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創薬中心にライフサイエンス分野のAI活用へ、京大・奥野教授らがコンソーシアムで研究進める

読者無料セミナー「ビッグデータ×AI×IoTが生み出す経済インパクトを生む年へ」報告記事(1)

2017.03.13岡田 有花=ライター

日経ビッグデータは2月27日、「ビッグデータ×AI×IoTが生み出す経済インパクトを生む年へ」と題した読者無料セミナーを開催した。読者無料セミナーを年4回開催しており、2017年の第1回の開催となる。

日経ビッグデータは2月27日読者無料セミナー「ビッグデータ×AI×IoTが経済インパクトを生み出す年へ」を開催した
Photo by Tsutomu SUYAMA

 日経ビッグデータは今年、創刊から3年を迎える。この3年で状況はどう変わり、今年は何に注目するのか。イベントの冒頭、編集長の杉本昭彦が語った。

 この3年、本誌のカバー範囲はビッグデータにとどまらず、人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)に拡大してきた。IoTデバイスでデータを収集したり、ビッグデータの解析にAIを活用する動きが広がってきたためだ。

 企業でのデータ活用も広がった。2015年は、顧客対応の高度化や工場の異常・不正検知など社内の一部署のみでの活用が中心だったが、16年には全社レベルに拡大。トヨタ自動車が「コネクティッドカンパニー」を設立し、日米で発売するほとんどのクルマをネット接続可能にすると発表するなど、大企業が全社を挙げて取り組む課題になった。

 17年は、社内だけでなく社外のデータも取り込み、より多様なサービスを提供できる方向に進化すると本誌は予測。民間企業が他社にデータを公開・共有することは簡単ではないが、社会課題の解決など「大義」があればデータを出しやすくなると考えており、(1)データ活用を地域の活性化につなげる「スマートシティ」や、(2)個人の健康データと病院の保有するデータを組み合わせ、病気の治療や健康増進に生かす医療・健康分野、(3)自動運転やカーシェアなどモビリティの分野で、データ共有や活用が進むと展望した。

 イベントでは、スマートシティ、健康・医療、モビリティ分野でのデータ活用について、それぞれ第一人者が講演した。

ライフサイエンス×AI――AI製薬の現状は

 「健康・医療」分野でのデータ活用について語ったのは、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻ビッグデータ医科学分野の奥野恭史教授だ。奥野教授は10年ほど前からAIを使った創薬を提唱してきたが、最近のAIブームで急に注目を浴びるようになったという。

京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻ビッグデータ医科学分野の奥野恭史教授
Photo by Tsutomu SUYAMA

 新薬は、基礎研究を始めてから臨床現場で使えるようになるまで10年以上、開発費は平均で1000億円かかるとも言われているが、“AI創薬”なら開発期間やコストを削減できると期待されている。「製薬業界は頭打ち。キラーツールをすごく求めており、1つの突破口としてのビッグデータやAI活用に期待している」と奥野氏は明かす。

 創薬は、病気の原因となるタンパク質の働きを抑える化合物を探し出す作業だ。人体を構成するタンパク質は10万種以上あるとされ、化合物の種類は10の60乗以上。製薬メーカーが保有している化合物ライブラリだけでも約10万パターンあり、タンパク質と化合物の組み合わせを全パターン実験で試すのは不可能だ。

 そこでAIの出番だ。タンパクと化合物の結合データをAIに学習させ、結合パターンをルール化。未知のタンパク質と化合物が結合するかを予測し、新薬候補の化合物を見つけ出す。仕組みはデジタルカメラの顔認識技術と似ているという。

 スーパーコンピュータ「京」を使った機械学習で388種類のタンパク質と500種類の化合物の結合パターンを予測し、実際の実験結果と照らしたところ「嘘のように酷似していた」といい、その実効性は確認済みだ。

 AI創薬でも化合物の化学構造は人間が考えていたが、これをコンピュータに考えさせる「次世代型」も検討している。AIで適当な化合物を生成し、タンパク質との結合度をAIでスコア化。スコアが高いもの同士で共通する化学構造を残し、その構造を持つ新たな化合物を生成する。この作業を繰り返し、タンパク質との結合度が高い新薬候補を絞り込んでいく。この考え方は、Googleの囲碁AI「Alpha Go」のアルゴリズムと似ているという。

コンソーシアムでAI開発を進める

 AIブームを受け、創薬に限らず、ライフサイエンス全般でAIの活用が課題になっている。ライフ系企業は「AI何ができるか分からない」と悩んでおり、IT企業は「どんなAIを開発すればいいか分からない」と悩んでいる状態。

 奥野氏はこれらの企業をつなぎ、新たなサービスやAI開発を後押しすべく「ライフ・インテリジェンス・コンソーシアム(LINC)」を設立した。ライフ系企業とIT系企業、京都大学、理化学研究所など研究機関がタッグを組み、様々な課題を解決するAI開発を進めている。現在、60社・団体が参加しており、約150のテーマを10のタスクフォースに分けて調査・開発しているという。

 ライフサイエンス分野でのAI活用は現状、米IBMの「Watson」の独壇場だ。「日本のITメーカーにも実力はあるが、医療業界の扉を自ら開けようとしない」と奥野氏は指摘。コンソーシアムを通じ、IT業界とライフ業界、アカデミアをつなぎたいとしており、参加を希望するIT企業を募っている。

※日経ビッグデータは2017年の2回目の読者無料セミナーとなる「BigData Conference 2017 Spring」を4月18日に開催する。テーマはAIのビジネス活用。詳細は公式サイトで。

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