達人に学ぶ課題解決

破壊的イノベーションの脅威とは?

【短期集中連載】しゅんぺいた博士に学ぶイノベーション講座(2)

2016.07.04玉田俊平太=関西学院大学経営戦略研究科副研究科長

人工知能(AI)やIoT活用に取り組む企業の多くは経営や事業にイノベーションを起こすことを目指している。しかし、イノベーションとは何を指すのか。定義や手法が不明確なままでは成功はおぼつかない。イノベーションをテーマにした本短期連載の第2回は、「破壊的イノベーションの」を解説する(本記事はムック『この1冊でまるごとわかる人工知能&IoTビジネス』からの転載です)。

 本講座を執筆する、関西学院大学経営戦略研究科副研究科長の玉田俊平太氏は、イベント「D3 WEEK 2016」内で7月27日12~15時、「カーシェアリングで学ぶイノベーションの兵法~営業利益10億円超のタイムズのカーシェア責任者も登壇~」と題して講義をします(有料)。
 玉田氏は、日経ビジネスオンラインで「しゅんぺいた博士と学ぶイノベーションの兵法」を連載中です。

※連載(1)「イノベーションは何と訳すべきか」の続きです。

 近年、業界で大きなシェアを持っていた優良大企業が、新たに参入してきた企業の「最初はオモチャのようだった」製品にやられてしまうという事態が、多くの産業で繰り返し起きている。

 例えば、コンピューターの外部記憶装置であったハードディスク産業では、これまでに少なくとも6回のイノベーションが起きたが、業界の有力企業が、次の世代でもリードを維持できたのはわずか2回だった。逆に言えば、6回のうち4回は、新規参入企業が次世代製品の競争で勝利を収めたのだ。

 最近でも、made in japanが多くを占めるデジタルカメラにおいて、コンパクトデジカメの売り上げが急激に減少し、携帯電話付属のカメラに「破壊」されようとしている。

 通常、企業の競争においては、既存の大企業の方が有利な点が多い。既に顧客との関係を築いているので、顧客の要望を吸い上げやすいし、研究開発のための資金や人材も豊富だ。製造技術も確立しているし、販売網にしても、サービス網にしても、既に構築済みの既存企業の方が有利なのは言うまでもないだろう。もちろん、ブランド力だって、既存企業の方があるに決まっている。

 ではなぜ、これほど有利なはずの既存大企業が、様々な産業分野で、新たに参入してきた企業に「破壊」されてしまうことが繰り返し起きているのだろうか?

●3-1 今ある製品をより良く

 常識的に考えれば歴史のない新興中小企業が、歴史ある大企業と正面から競争して勝つのは至難の業だろう。実際、「今ある製品・サービスをより良くする」という競争において、既存の大企業は圧倒的な強さを示す。米ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授は、このような「今ある製品・サービスをより良くする=従来よりも優れた性能を実現して、既存顧客のさらなる満足度向上を狙う」タイプのイノベーションを「持続的(sustaining)イノベーション」と定義した。

 このタイプのイノベーションは、最も収益性の高い顧客に対して高い利益率で売れるため、既存大企業には、市場で積極的に戦おうとする強力な動機がある。だから、勝つのはほぼいつも、経営資源が十分にある既存大企業だ。多くの読者が「イノベーション」という言葉から連想するのは、この「持続的イノベーション」だろう。

●3-2 「オモチャ」が市場を破壊

 これに対し、破壊的(disruptive)イノベーションとは「既存の主要顧客には性能が低過ぎて魅力的に映らないが、新しい顧客(新市場型)や、それほど要求が厳しくない顧客(ローエンド型)にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品やサービス」をもたらすタイプのイノベーションだ(図5)。

図5 イノベーションの種類
出典:玉田俊平太著『日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』

 別の言い方をすれば、破壊的イノベーションから生まれた製品やサービスは、既存企業の主要顧客が重視する性能が低過ぎるため、「既存製品の主要顧客に見せても見向きもされず、『オモチャ』呼ばわりされるようなイノベーション」といえよう。

 「そんなばかな! 一時的とはいえ、性能が下がるようなイノベーションなどあるのだろうか?」

 と、いぶかる読者もおられるに違いない。だが、考えてみてほしい。世界を変えたイノベーションの多くは、破壊的イノベーションから始まっているのだ。

 例えば、ソニーによる最初の「ウォークマン」は据え置き型のステレオより音質が悪かったし、最初のマイクロプロセッサーは当時主流だったミニコンやメーンフレームよりはるかに性能が劣っていた。しかし今、多くの人々が音楽を聴く手段はヘッドホンステレオ(ウォークマン)に移行してしまったし、世界の大半のコンピューティングニーズはマイクロプロセッサーをベースとしたサーバーによってまかなわれている。

 また、最初は音楽プレーヤーに通話やメール機能を付けた程度のデバイスだったスマートフォンは、今や個人の情報処理の大半を担うキーデバイスに成長し、その主記憶容量は100ギガバイトを超えるまでに成長した。さらにはクラウドサービスの普及で、記憶容量の大きさが競争上意味を持たない時代すら来つつある。

● 3-3 「破壊的」を目指す

 だから、AIやIoT技術を使って新しいビジネスモデルを考える場合、既存大企業とガチで殴り合う持続的イノベーションの形に作り込んでしまうと、既存企業と同じレッドオーシャンの土俵の上で、血みどろの総力戦を繰り広げざるを得なくなり、得策ではない。

 大手優良企業の足をすくい、破滅に追い込んだのは破壊的イノベーションなのだから、AIやIoT技術を使った新しいビジネスモデルを考える際には、破壊的な形になるように留意すべきだろう。

●3-4 イノベーターのジレンマ

 持続的イノベーションで圧倒的な勝率を誇る大手企業には、一番重要な顧客の声に注意深く耳を傾け、その声に応えるべく、出されたアイデアの中から重要顧客を一番満足させるようなものを選び出し、資源を優先的に投入して、いち早く製品化することで、利潤を最大化するようなメカニズムが整備されている。だから、既存顧客の満足が向上するような性能向上(持続的イノベーション)の競争で負けることはまずない。

 しかし同時に、このメカニズムがあるが故に、既存主要顧客が求めず利益率も低い破壊的なアイデアは、中間管理職らによって排除され、そんなアイデアからは経営資源が取り上げられてしまう。

 そして、破壊的イノベーションの性能が徐々に向上し、主要顧客が求める性能に達した時になってから、押っ取り刀でそこに参入しようとしても既に手遅れ、無残に破壊的イノベーターに打ち負かされてしまうことになるのだ。

 このように、持続的イノベーションはうまくこなすことができるイノベーター企業が、破壊的イノベーションにはなすすべもなくやられて窮地に陥ってしまうことを、「イノベーターのジレンマ」と呼ぶ。

 そして、この現象は、既存大企業が経営判断を誤ったからではなく、合理的で正しい判断を繰り返した結果、起きてしまうということを理解してほしい。つまり、大企業は、「正しく経営されたが故に、破壊的イノベーションに打ち負かされてしまう」のだ。

 本講座を執筆する、関西学院大学経営戦略研究科副研究科長の玉田俊平太氏は、イベント「D3 WEEK 2016」内で7月27日12~15時、「カーシェアリングで学ぶイノベーションの兵法~営業利益10億円超のタイムズのカーシェア責任者も登壇~」と題して講義をします(有料)。
 玉田氏は、日経ビジネスオンラインで「しゅんぺいた博士と学ぶイノベーションの兵法」を連載中です。

※連載(3)「破壊的イノベーションはどうやって起こす?」へと続きます。

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