フード&テクノロジー

農業がデジタル技術で変貌 アグリテック最新事情

オイシックスのサポートによるイベント「N-1サミット2017」より

文/写真:高下 義弘 04.18.2017

農業がデジタル技術の力で大きく変わろうとしている。特に注目は生産性向上に寄与する「アグリテック」と言われる分野。オイシックスがサポートするイベント「N-1サミット2017」から、アグリテックの最新事情を探った。

東京や大阪などの都心部であっても、少し郊外に足を伸ばせば、ごく普通に見られる農村地帯。ここの田や畑が今、ICT(情報通信技術)と言われるデジタルテクノロジーの力で大きく変わろうとしている。

「今年のテーマはテクノロジー。農業にテクノロジーを導入することで、本当に大きく変わる」。こう語るのは、有機野菜や無農薬野菜のネット販売大手・オイシックスの高島宏平社長である。同社は毎年開催されている農業分野の総合会議「N-1サミット」をサポートしている。今年2017年は3月14日に開催された。

「農作物の生産や流通、そして保存など、あらゆる面で大きな革新が期待できる」「やる気のある農家さんがより楽に、そして満足度の高い生産ができるようになる」「日本の食卓に、安全な野菜がもっと手軽に供給できる」――。農業へのICT導入について、高島社長が掛ける期待は大きい(高島社長のミニインタビューは記事の最後に掲載)。

そんな農業へのデジタルテクノロジーの適用は、今どんな段階にあるのか。テクノロジーが農業をどう変えて、私たちの食生活をどう変えるのか。N-1サミットの目玉の一つであった有識者のパネルディスカッションから、変化の兆候を見てみよう。

ICTはやはり「役に立つ」

「N-1サミット2017」のパネルディスカッション「未来を変える最新アグリテックの今」の様子
ローカルランドスケープ代表取締役の川合径氏

「役に立っています」

パネルディスカッションの壇上でこう言い切ったのは、ローカルランドスケープ代表取締役の川合径氏。川合氏は沖縄県でカカオの生産・販売に向けて取り組んでいる。カカオの畑に農地用のモニタリングツール「KAKAXI(カカシ)」を導入し、気温、湿度、日射量などのデータを取得し、作物の様子を画像データとしても記録。これを栽培方法の改良に活用しているという。

カカオは亜熱帯地域で育つ作物で、日本国内での栽培は難しいとされている。「今はどうやったらうまく育つか、試行錯誤を重ねている段階。だからこそ、ICTで取得できるデータが大切だ」(川合氏)

作物の状態を目で見て確かめるのはもちろんだが、データを付き合わせて確認できるのが大きいという。川合氏は「栽培を始めてまだ1年ほどなので確定的なことは言えないが、この積み重ねで見えてくるものは大きいはず」と感触を語る。

中央の白い筒状の機器が農地用モニタリング機器「KAKAXI」である
フューチャアグリ代表取締役の蒲谷直紀氏

フューチャアグリ代表取締役の蒲谷直紀氏は「農業にICTを適用するメリットの1つは、農地や作物に関するデータが取れることだ」と語る。同社は農業用の自律移動する台車ロボットを開発し、農家に提供している。蒲谷氏は元・企業のエンジニア。過去にトマト収穫ロボットやブドウ栽培を支援する自走機などを開発し、農業ICT分野で注目を浴びている人物である。

一方で、ただデータを取得するだけでは意味がなく、「予実を見ることがポイント」(蒲谷氏)と付け加える。収穫量の予測と実際の収穫量の差を、データを参照しつつ見比べることで、どのように改善すればいいかが見えてくるためだ。

米KAKAXI(カカシ)の大塚泰造CEO

ICTのツールはロボットやモニタリング機器など複数の種類が登場し始めている。蒲谷氏は「農家さんご自身の経営段階を見極めて選ぶことが大切だ」と言う。家族経営の農家と、小規模の農園、大規模農場でそれぞれ有効な機器は異なる。「ご自身の経営のどこにボトルネックがあるかを見いだすことができれば、そこがICTの効果が特に発揮される領域だ」(蒲谷氏)

KAKAXIの開発元である米KAKAXI(カカシ)の大塚泰造CEOは「農家さんの頭の中に入っている暗黙知をデータ化できることが、農業ICTのポイント」と語る。「何となく実行しているコツがデータとして確認できれば、再現性が高まる。これが農産物の品質や収穫量の安定化を助ける」(大塚氏)