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愚痴っていても何も始まらない 元宝塚歌劇団星組トップスター・北翔海莉

どんな環境でも自分を成長させる、“北翔流”思考法

聞き手:カンパネラ編集部 / 文:望月リサ / 写真:清水真帆呂 07.11.2017

元宝塚歌劇団星組トップスターで、2016年に歌劇団を退団した北翔海莉(ほくしょう・かいり)さん。その後はコンサートやショーを中心に活動を展開し、この9月には退団後初の主演ミュージカル『パジャマゲーム』に挑戦する。最終的に目指すのは「世のため人のため・北翔海莉」。新たな世界に踏み出した北翔さんに、現在の心境を聞いた。

宝塚を卒業してより男っぽくなった!?

──北翔さんが宝塚を卒業(歌劇団を退団することを卒業という)したのは昨年11月。そこから北翔海莉というひとりの女優として歩み出したわけですが、約半年が経過して、いまどんな心境ですか。

北翔:本当にやりたいことをやらせていただけている状態です。歌劇団にいた時には、宝塚だったり、男役だったりという“額縁”がありましたけど、そこから少し解放されて、自分がやってみたかったステージに挑戦させていただいています。とても充実した毎日を送っていますよ。

──卒業前にイメージしていたことと、何が一番違いました?

北翔:夢の世界、夢のステージをつくるということへの、感覚の違いというんでしょうか。宝塚では、あの夢のステージをつくるために、衣裳、照明、どれ一つをとっても一流の腕を持った方々が、細かい部分に至るまで本当に心を配ってくださっていた。そのことを外に出て、いまさらながらに実感しています。

まず、サポートしてくださっている人の数が全然違う。しかも、かゆいところに手が届くバックアップがある。例えば、宝塚にいた時には「ここでピン(ライト)が欲しい」と思ったところに、言わなくても当ててくださっていました。でも、それは当たり前のことじゃないんですね。夢のステージをつくり上げるという意識では、宝塚に勝るものはないと思っていたのですけれど。

──予想はしていたけれど、やはり外の世界は違う部分があった。

北翔:はい。でも、確かに物足りなさを感じる部分も少しありましたけど、いま新しい環境に身を置いて、すごく刺激を受けています。21年間の宝塚生活では挑戦したことのないジャンルのダンスに挑戦したり、経験したことのない振り付けや演出があったりして、最高に楽しい。振付家の方が、宝塚ではしなかったなっていうアイデアをくださって、自分が知らない自分自身を引き出されていると思います。

──宝塚ではできなかったこととは何ですか。

北翔:例えば、舞台の真ん中でドラムを叩くとか(笑)。退団後半年間は、一旦、お芝居やミュージカルから離れて、音楽とダンスだけのエンタテインメントショーをやってきました。そうしたかったんです。チャップリンのように、セリフがなくダンスだけでストーリーを紡いでいくダンスストーリーをさせていただいたりしました。

──宝塚のダンスとは、何か違いがあるのですか。

北翔:宝塚では、何と言うのかな、“魅せる”ことが主というんでしょうか。2番手くらいまでの役ではガンガン踊る場面があるんですけれど、トップになると意外にそういう場面はあまりないんです。登場したら“魅せて、はける”という感じなんです。

──確かに宝塚独特の見せ方がありますよね。

北翔:いまは容赦無くガンガン踊っています(笑)。お客様も「あの衣裳でそこまで踊るの?」って喜んでくださっているんですよ。あとはやはり、男性のダンサーが一緒にステージに立つところですね。女性とは違うダンスがある。ただ私、男性ダンサーについライバル心を持っちゃうんですよ。彼がやるとあんなにバシッとキマるのに、自分はそこまでカッコよくキマらないのは何でだろうって、ついつい見ながら研究してしまう。体つきが違うからだとわかっているんですけれどね。男役は卒業したのに、どっかで男性ダンサーには負けられないっていう自分がいるんです。だから、宝塚にいる時よりも男っぽくなったんじゃないかな。でも、そういう環境がいま最高に楽しいんですよね。

