ソリューション速報

2500人が集まった学会で企業のAI活用を議論、「学習工場」やAIクラウド構想に注目

「2017年度 人工知能学会全国大会(第31回)」報告

2017.05.29多田 和市

第31回人工知能学会全国大会が5月23日から26日までの4日間、名古屋市の愛知県労働産業センター ウインクあいちで開催された。協賛企業が倍増したほか、東京大学大学院特任准教授の松尾豊氏が「学習工場」のコンセプトを打ち出すなど、企業活動を通じたAIの社会実装へ議論が深められた。企業のビジネスの情報収集、意見交換にも欠かせない大会となってきた。

深層学習で機械が「眼」を持つ

 4日間を通したプログラムの中で目を引いたセッションの1つが、「深層学習の爆発的な普及のために」だ。

 東京大学大学院特任准教授の松尾豊氏や、深層学習技術を武器にトヨタ自動車やファナックといった世界的大企業と資本業務提携しているPreferred Networks(PFN、東京都千代田区)の技術者である米辻泰山氏、UEI(東京都文京区)代表取締役CEOの清水亮氏、産業技術総合研究所の萩島功一氏が登壇して、それぞれの立場から深層学習の爆発的な普及について講演した。さらにPFN最高戦略責任者の丸山宏氏がモデレーターを務めて、登壇者がパネル討論した。

 松尾氏は深層学習を活用するための「学習工場」の構想について講演した。「深層学習によって機械は『眼』を持つことができるようになった。これは生物が眼を持ったカンブリア紀と同じインパクトがある」と強調した。

 松尾氏は、機械が眼を持つことにより、とりわけ農業、建設、食品加工の業務が劇的に改善するとの考えを述べた。例えば、トマトなどの収穫は人に代わりロボットが担えるようになるというものだ。

 松尾氏は「今まで機械には眼がなかったのでトマトがどこにあるのか分からず収穫ロボットはできなかった。眼を持つことでどこにトマトがなっているのが分かり、茎を痛めずに収穫できる。人手不足という大きな課題の解決につながる」と説明した。人手不足が深刻な建設業界などにとっても、機械の眼は大きな革新をもたらすという。

■深層学習技術の活用が見込まれる事業分野(松尾豊・東京大学大学院特任准教授)
◎介護施設や病院などの見守り・介護ロボット
◎医療(X線、CT、皮膚、心電図、手術ロボット)
◎警護、防犯技術
◎顔による認証・ログイン・広告技術、表情読み取り技術(サービス業全般に重要)
◎国家の安全保護、入国管理、警察業務、輸出入管業務における応用
◎防災系(河川、火山、土砂崩れを見張る)
◎重機系(堀削、揚重)、建設現場系(セメント固め溶接、運搬、取り付け)
◎農業系(収穫、選果、防除、摘花、摘果)
◎自動操縦系(ドローン、小型運搬車、農機、建機)
◎自動運転系、物流
◎産業用ロボット系(特に組み立て加工など)
◎調理系(牛丼、炊飯、ファミリーレストラン、外食全般)
◎ペットロボット系
◎片付けロボット(家庭、オフィス、商業施設)
◎新薬発見や新素材の開発(遺伝子の認識、分析、実験ロボット)
◎廃炉系(深海や鉱山、宇宙も含めた極限環境)

大企業は学習工場を持つべき

 松尾氏は学習工場の構想についても解説した。学習工場では、モノを高精度に認識できる学習済みモデルを作る。そのために学習工場にはデータを準備する環境、機械学習を使える高度な人材、高性能な計算機が備えられているイメージだ。「数億~数千億円、あるいは数兆円の投資規模になる」(松尾氏)と言う。

 実現のためには、高度なスキル・知識を持った人材である「学習職人」が少ないと松尾氏は課題を指摘する。大学での育成を急ぐほか、企業内研修、研修プログラムの提供、資格制度の創設などの必要性を説いた。

 松尾氏は論文「DEEP LEARNING(Adaptive Computation and Machine Learning series) 」(Ian Good fellow Yoshua Bengio, and Aaron Corville, MIT press 2016)から以下の文章を引用し、学習工場の必要性を具体的に説明した。

 「2016年の時点で、大体の目安として、教師ありの深層学習アルゴリズムは一般的に、カテゴリーごとに約5000のラベル付事例で、許容できる性能を達成。少なくとも1000万のラベル付の事例を含むデータセットで訓練すれば、人間の性能に匹敵する、あるいは超える」

■学習工場のイメージ(松尾豊・東京大学大学院特任准教授)

◎大企業がそれぞれ学習工場を持つ
――基本的には垂直統合の構造
――一部、水平分業も

◎学習工場は、基本的に産業(アプリケーション)ごとに分かれたもの
――産業ごとに必要なデータが違う
――必要なドメイン知識が違う
――例えば、医療画像のEnlitic、自動車のモービルアイ…

◎学習工場は、基本的にベンチャー型
――大企業の年功序列とは合わない
――優秀な若者が流れ込んでくる構造に

深層学習で線画に自動着色

 PFNの米辻氏は、同社の深層学習フレームワーク「Chainer」を使って線画および着色イラストを学習させたサービス「PaintsChainer(ペインツチェイナー)」の概要を講演した。米辻氏は「ペインツチェイナーはすごくシンプルなプログラム。ニューラルネットワークの入力と出力をユーザーに直結しただけだ」と解説した。

 その講演中に、イラスト投稿サービスのピクシブ(東京都渋谷区)と提携したことや、サイト上で手軽に絵を描いて共有できるサービス「pixiv Sketch(ピクシブスケッチ)」にペインツチェイナーの自動着色機能を追加し、講演当日の5月24日に提供を開始することを発表した。

 自動着色機能により、ユーザーが描いた絵や外部から取り込んだ画像において、AIがイラスト上の顔や洋服、風景などを認識し、自動的に色が塗られる。さらに線画上の任意の箇所に好きな色を指定して、自動着色することができる。

 米辻氏はこうした実例を踏まえて、「深層学習のアプリケーション応用は爆発的普及の可能性がある」と締めくくった。

GPUが足りない

 UEIの清水氏は「深層学習(の爆発的な普及)に必要なのは、学習データの生成、計算機資源、人材育成の3つだ」と話した。そのうえで「GPU(画像処理用半導体)が足りない」と訴えた。

 講演の冒頭で清水氏は「(世界的に有名なAI関連の国際会議である)NIPS(Neural Information Processing Systems)の(論文)締め切り目前に世界のGPUが枯渇した」という海外のニュースに言及。ネット翻訳で日本語化した文章をスクリーンに表示した。

 「先週、十分なGPUをオンデマンドで提供するためにトップのクラウドプロバイダーが苦労し、AI専門家はThe Registerに苦情を申し立てました。機械学習の主要な会議で研究論文が締め切りになったため、世界中のチームがクラウドでホストされたアクセラレータを借りてテストを実行し、時間外に作業を完了してイベントに参加させました。利用可能なGPU容量が一時的に不足していると言われています」(清水氏の講演資料から)

 研究者の間でどれだけのGPUが不足しているのか、清水氏は独自に試算した。それによると、「年間7000本程度の新規論文が発表されている。研究チーム1つ当たり平均10テーマとして、全体で10万ノード程度の需要がありそう。分散学習でさらに5~10倍を使うとして100万ノードの需要がある」。

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