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「遺言」を聞き出す前にやるべきこと

2016年8月25日(木)

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 この連載も、いよいよ最終回を迎えます。これまで、ビジネスに関わる場面ばかり取り上げてきましたが、対話が大切なのはプライベートも同じです。むしろ、配偶者や子供など、身近な人の話を聞くほうが難しいくらいです。夫婦の会話がない、親子の会話がないという話もよく聞きます。身近な人との対話がうまくいくかどうかは、人生の幸福度に大きく影響します。そこで今回は、身近な人の話を聞く時のポイントについて考察したいと思います。

「遺言」をどうやって聞き出すか

 初めから重たいことを書きますが、どうかご容赦ください。この連載をしていて、たくさんの方からいろいろなご質問をいただきました。その中で、この問い合わせがとても印象深かったので、今回取り上げたいと思います。

 高齢化が進む中で、遺産相続が話題に上ることが多くなりました。その現場では、「当事者が、なかなか遺言を残そうとしない」ことが問題になっているようです。「何か遺言を聞き出すための方法はないか?」とお考えになるのでしょう。私に問い合わせてきたのは、まさにそうした問題に直面している方々でした。

 結論から言うと、遺言だけポンと聞き出すようなやり方はお勧めしません。「営業で顧客の無理な要求に振り回されないために」の回でお話ししたように、未来のことを聞く前に、まず現状を認識することが必要です。遺言は未来のこと(自分が亡くなった後のこと)を語るのですから、その前にご本人のこれまでの人生についてゆっくりと聞いて差し上げるのが先ではないでしょうか。

 「年上の部下とわかりあう術」の回でお話しした「ライフストーリー・インタビュー」をぜひ実施してみてください。高齢で経験豊富な方の場合、7~8時間以上かかるかと思います。話す側も聞く側も結構な重労働ですが、それだけの価値があります。「これまでのこと」を話し終えた後に、自然とご本人の口から「今後のこと」についてお話が出るはずです。

 ライフストーリー・インタビューは、企業経営者の世代交代でも有効です。私は以前、80代で現役経営者だった方にインタビューしたことがあります。これまでの経験から、まる1日かかることは覚悟していたのですが、結局3日間ほどかかりました。インタビュー内容は、私が自ら書き起こし、文章を整えて差し上げたのですが、その内容を読み終えて、その方は静かに引退を決意されました。私としても、とても思い出深い仕事の一つになっています。

「聞くこと」は意思決定の後押しにつながる

 実は、「聞くこと」は意思決定の後押しにつながるのです。あれこれと話をすることで、自分の状況が冷静に認識できて、考えがまとまり、気持ちも整理できます。そうすることで、無理なく意思決定ができるのです。人生の大先輩に、「遺言を残せ」「引退しろ」なんてとても言えませんよね。でも、静かにゆっくりとお話を聞いて差し上げることで、その大きな意思決定をサポートすることができるわけです。

 先日、サポーティブリスニングの研修を受けた方が、ご主人にさっそく試して「聞くこと」の効果を実感されていました。その方のご主人は、多忙がたたったのか体調が思わしくなく、顔色も悪くて、見るからに辛そうにしていたそうです。周囲も心配し、その方も「病院に行ったほうがよい」と盛んに言っていました。ところが、ご主人は頑として行こうとしない。そうしたタイミングで、当社の研修を受講されたのです。

 受講後、帰宅してから、その方はご主人の話をゆっくりと聞くことにしました。体調がどのように思わしくないのか、仕事にどんな悪影響が出ているのか。そして、自分自身だけでなく、周囲の人たちがどのように不安に思っているのか…。こうしたことを、ゆっくりと聞き続けたところ、急にご主人は「明日、病院に行ってみる」と言い出したそうです。

 その方いわく、「それまでずっと『病院に行け』と言っても行こうとしなかったんです。それが、1時間ほど話を聞いてあげたら、あっさりと自分から『病院に行く』と言い始めたので驚きました」とのこと。検査結果も問題なかったそうで、私としてもホッとしました。

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「「遺言」を聞き出す前にやるべきこと」の著者

辻口 寛一

辻口 寛一(つじぐち・ひろかず)

クロスロード株式会社 代表取締役 コミュニケーション・コンサルタント

コミュニケーション・コンサルタント。「サ ポーティブリスニング」を提唱。「聞くこと」 から始めて対話力を強化する教育と、それに よってホワイトカラーの生産性を向上させる コンサルティングを提供している。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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