(3年目)です。境遇を自分に重ねながら毎回、拝読しています。高齢者は急激に体力や記憶がなくなるため、先手を打ってるつもりでも、やっぱり遅かったかと、私も敗戦続きです。でも、たまに見せる母親の嬉しそうな顔だけが今のよりどころです。本文の中に何度も出てきましたが、ケアマネージャーさんの力と訪問介護をしてくれる人柄で本当に状況が変わります。(私は1度ケアマネージャーさんを喧嘩し、変更しました・・・というか勝手にやめられました)。なんとかグループホームに入居できてよかったですね。まだまだ大変だと思いますが、ご自分の体をいたわって頑張ってください。そして、この本をまだ必要でない(と思っている)方々(特に親元から遠隔地にいる)に、呼びかけを行ってください。介護の準備時間はないことを。(2017/08/03 18:21)

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