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介護生活を支えてくれた鉄馬、AX-1

バイクとシネコンが精神を持たせてくれた

2017年8月7日(月)

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 グループホーム入居から、この7月で半年。

 母は新しい環境に馴染み、それなりに楽しそうに過ごしている。表情は私と家で暮らしている時よりも柔らかくなった。

 家では、今までできていたことがひとつひとつ出来なくなり、自尊心が傷つくことの連続だったのだろう。しかしグループホームでは、なにか失敗をしても介護という仕事を心得たプロが、十分な設備を使って対応してくれる。

 ただひとつ、健康面を気遣っての薄味の食事には慣れてくれない。

 私は毎週面会に行っているのだが、そのたびに「ご飯がまずい。味が薄い」と不満をぶつけられる。これには職員さんも、かなり閉口しているようで、笑顔ながら「ご飯がまずいって言われると、けっこうぐさっと来るんですよー」とのこと。それはそうだろう。息子としては、口に戸の立たない、不肖の母で申し訳ないとしかいいようがない。

あんたは海原雄山か

 施設の行事で、鰻丼が出た時など、「これは本物の鰻ではない。本当の鰻丼はこんなものではない」と演説を始めたそうだ。あんたは海原雄山か、それともそのモデルとなった北大路魯山人か。

 幸い、母のいるグループホームは、事前に連絡を入れておくと、差し入れの食事を持って行って一緒に夕食を食べることができる。だから近いうちに母が好きだった鰻屋のうな重を持って差し入れに行こうと思っている。今やニホンウナギは絶滅すら危惧されているが、83歳の老婆のあと何回あるかも分からぬ夕食の1回に割り込ませても、罰は当たらないだろう。

 失禁は、どうにもならないところまで進んでしまった。

 私が面会に行った目の前でも、度々失敗する。これだけでも、もう自宅での介護は無理だったのだ、と実感する。肉体も徐々に衰えつつある。6月には軽い脳梗塞を発症して1週間入院した。幸い手当てが早かったので後遺症は残らなかったが、もういちどやってしまったら、きれいに回復するかどうか、自信はない。

 母は、後いかほど生きるのか、残る時間でどれだけの喜びを得て、この世を去ることになるのか。私には分からない。が、今の母を見て思うのは「余生とはこういうものなのだろう」ということだ。

 ガンでこの世を去った父は、最後の最後まで自分の意志で何事かをしていた(「父の死で知った『代替療法に意味なし』」)。父には余りの生はなかった。最後の瞬間まで、あくまで「自分の人生」だった。

 どちらが良い人生なのか――もちろん最良は、98歳で没する3日前まで評論の原稿を書き、現役の音楽評論家として仕事をし続けた吉田秀和さんのような生き方であろう。が、今のところ誰もがそのように人生を全うできるわけではない。

本連載、ついに単行本化。
「親は元気だ」と思いつつ、不安を抱える貴方のための本です。

 お待たせいたしました。ご愛読いただいている「介護生活敗戦記」が『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』として単行本になりました。

 非常に実践的(なんせ、著者自身のPDCAの塊ですから)、かつ、ノンフィクションならではの迫力で一気に読める本です。担当編集者の私自身もそうですが、老いていく親を気遣いつつ、日々の生活に取り紛れてしまい、それでもどこかで心配している方は多いと思います。そういう方は、「いざというとき」を恐れつつ、松浦さんと同じように事態を直視するのがイヤなので、介護のハウツー本を読む気にはなりにくいし、もし読んでもリアリティがなくて、「あ、そういうことなのか」と腑に落ちるのは、なかなか難しい。

 その点、この本は、老いた親を持つビジネスパーソンが、いざ介護となったときにどう態勢を構築するかを学ぶための、リーダビリティと実用性を併せ持っていると思います。実際、この本を校了してから、私、田舎に帰省して、さっそく超活用してしまいました。地域包括支援センターの方にお願いして、「母親が近親者に言わないこと」をヒアリングして貰ったり。

 そして、まとめて最後まで読むと、この本が原題とは大きく改題された理由もお分かりいただけるのではないでしょうか。単なる介護のハウツーを語った本ではない、という実感があったからこそ、ややセンチな題となりました。

 どうぞお手にとって改めてご覧下さい。夕暮れの鉄橋を渡る電車が目印です。よろしくお願い申し上げます。(担当編集Y)

---------読者の皆様からのコメント(その3)---------

●とても参考になります。だんだん衰えていく親の姿を見るのは、わかっていてもつらいですね。それでも献身的に介護される姿は素晴らしいです。脱帽です。

●母は要支援2で認知症でもありませんが、これから先どうなるかわかりませんし、いつも松浦さんのご経験をわが身に置き換えて考えております。他人には言いづらいことを書いてくださり、ありがとうございます。

●本連載、松浦さんの宇宙開発系の記事と同じ、地道な取材・体験を基にされており、心を打つものです。いろいろと大変とは思いますが、頑張ってください。期待して読まさせていただきます。

●環境に合わせる臨機応変タイプの体験談は、話として面白くても実務には殆ど役に立たないのに対し、このコラムは多くの人にとってとても参考になる。お身体を大切に、どうぞ書き続けて下さいますよう。

●もう駅前で配ろうかと思うほど本当に素晴らしい連載です。日経さんには、類似の個人体験共有の連載追加を検討していただきたい!

●読んでいる方も時折辛くなるような内容ですが、これが事実なのでこのような包み隠さない率直な記事は良いですね。日経が内容をマイルドに編集せずに取り上げているというのも好感が持てます。世の中きれいごとではないという一場面をまざまざと見せつけることは、好き嫌い関係なく必要でしょう。人間というものが脳という物理的な状態によっていかに影響を受けるかという事を正面から見直すきっかけにしてほしいものです。

●このコラムは介護のバイブルです。

●人が職場で思うとおりに働くには、必ず誰かの助けがある、ということを、この連載を読む人にわかってもらえたらと願います。当たり前な日常は、あっけなく崩壊するものです。

●松浦さんの記事はふんだんで分かり易い背景説明で具体性に富んでいます。介護は人それぞれ様々な形になると思いますが、この記事は大変に参考になります。今後ともどうぞ頑張って、また記事執筆も継続して欲しいと思います。

●妹さんはお母さん譲りのしっかりされた方であることが良く判りました。良いご兄弟に恵まれたこともお母さんの功績かもしれませんね。

●敗戦記とありますが、、認知症について知り、現実と照らし合わせ始めてからの作者様の動きの良さは、流石と思いました。

(連載にいただいたコメントから引用させていただきました。ありがとうございます)

コメント15

「介護生活敗戦記」のバックナンバー

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「介護生活を支えてくれた鉄馬、AX-1」の著者

松浦 晋也

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション作家

科学技術ジャーナリスト。宇宙開発、コンピューター・通信、交通論などの分野で取材・執筆活動を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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