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最終回にあたって

2015年8月6日(木)

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今回取り上げるのは――
風の果て』藤沢周平著

 長くお読みいただいた連載も、今回でいったん区切りとしたいと思います。前回申し上げたように、足掛け4年、45回、あと5回やってもと思いますが、きりがいいとかえって戻ってこようと思わなくなるのでちょうど良いかなと思います。またいつかどこかで形を変えてお目にかかれればと思います。

 最終回にあたって、どの本を選ぼうかいろいろ考えて、藤沢周平氏の本書に落ち着きました(というか、どうしようかと考えていて、たまたまこの本を読み返し、これにしようと決めました)。

 今はどうか知りませんが、一時期よく「一平二太郎」ということが言われました。3人とも他界されてしまいましたが、中年ビジネスマンに人気の作家が「藤沢周平、司馬遼太郎、池波正太郎」という意味です。実際、前職のコンサルティング会社の社長は、飲みに行く度に「司馬遼太郎は全部読め」と言っていました。

 私もご多分に漏れず『鬼平犯科帳』から始まり、お三方の本は随分読ませていただきました。特に、再びアメリカに渡った1996年からテニュアをとる2006年までは、昼間は英語の論文と格闘して、夜布団に入ってから「今日は一章だけ」「明日は休みだから二章でも大丈夫」と、いじましいくらいに大切に読んでいた時期が長くありました。日本から取り寄せるのも限りがありますので、同じ本を何度も読んでいました。

 そうした中で、特に繰り返し読んでいたのが藤沢周平氏のものです。これも亡くなられた翻訳家の常盤新平氏がどこかのあとがきで、「毎年年末に必ず読む」と書かれていましたが、私の場合も、例えば『用心棒日月抄』シリーズなど何十回も読んでいます。「何度も読んだのに」と思いながら、読み始めてみると引き込まれてしまう経験をされた方は私以外にも多いのではないのでしょうか。

 単なる「忘却力」(老人力?)のなせるわざだという意見もあるかもしれませんし、「だからオヤジの頭は古くて、発想が広がらない」のかもしれませんが、一方で、2回3回ならともかく、なぜこんなに何回も読める本があるのでしょう? 「作家の筆力」はもちろんですが、本書の紹介の前にもう少し考えてみました。

「ふつう」だから飽きない

 こんなことを改めて考えたのは、ある外食チェーンの役員さんから「マクドナルドとゼンショーの失敗についての考察を書いてほしい」という依頼があったこととも関係します。外食のように流行り廃りの激しい業界では「○○が飽きられた」「新しいものを出し続けないとダメ」といった評論があるのですが、よく考えてみるとその裏側には必ず「定番メニュー」が存在します。その役員さんは「吉野家やゼンショーは牛丼という単品であれだけよく売れているのに、なぜわざわざメニューを広げて、オペレーションを複雑にしているのか分からない」とおっしゃっていたほどです。

 「奇想天外」という言葉があります。「驚くほどスゴイ」という客引きのフレーズだと思いますが、結局「飽きる」のは「奇想天外」だからです。最初は「驚く」わけですが、それがなくなれば(慣れれば)何の価値もないからです。逆に言えば、何度も食べられる定番メニューのように、何度も読める本とはある意味「ふつう」で、身近な話題を取り上げていたりすることは多くないでしょうか? そして、読む度に発見があったり、気づきがあったりするのです。誰にとっても「日常」はあり、いや人生の99%は「日常」だと思うのですが、日々の喧騒の中で流されたり、自己嫌悪に陥ったりして「自分の日常」を忘れてしまうことはよくあります。そんな時に、「ふつうの人が生きる喜びや悲しみ」に出会うと、自分の母港に帰ったようにほっとするのです。「ふつうの自分」でいいんだと気づき、少し勇気が出るのです。

 「芸術とは、(見たり、読んだりする人に)『そうそう、それが言いたかったんだ』と思わせること」と言ったのはトルストイですが、大切なのは「読者が気づく」ことです。人は、自分で答えを見つけたり、気づいたりする時に感動します。そして、自分の生き方を見直したり、あるいは新しい行動をしてみたりしようという気になるのです。これみよがしの「答え」を与えられても、その時はスゴイ思うかもしれませんが、すぐに忘れられてしまいます。経営関係の書籍で長く読み続けられるものが少ないのは、そんなところと関係がある気がします。

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「このコラムを読んで「行進したい気持ち」になりましたか?」の著者

清水 勝彦

清水 勝彦(しみず・かつひこ)

慶應義塾大学大学院教授

東京大学法学部卒業。ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D)。戦略系コンサルティング会社のコーポレィトディレクションを経て研究者に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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