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「アメリカで人を雇うこと」のリアル

副社長と対立、手打ちは“未来の話”で

2016年6月21日(火)

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 5月19日、副社長のラースさんと人材採用について、大きく意見が食い違う。

 僕たちは、最近カリフォルニア州サンノゼ(米国本社)とテキサス州ヒューストンで人材採用を始めたのだが、ヒューストンで技術営業(テクニカルマーケティング)として採用しようとしていた人が求める給与水準が、(少なくとも僕の感覚からすると)とても高かったのだ。

 ラースさんが間に入って、彼との賃金交渉を引き受けてくれていた。多少給料が高くとも、事業のスピードを上げるために採用しようとラースさんは言うが、僕はどうしても納得できなかった。

「NOはNOだ!」

「ラースさん、ダメだ、こんな金額払えない」
「加藤さん、人材は需要と供給だ。ヒューストンでパイプ点検の仕事が生まれつつある。彼がいてくれればすぐさま仕事を任せられるだろうし、ここは先方の言い値をのむしかない」
「ダメなものはダメだ。サンノゼオフィスの日本人エンジニアが、一体いくらで働いてると思ってるんだ」
「加藤さん、アメリカと日本は、給与の考え方が違う。アメリカの給与水準が高いのにも、理由があるんだ」
「違うのは分かってる。ただ、どの角度から見ても、ヒューストンの彼にはそれだけ金を稼ぐ力がないと言っているんだ。交渉してダメなら、他を当たろう」
「スピードを上げるために採用して、使い物にならなかったら、クビにするというオプションがある。それがアメリカなんだ」

 話は平行線をたどり、お互いだんだんヒートアップしてくる。

「NOはNOだ!」
「じゃあ、いくらならOKなんだ」
「だから何度も言っている通り、この条件なら飲めるがそれ以上は飲めないってことだ。無い袖は振れない。それだけだ」
「そんな金額じゃ、彼は来ない」
「交渉してみなきゃ、分からないじゃないか」
「分かった。それじゃあ、加藤さんが今後の交渉を引き受けてくれ」
「もういい。僕が交渉を代わるから。後で、こっちからヒューストンに電話をかけるよ」――

 僕たちが日々行っている事業開発の活動は、順風満帆というには程遠い。長い時間をかけてアポを取ったお客さん候補に会えたとしても、「ロボットが御社の配管をですね…」と話を始めれば、実際には相手にされないこともしばしばだ。

 人材採用も、思った通りには進まない。とはいえ、ベンチャーというのはこういうものなのだということを、少なくとも僕たちは知っていた。高い志と、絶え間ない情熱だけが、僕たちの毎日を支えている。

 しかし、ラースさんと僕、お互いが、新しい技術を使った市場形成という、ある種非常に強い曖昧性の中で、日々焦燥感のようなものと戦っていることは事実であり、こうした焦燥感が、前向きな情熱と表裏になった高いエネルギーレベルを飲み込みながら、一触即発の事態をも作っていくのだ。

副社長のラースさんは目標を共有するパートナー。意見が合えば前に進むし、合わなければ徹底的に議論する

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「「アメリカで人を雇うこと」のリアル」の著者

加藤 崇

加藤 崇(かとう・たかし)

加藤崇事務所代表

1978年生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京三菱銀行、KPMG日本法人、技術系ベンチャー企業社長などを経て、2013年、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTをグーグルに売却し、世界から注目を集めた。スタンフォード大学客員研究員(兼任)

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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