ケーススタディ

「深層学習で逆転できるのかなと思っていたが、もう敗戦かもしれない」

(特集)「眼」が拓く深層学習ビジネス(4)

2017.08.10多田 和市

流通 通信・情報 運用・サポート コスト削減 カメラ・画像

様々な分野で深層学習を活用したビジネスが立ち上がってきた。しかし、東京大学大学院の松尾豊特任准教授は、「世界で勝てる感じはしない」と危機感を持つ。楽天の森正弥執行役員も「40歳ぐらいから下の若い研究者・技術者は、深層学習をコア技術と見ているのに、それより上の人たちは深層学習をツールだと見るにとどまり、メーンストリームと捉えていないことは問題になり得る」と語る。深層学習の活用で成功するにはどうすべきなのか。

※「特集(3)実用化間近、深層学習を活用した医療画像診断支援」の続きです。

 国内における深層学習ビジネスは、このほかにもたくさんある。例えば、ファナックや安川電機などは深層学習や深層強化学習などを活用して、バラ積みロボットや組み立てロボットの開発に取り組んでいる。

 この1~2年で、様々な深層学習ビジネスが次々と立ち上がっていくとみられている。

 そんな中、深層学習のインパクトと早期の実用化を数年前から訴えてきた松尾特任准教授は「深層学習ビジネスは出てくると思うが、海外に比べて日本は遅れている感じがする。国内はともかく、世界で勝てる感じはしないし、とても厳しい状況だ。そもそもICTでこれだけ負けたが、深層学習で逆転できるのかなと思っていたが、もう敗戦かもしれない」と強い危機感を抱く。

 なぜなのか? 松尾特任准教授は、「深層学習に一番強い20代後半から30代前半にかけての人材に意思決定が任されていないので取り組みが遅い。もう1つは、深層学習に関する日本語の情報が、英語に比べて圧倒的に少ない。だから日本にいる外国人研究者や技術者の方が深層学習をよく知っている。英語の論文がどんどん読めるし、深層学習に関する講義の動画もいっぱいある。情報格差がかなり広がり、少子高齢化で若者が減っていて、ICTをやる人が少なく、意思決定を任されていない。かなりやばい感じがする」と言う。

楽天技術研究所、外国人が8割

 松尾特任准教授の指摘に対して、楽天の森正弥執行役員はこう話す。

 「深層学習は感覚的に、登場したばかりのクラウドと同じだと見ている。当初のクラウドはサービスレベルが低く、反応が時々悪くなり、そもそもブラックボックスになっていたので、日本企業は導入をちゅうちょした。時代が変わってクラウドが世界的に普及したが、日本企業は出遅れた。クラウドはコア技術なのにツールだと見てしまったからだ。40歳ぐらいから下の若い研究者・技術者は、深層学習をコア技術と見ているのに、それより上の人たちは深層学習をツールだと見るにとどまり、メーンストリームと捉えていないことは問題になり得る。楽天では70以上の事業が走っているが、抱える課題を深層学習で解決できるのなら、どんどん使っていく」

 実際、楽天は深層学習を実ビジネスで活用している。例えば、フリマアプリ「ラクマ」に商品の画像を登録すると、深層学習による画像認識アルゴリズムが自動的にカテゴリーを割り振る。さらに、不正なアイテムかどうか検出する。「不正検知に深層学習を活用することによって、人海戦術に比べて約8割生産性が向上した」(森執行役員)と言う。

 CNNによる深層学習に、億単位の画像を学習させて大まかな画像認識アルゴリズムをつくり、次の段階でラクマに出品している商品画像を学習させて、ラクマの画像の判定を最適化している。

 楽天はこれまで、機械学習を活用して検索やレコメンデーション、広告の配信、需要の予測、在庫の最適化、クーポンの最適化をしてきた。深層学習のソリューションが適応できるのではないかという仮説の下に複数のプロジェクトを走らせている。森執行役員は「いい意味で想像を絶するアウトプットが出ている」とアピールする。

 昨年からサービスを開始しているドローンでの配達についても、着陸時の危険を避けるために人を認識する能力を高めるよう、深層学習の活用を検討している。ドローンに搭載する深層学習モジュールの電力消費量や重さの課題が解決できれば、すぐにでも活用する。

 楽天がユニークなのは、深層学習アルゴリズムの開発や活用については外国人社員の活躍が著しいことだ。「日本にいる外国人研究者・技術者の方が深層学習に関する情報を頻繁に収集して、扱いがよく分かっている」という松尾特任准教授の見方を裏付けるようだ。

 2012年から社内公用語を英語にしたり、外国人社員を積極的に採用したりしてグローバル化を進めている楽天の経営戦略が、深層学習人材の確保と活用に見事に生きている。森執行役員によれば、「(私が所長を務める)楽天技術研究所の約8割が外国人。様々な国の人を採用しており、Ph.D.(博士号)を持つ人が普通に応募してくる。給与もシリコンバレーやシンガポールの企業と比べられるので、グローバル競争になっている」と語る。

 なお、グループ企業の楽天生命保険でも7月1日に、保険業務をICTで変革する「インシュアテック(InsurTech)」の研究組織「楽天生命技術ラボ」を設立。深層学習の活用によって生命保険の申し込み方法や業務プロセスの改善を図っていく。顧客に対して様々な選択肢を用意し、利便性を高める。

 以上、深層学習ビジネスの動向を紹介してきたが、成功するポイントは、深層学習の活用によって目の前の課題を解決でき、効果がはっきり見えているかどうかだ。効果が期待できるのなら、経営陣を説得してどんどん前に進むべきだ。深層学習はコア技術と位置づけ、教師データの確保はもちろん、アルゴリズムの実装など、外部の人材をうまく生かしながらスピード感を持って取り組むべきだろう。最初のうちは精度が悪くても、効果が期待できるならどんどん進められる割り切りが求められる。深層学習の活用で出遅れると、致命傷にになることを認識すべきだ。

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