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広島演説当日、プーチン大統領が激怒した理由

米ロの相互不信の根源「NATO拡大せず」の密約はあったのか

2016年6月10日(金)

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オバマ米大統領が被爆地の広島を訪問し、改めて「核なき世界」の実現を訴えた。しかし、米ロの核軍縮交渉は停滞したままだ。その背景には北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大をめぐるロシアの根深い対米不信がある。
5月27日、被爆地の広島を訪れ、改めて核廃絶を訴えたオバマ米大統領(写真:代表撮影/AP/アフロ)

 「核保有国は恐怖の論理から脱し、核兵器のない世界をめざす勇気を持たなければならない」――。5月27日、オバマ米大統領が被爆地の広島を訪れた。米国の現職大統領として初めての歴史的な訪問だった。自ら推敲(すいこう)を重ねたという17分間に及ぶ「広島演説」の肝はやはり、オバマ大統領が唱え続けてきた核廃絶への訴えだった。

広島演説の当日、怒りをぶちまけたプーチン大統領

 まさに、その当日のことだ。米国と並ぶ核大国であるロシアのプーチン大統領は、ほかならぬ米国への強い怒りをぶちまけていた。「我々の話を誰も聞こうとしないし、誰も交渉をしたがらない」。ギリシャを訪問し、チプラス首相との首脳会談後の共同記者会見の場だった。

 プーチン大統領が問題視したのは、米国が主導する欧州でのミサイル防衛(MD)計画だ。米国はそのために、米ソが1972年に締結した弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から一方的に脱退し、「国際的な安全保障の基盤を弱体化させた」(大統領)。さらに、今年5月にはMD計画の一環としてついに、ルーマニア南部で地上配備型の迎撃ミサイル発射基地の運用を始めた。ポーランドでも同様の発射基地の建設を進めており、大統領は「ロシアの核戦力を脅かす」とかみついたのだ。

 米国がABM制限条約からの脱退を通告したのは、ブッシュ前政権下の2001年末のことだ。その翌年に失効した同条約まで改めて持ち出して米国を批判したのは、MD計画がいよいよ、ロシアの安全保障を揺るがす現実の脅威となったという危機感からだろう。

「核なき世界」への痛烈な皮肉

 ロシアもこの間、手をこまぬいていたわけではない。欧州のMD計画は「イラン対策」という米側の説明を受け、ロシアも構想の代案を提案したことなどもあった。ところが、米国はロシアの提案を受け入れなかった。これが「我々の話を誰も聞こうとしない」と憤るプーチン発言の背景だ。

 「(米国は)イランの核計画の脅威に備えると言ってきたが、その計画は今、どこにあるのか。イランの核合意を主導したのはまさに米国ではないか」とプーチン大統領。MDをめぐるロシアの対米不信は募る一方だ。

 もちろん、オバマ大統領の唱える「核なき世界」と、欧州のMD計画は直接には関係しない。だが、米ロは2010年に調印し、翌年に発効した新戦略兵器削減条約(新START)以降、核軍縮で全く歩み寄れていない。その最大の要因がまさに、MDをめぐる対立だ。ロシアはこの計画が「自国の核抑止力を無力化する」と反発し、米国との新たな核軍縮交渉に応じていないのだ。

 その意味で偶然とはいえ、オバマ大統領の「広島演説」の当日にぶち上げたプーチン大統領の対米批判は、「核なき世界」への痛烈な皮肉だったともいえる。

コメント10件コメント/レビュー

米露の膠着状態の解消に,安倍首相の役割は大きいですね。
プーチンさんの怒りも理解できる。現在ボールは米国にあり,ロシアの経済制裁を何時解除するかにかかっていると思われる。核兵器の使用は相互に壊滅的損害を生じ,使えないがバランスを崩さないために無駄を続けている。
ロシアもEUも互いに侵略することはないが,中間小国の民主化EU移行が露の懸念事項であり,ロシアがより民主化すれば止まる。これがG8の復活につながり,中国の暴走が止まる。
クリミアの露併合は既定事実でウクライナ紛争も信頼関係次第。
オバマさんが露制裁解除をなぜ出来ないか? バルト3国と英国のロビー活動でロシア脅威を誇張していないだろうか?米露の信頼関係回復に安倍さんの役割は大きいと思います。(2016/06/18 17:07)

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「広島演説当日、プーチン大統領が激怒した理由」の著者

池田 元博

池田 元博(いけだ・もとひろ)

日本経済新聞社編集委員

1982年、日本経済新聞社に入社。90~93年にモスクワ特派員、97~2002年にモスクワ支局長。その後、ソウル支局長(05~08年)も歴任。08年から論説委員会に在籍。編集委員も兼務。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

米露の膠着状態の解消に,安倍首相の役割は大きいですね。
プーチンさんの怒りも理解できる。現在ボールは米国にあり,ロシアの経済制裁を何時解除するかにかかっていると思われる。核兵器の使用は相互に壊滅的損害を生じ,使えないがバランスを崩さないために無駄を続けている。
ロシアもEUも互いに侵略することはないが,中間小国の民主化EU移行が露の懸念事項であり,ロシアがより民主化すれば止まる。これがG8の復活につながり,中国の暴走が止まる。
クリミアの露併合は既定事実でウクライナ紛争も信頼関係次第。
オバマさんが露制裁解除をなぜ出来ないか? バルト3国と英国のロビー活動でロシア脅威を誇張していないだろうか?米露の信頼関係回復に安倍さんの役割は大きいと思います。(2016/06/18 17:07)

ロシアが一方的に正しいということでもないと思うが、少なくとも、マスコミは、かなり偏った報道をしていることは確かだ。こういう構図は、米国の得意な戦略であることを知っておくべきだと思う。先の戦争でも、似たようなことがあったと思われる。今現在も米国の意向に従って動いていることが多々あると知った上で、どうすべきか考えないといけない。(2016/06/14 16:35)

「恐怖の均衡」「敵への憎悪による結束」相変わらず人間の本性のおぞましくも切ない現実を見せられたようだ。プーチンの激怒は一面で全く正しいし,政治力学上も賢明な発言だ。そしておそらく,彼の本心に根差しているから説得力がある。よくぞこの記事をあげてくれた。これが世界の現実なのだろう。「恐怖」と「憎悪」が世界のいたるところで支配を広げてきているように見える。オバマの発言はそんな人間の限界,あるいはフロンティアに挑戦しようとするものだったと信じたい。プーチンもオバマも本音を語った。次は互いに話し合い,人類の「叡智」と「理性」が「恐怖」と「憎悪」にどこまで対抗できるかを見せてほしい。そのお膳立てをできるポジションに安倍首相はいるのではないか。「恐怖」と「憎悪」に(あるいは「で」)対応する為の憲法改正に走るだけではなく。人類史に足跡をとどめるような偉大な「努力」を成しうる「理性的意志」を安倍首相に期待したい。まずは,プーチン大統領をヒロシマに招いてみてはどうか。彼は強い,同時に「優しさ」も持っているはずだ。もし違ったら,「野生の証明」を見てもらうのもよいかもしれない。きっと「ロシアの心」を思い出してくれよう。大統領としての義務が保てる範囲でだろうが…(2016/06/13 12:14)

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