今月のビジュアライゼーション

ECモールの通説「ロングテール」は本当か 機械学習による1億件の推計データで検証

2017.02.01吉野 順子=アドウェイズ

ビジュアライゼーション

販売数の少ないニッチな商品の売り上げを合計すると、ヒット商品の売り上げを上回る「ロングテール」。EC(電子商取引)業界では通説だが、その真偽をEC販売データ分析サービス「Nint(ニント)」で検証した。

 ロングテールの実態を検証するに当たり、今回、弊社が「Nint(ニント)」で提供する3大ECモール「楽天市場」「Amazon.co.jp(アマゾン)」「Yahoo!ショッピング(ヤフー)」の売り上げ・販売数推計データを用いた。分析対象としたのは、Nintにおいて、2016年1月~12月の3大ECモールで販売が確認できている1億件程度の商品データである(データ推計方法などは後述)。

 下のグラフを見てほしい。縦軸が各モールの全売り上げにおける比率(10%ごとにプロット)、横軸が商品数の比率である。アマゾンの場合、全販売実績商品の中で売り上げの多い上位10%弱の商品で、売上高の80%を稼いでいることが分かる。一方、楽天市場とヤフーでは、ほぼ同じ曲線グラフになっており、全販売実績商品中の上位20%弱の商品で、売り上げの80%を稼ぐ構造となっている。

3大ECモールにおける商品数と売り上げの関係
本グラフは、全商品のうち売り上げ上位の10%、20%…までの商品(横軸)が作る、全売り上げに占める割合(縦軸)を示している。黄色のアマゾンは、上位5%程度で売り上げの70%、10%程度で売り上げの80%を作っていると推測される

 つまり、3つのECモールに共通して、売り上げの少ないニッチな商品が商品数では大多数を占めるが、それらの売り上げを合計しても各ECモールの全売り上げの10%または20%程度の低い売り上げシェアにしかならない、という結果であり、通説とされるロングテールの事象とは異なる実態が明らかになった。

本はロングテールに近い

 その要因を掘り下げるために、各ECモールの主要商品カテゴリー別にも同様の分析をした(下のグラフを参照)。対象とした6商品カテゴリーは、「ファッション」「家電・デジタル製品」「スポーツ・アウトドア」「食品・飲料・お酒」「ドラッグ・ビューティ」「本」だ。このすべてにおいて、程度の差はあれ、少数の商品が大多数の売り上げを構成している、という結果となった。

 相対的には、3モール全ての「本」のカテゴリーで、売り上げ80%を占める商品数の割合が高く、ロングテールに比較的近い事象が確認できた。例えば、ヤフーの本カテゴリーでは、全販売実績商品の40%弱の商品数で売り上げの80%を生み出している。その対極が、アマゾンにおけるドラッグ・ビューティで、わずか9%程度の商品で売り上げの80%を稼ぐ寡占市場となっている。

売り上げ80%を作る商品数の比率
売り上げの大半(80%をラインに設定)を、売り上げ上位何%の商品数で作っているのかをカテゴリー別に比較した。「本」カテゴリーは比較的多くの商品で売り上げを作っていることが分かる

 なお、セールの影響などを探るために、月別、季節別の数値で傾向が見られないかも検証したが、こちらは特筆すべき傾向が見受けられなかった。

 企業が1ショップとして店舗を出店するモール型の楽天市場、ヤフーと、企業が商品を出品するマーケットプレイス型のアマゾンでグラフに多少でも差が出たことや、商品カテゴリーによって差が見られたことから、ECモールの形態やカテゴリーの特徴による傾向差はさらに分析の余地がありそうだ。

 なお、今回利用したNintでは、日本と中国の主要ECモールの販売推計データを提供している。毎日ECモールから数億ページ規模のデータを収集し、各商品のランキング、レビュー、販売価格などの情報に、機械学習で独自開発した予測モデルを掛け合わせ、ECモール別、商品カテゴリー別、メーカー別、商品別などで、売り上げ・販売数の推計値を算出している。

 予測モデルは、中国のEC販売データを基に開発したものである。中国のECモールでは、各商品ページに販売数を記載しており、Nintでは2009年から7年以上にわたり収集した中国ECモールの商品別販売数、ランキング、レビューから関係性を算出する統計モデルを開発。これを楽天、アマゾン、ヤフーごとにカスタマイズし、売り上げ・販売数推計に適用した。さらにNintを利用する数百社の顧客企業に対してアンケートで誤差を毎月確認し、推計精度を高めている。

吉野 順子 | Junko YOSHINO
アドウェイズ ゼネラルマネジャー。アドウェイズの中国・新興国における事業立ち上げ担当を経て、現在日本でデータ事業を担当

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