──卒業してより男っぽくなるって、あまり聞いたことがない(笑)。男性のダンサーに張り合ってしまうのは、男役を極めようとしてきた北翔さんの本能なのかもしれませんね。

北翔:もっと現役の時に、こういう人たちと組んで勉強すればよかったと思いました。

最終目標は「世のため人のため」、そういうエンタテイナーになりたい

──北翔さんというと「努力の人」というイメージがあります。もちろん、才能はあると思いますが、努力で現在の地位を築いてきた。例えば、急に宝塚音楽学校を受験して見事に合格した半面、そのぶん他の生徒に比べて、バレエや歌で後れを取っていた。そこから人の何倍も努力して、優秀な成績で学校を卒業し、最後は宝塚の実力派スターといわれるまでになった。歌もダンスも芝居も楽器も、すべてにおいて成果を出してきた。ご本人の明るい親しみやすい性格は人気の一つの理由でしょうが、トップスターになった時に、あれだけ多くの人が「北翔さんがなってよかった」と涙を流して歓迎したのも、北翔さんが自分を追い込んで自分磨きをしてきたことを皆が知っているからだと思うんですね。これまでたくさんのトップスターを見てきたけれど、こんなふうに組を越えて誰からも応援された人はそうそういなかったでしょう。

北翔:努力は私じゃなくても、皆さんしているんですよ。自分を磨くのは当たり前のことで、本来それは人に見せることじゃないんです。ただ、私の場合は周りの人があんまりにも言うから「北翔海莉イコール努力の人」って取り上げられちゃうだけで。

──努力なんてみんなしているじゃん、と。

北翔:当たり前のことで、本当は陰でやらなければならないんです。

──確かに成功している人は皆、努力していますね。宝塚を卒業してからは、頑張り方に変化はありましたか。

北翔:自分磨きという部分においては、何も変わらないと思います。ただ、磨くには磨くけれど、もっといろんな方向を目指してみてもいいのかなとは思っているんですよね。「あ、みっちゃん(北翔さんの宝塚時代の愛称)また新しいことに挑戦してるんだ」って、驚いたり楽しんだりしてもらいたいんです。びっくり箱のようになっていたい。

──宝塚の男役でもトップスターでもなく、「北翔海莉」としてやっていくとなった。こうなりたいという思いはありますか。

北翔:最終的な目標としては、エンタテインメントショーをやるエンタテイナーになりたいと思っているんです。舞台俳優というわけでもなく、テレビとか映画とかでもなく。それがどんな劇場でも、どっかの施設でも何でもよくて、歌って踊って人に元気を与えるようなことができればと思っています。

うちの母はちょっとダンスをやっている人で、老人ホームや介護施設を回っているんです。その姿が記憶の片隅にあるからなのかもしれません。車椅子のおばあちゃま方が、踊っている母を見て、少しずつでも自分も体を動かそうとしていたりする様子を見ていると、自分もこういうことができないかなって考えちゃうんです。仕事の全部が全部、大きいステージじゃなくていいから、そういう人たちに元気を与えたり、明日も頑張ろうっていう勇気を与えたりすることができるエンタテイナーになりたいというのが最終的な夢なんですよね。

──いまは「元宝塚トップスター・北翔海莉」という印象が強いと思いますが、最終的に肩書きは……。

北翔:「世のため人のため・北翔海莉」です。

──おおっ(笑)。

北翔:でも、ほんとそんな気持ちなんですよ。もちろん、まだまだ自分の引き出しにないものに挑戦していきたい気持ちはあるのですけれど、21年間自分磨きをして、いろんなものを得てきたのです。それが、誰かに力を与えたり勇気を与えたりできるということに気が付いた。だから今後は、誰かのために奉仕することを考えていきたいと思っているんです。

──それがエンタテイナーとしての目標というのが、北翔さんらしい。

北翔:最終的には、ですけどね。そのためにもいま、この2年くらいは、自分が作品を選ぶのではなく、皆さんからいただいたさまざまな仕事に、時間がある限り挑戦したい。自分が考えるより、皆さんのほうがずっと多くの新しい引き出しを用意してくださいますから、求められるがまま、とにかくやってみようと思います。

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