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三井物産、“老兵”が託すタマネギの苗

2016年3月30日(水)

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 大手商社、三井物産が揺れている。資源安が収益の屋台骨となるはずだった銅やLNG(液化天然ガス)の開発事業を直撃し、2016年3月期は最終損益が700億円の赤字(前期は3064億円の黒字)になる見通し。最終赤字は戦後に現在の三井物産が誕生して以来、初めて。総合商社はビジネスの領域をどのように広げようとしているのか。3月末で物産を去る“老兵”が、後進に託すタマネギが一つの解になりそうだ。

 老兵の名は浅居誠雄(63)。北海道支社業務室主管を最後に3月31日付けで定年退職を迎える。浅居が最後に任された仕事が、「地域に根差した産業振興」だ。国内支社の限られた陣容や予算では小麦やトウモロコシなどの一般穀物を扱うのは困難。そこで北海道産タマネギ「さらさらゴールド」の育種に全力を注いだ。2014年秋、90トンほどだが、初めての収穫を果たす。

 さらさらゴールドは、もともと農業ベンチャーが試作していた品種で、「味」に加え「機能性」を売り物にしている。血糖値を整える効果が高いとされる「ケルセチン」を他の品種よりも1.5~3倍多く含み、糖尿病や認知症を抑える効果が期待されている。浅居は「2016年は300トンを売り出し、2017年には1000トンの供給体制が整う。これが最後のご奉公と、タマネギの味と機能性の二正面作戦で市場を開拓できると思った」と振り返る。

TPPで関税ゼロ、「機能性」を強みに

 折しも、日本の農業は歴史的な転換点を迎えている。日本を含むTPP(他環太平洋経済連携協定)傘下12か国は2016年2月、協定に署名。4月から承認案などが国会審議入りし、2017年以降にも発効する見通し。タマネギは1kg 67円以下のものに8.5%の関税が課されており、TPPの協定発効後6年目でゼロになる。そうなれば安価な中国産に市場を侵食されることは必至。日本産のタマネギが勝ち残るには、圧倒的な機能性で価格差をカバーするしかない。

 浅居は言う。「さらさらゴールドはタネから手掛けているのでライバルがいない。いわば機能性タマネギの元祖として先行者利得が狙える」。その味はサラダなどの生食用はもちろん、肉じゃが、カレーなど加熱して食べてこそ甘味が引き立つという。大手牛丼チェーンの担当者が視察に訪れたが、あまりにタマネギの甘みが強く、かえって牛丼のタレが負けてしまうからと採用を見送ったほどだ。

 「草の根からじっくり育て、パートナーと連携して市場を創っていく」。こうした浅居の商魂は、日本農業が最も見習うべきところでもある。日本農業に目を向ければ「おいしいから売れる」「安全・安心なら高い値段を付けてもいい」といたプロダクト・アウトの発想が今もまかり通っている。「TPPをきっかけに、顧客が望む商品を供給するマーケットインの発想に転換できるかどうかが求められている」(浅居)。

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「三井物産、“老兵”が託すタマネギの苗」の著者

清水 崇史

清水 崇史(しみず・たかし)

日経ビジネス記者

98年早稲田大学大学院修了、通信社を経て日本経済新聞社に入社。証券部で機械・プラント、海運・空運などを中心に取材。2013年4月から日経BP社に出向。総合商社、金融マーケットを担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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