フード&テクノロジー

農と食の進化に“効く”、レーザー通信技術とは?

NTTグループのICT企業が農業に進出した理由

文/写真(特記なき写真):高下 義弘 06.13.2017

NTTグループでソフト開発などを担うNTTテクノクロスが、農業分野に事業を広げようとしている。足がかりは、レーザー通信技術。レーザーを照射して野菜の産地特定につながる情報を取得、併せて糖度や栄養などの品質情報を整理し、生産者、レシピ開発者、そして消費者の3者にメリットをもたらそうというのが狙いである。ICT企業が農業の世界で何をしようとしているのか。NTTテクノクロスに話を聞いた。

食品の産地偽装の問題がたびたび話題になっている。消費者としては「安全なものが食べられればそれでいい」という1点に尽きるが、それでも偽装の話題がニュースに出ると、目の前の食品はどうなのだろうかと気になるもの。育ち盛りの子供を持つ親であったり、あるいは購入したものが高価な野菜などであったりすれば、なおさらだ。

食の安全・安心に関心が高まる昨今、新たな解決策を提示しようとしているのが、NTTグループでソフト開発を中核にICT関係のサービスを提供する会社、NTTテクノクロスだ。NTTグループは、グループ内の研究所が持つレーザー通信技術を応用し、野菜の産地証明に役立つ技術を開発。NTTテクノクロスがその技術を軸に農業分野のサービスに育て上げようとしている。

NTTテクノクロスはその足がかりとして、ネット野菜の販売キャンペーンを展開中である。調理の時間を短くできるレシピと、そのレシピに合った野菜を提案し、同時に野菜の品質を明示するというキャンペーンを通じて消費者の反応を探り、農業分野のサービスに向けたアプローチや可能性を見定める。

キャンペーンで販売する野菜は生野菜1種類と冷凍野菜6種類で、千葉県で農園リゾートを運営するザファームがネット販売サイトと共に用意する。野菜を使ったレシピの開発は、レシピ提供サイト「ソラレピ」を運営するエス・アイテックスが担当。キャンペーン期間は2017年9月29日までの予定。サイト上の野菜紹介ページには、NTTテクノクロスにより野菜の品質が明示されている。

どうして通信技術が野菜の生産地の推測に応用できるのか。ICTの専業会社が事業を通じて農業に何をもたらそうとしているのか。NTTテクノクロスの酒井歩氏(フューチャーネットワーク事業部第一事業ユニット主任エンジニア)に話を聞いた。

NTTテクノクロスの酒井歩氏。手に持つのはレーザー技術で測定し、かつキャンペーンでも扱っているミニトマトの「あまばんか」
NTTテクノクロスの酒井歩氏。手に持つのはレーザー技術で測定し、かつキャンペーンでも扱っているミニトマトの「あまばんか」

水蒸気にレーザーを当てて産地の確かさを評価

──レーザー通信技術で、その野菜の産地がどの辺りかを評価できるそうですが、具体的にはどのようにしているのですか。

酒井:NTT持株会社の傘下にある研究所では、光通信用のレーザー光線技術を開発していました。この開発で蓄積してきた基盤技術を元に、ガスセンシング用のレーザー光源と、その応用技術を開発したのです。

これはレーザーガスセンシング技術と言って、二酸化炭素やメタンガスなど、空気中にあるガスの種類や濃度を測定するための技術です。レーザーガスセンシング技術は高速に測定できて、しかも精度が高いということで、気象の観測機関や、ガスのプラントなどで利用されています。

さらに転じて、この技術を安定同位体比の分析に適用する装置が開発されました。これが食品や飲料の産地を評価するのに応用できるということが分かってきました。安定同位体比の分析は、物質の起源に関する情報を推定するためによく使われています。

──地層や鉱物の年代を測定するために使われている手法ですね。

酒井:はい。この安定同位体比を計測する装置は、従来までは大型で、操作が複雑でした。でもレーザーガスセンシング技術を使うと分析装置が小型にできます。

どうやって野菜の産地を評価するのかを説明しますと、全国各地の雨水の安定同位体比を調べると、水分子の分子量が地域によって違うのが分かります。大まかな傾向としては、沖縄や九州など緯度が低い、つまり赤道に近い地域の水は「重い水」 です。逆に、東北や北海道など緯度が高い地域の水は「軽い水」となります。あるいは高原など標高が高い地域の水も「軽い水」です。

植物はその地域に降る雨水を取り入れて生育します。ですから、農作物に含まれる水分の同位体比と雨水の安定同位体比には相関関係があると考えられます。この関係性を通じて、農作物の産地を評価しようというわけです。

ただ、水分の同位体比の傾向が分かる、というレベルなので、産地が不明の野菜を持ち込まれて「この野菜の産地を当ててみて」と言われても、緯度をはじめとした土地の特性が推測できるというレベルで、具体的な産地の特定までは難しいというのが実際です。

一方で、農作物の生産者や流通業者による「うちの野菜の産地が確かにここであると証明したい」という声は多い。このような用途には十分に使えるレベルの精度です。

──ほかの糖度や栄養素などの情報はどのように取得しているのですか。

酒井:野菜の水分の安定同位体比を検査するときには、野菜を破壊して液体を抽出し、それを加熱します。そこで出てくる水蒸気にレーザー光線を当てて成分を分析します。破壊するので、一緒に液体から糖度や栄養素を分析します。

従来の安定同位体比分析技術は、検査結果を出すまでに数日必要だとされています。当社での分析は糖度や栄養素の分析を含めて、ほぼ即日で分析できるのが特長です。

分析工程の概要(提供:NTTテクノクロス)
分析工程の概要(提供:NTTテクノクロス)
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