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人気ビアパブのオーナー兼醸造家は、ビールメーカー出身30代女子

「ビールのレシピは無限、ビールの可能性も無限」

文:金丸 裕子/ 写真:矢幡 英文 05.11.2017

大手ビールメーカーで醸造を担当していた金山尚子さんが、東京・北千住の「ブルーパブ(小さな醸造所のある店)」のオーナー兼醸造家に転身したのが1年前の2016年3月。折からのクラフトビールブームも追い風になり、パブは地元の人たちで夜遅くまで賑わい、醸造が追いつかない状況が続く。2年目を迎え、「ブームと共に忘れ去られる存在にはなりたくない。私のビールで、もっとたくさんの人たちにビールの魅力を伝えたい」と語る金山さんの細腕繁盛記。

以前は大手ビールメーカーで醸造を担当していらしたんですよね?

金山:2015年1月までアサヒビールで9年間お世話になりました。大学院で微生物を学んでいたので研究職を希望していたのですが、「お前は元気があり余っているから(笑)」と入社してから4年間はメガ・ブリュワリーで醸造の仕事、後半の5年間は商品開発に携わりました。世界には100を超えるビールスタイルがあるのですが、それを研究して商品化するプロジェクトに関われたのは大きな経験になっています。ドイツ、ベルギー、オランダ、スロベニア、米国など大小様々な国の醸造所に行き、ビールの歴史やレシピを勉強させてもらいました。「ビールってこんなにバラエティにあふれているんだ」と改めて驚きました。本当に面白い仕事でした。

“エネルギッシュな商店街”北千住にこだわり、困難を極めた物件探し

9年働いた会社を去り、街の「ブルーパブ(小さな醸造所のある店)」のオーナー兼醸造家になった理由は?

金山:「自分だけのビールを造りたい」という気持ちがどんどん大きくなっていったからです。海外で見聞を広めた影響もあり、英国やドイツのように地域に密着したブルーパブをやりたくなったのです。会社を辞めるまで相当悩みました。アサヒビールでの仕事は充実しているし、毎月きちんと給料ももらえる。やりたいことと安定との選択に時間がかかったのです。夫にもずいぶん相談しました。夫は、元同僚だったのですが、先に会社を辞めて独立していました。二人で話し合ううちに、「生活への不安はあるけれど、自分の店なら頑張った分だけ収入も喜びも戻ってくるんじゃないか」と思えるようになりました。「えいっ」と決心したら、行動に移すのは早かったですよ。

数カ月様々な街を見て歩き、店の場所は北千住と決めました。商店街も住宅街もあって、街のエネルギーがすごくいいのです。商店街には古くからの商店と若い人の店が共存し、近くの住宅街ではお年寄りもいれば、元気に駆け回る子供の姿も見かけます。ただし、北千住は人気の街なので、普通の探し方では物件自体が全く出てこなくて、この物件を見つけるまでは大変でした。元はシェアハウスだったのですが、オーナーさんが店舗にしたいと不動産屋に相談に行っているところにたまたま私が出くわしたのです。

知人に教えてもらってクラウドファウンディングを活用したおかげで、オープン前から応援団を持てたのも幸運でした。クラウドファンディングを通して143名の方がサポーターになってくださり、支援金113万6000円を集めることができました。返礼品のコースの中で最も高額だったのが、15万円の「オリジナルビールを醸造+ネーミング権」です。この権利を買ってくださったのがビール好きの30代の男性グループで、好みの味や色、飲みたいシーンなどをお聞きしてオリジナルのビールを作り、店を貸し切りにして味わっていただきました。支援のお礼としては、飲み放題つき貸し切りプラン、飲み比べプランなども用意しましたね。

店はオール手作り、醸造タンクが買えずラーメンの寸胴鍋で代用

店内は実に居心地のいい、クラフト感漂う空間ですね。

金山:クラフトビールの魅力は豊富な香りと味なのですが、マニアの方がビールと向き合って難しい顔をして飲むような店にはしたくありませんでした。地元の人たちが普通にビールを楽しめる開かれた店にしたかったので、リラックスできる空間を目指したんです。とはいえ資金がなくて、ガスや水回り、床のコンクリート張り以外はほとんど夫や仲間の力を借りて手作りしました。椅子はユーズドで、テーブルは工事現場で使った足場板を加工し直したものです。人の手に馴染んできたものを置いた方がくつろいでいただけると思うからです。

開放的で居心地のいい空間。人の体に慣れ親しんだ中古の家具をあえて選び、クラフト感を出した。ガラス越しに醸造タンクが眺められる仕掛けもビール好きの心をくすぐる

醸造タンクも専用のものを買えなかったので、ラーメン屋さんなどで使われる寸胴鍋の大きなサイズを用意し、それに醸造に必要なパーツを付けて使っています。タンクは6つなので、作れるビールも6種類。10日から3週間発酵させてお出ししています。

家飲み酒とも日記