じぶんマネジメント研究所

心のコップにネガティブを溜めないために

「勇気づける上司」になる方法・前編

文:高下 義弘 03.23.2017

いい仕事をしたいあなたに向けて、ヒューマン・マネジメントのヒントを送る本コラム。上司と部下のコミュニケーションを円滑にするために、まずは「勇気づける上司」になる方法を3回に分けてお伝えしたい。異動、昇進昇格、組織変更で何かと気ぜわしいこの季節、あらためて押さえておきたい“部下マネジメント”の要諦を、識者がアドバイスする。

人の心の中に、「心のコップ」というものがあると仮定する。人は不条理な仕組みの中に放り込まれると、心のコップの中にだんだんとネガティブな感情が蓄積されていく。置かれた状況が酷ければ酷いほど、心のコップに注がれるネガティブな感情の度合いは強くなる。

ネガティブな感情がコップに溜まるにつれて、人の心持ちは重たくなる。心持ちが重たくなると、どんなにポジティブだった人でも次第に考え方が暗くなり、ネガティブな独り言が思考を覆うようになる。「何をやってもダメだ」という無力感に襲われ、前向きな行動が取りにくくなる。

コップのたとえを出したのは、職場でのコミュニケーションについて考えてもらうためだ。毎年3月、4月は働く人にとって節目の時期。組織改革や異動、転職など、新しい組織に移り、不安や期待が入り交じった中で行動し始める人が多いことだろう。

40代はもとより、30代にもなればチームのリーダーを任されることが増えてくる。IT(情報技術)分野の会社であれば、20代で組織の長になるケースもめずらしくない。

一説には、組織内でのトラブルの9割は、コミュニケーション不足が原因だとも言われている。だからこそ大事なのは、やはりコミュニケーション。リーダーはメンバーとのコミュニケーションを円滑にし、メンバーの個性を把握しつつ、仕事に対するやる気を高めてもらい、チームとして成果を出せるようにしていくことが欠かせない。

「あなたは間違っていないという前提」に立つ

「特にリーダークラスの社員がコミュニケーションの取り方を変えると、がぜん職場の雰囲気は良くなります。個々人の成績はもちろん、チームとしての業績アップも期待できます」と語るのは、カウンセラーの中尾英司さんである。

中尾さんは会社員時代、企業で業務改革のプロジェクトリーダーとして活躍した。仕事のかたわら産業カウンセラーや家族相談士などの資格を取得し、現在は家族カウンセラーとして虐待、いじめ、不登校、引きこもり、ハラスメントといった家族にまつわる問題の解決や個人の自律支援に従事している。著書には親子間の課題を記した書籍のほか、業務改革の経験を踏まえたビジネス書もある。

「まずは部下の気持ちを受けとめることに徹してみてください」と上司に向けてアドバイスする。「あなたは間違っていない、という前提に立って、とにかくいろいろな思いや感情を吐き出させるんです。これが部下との関係づくり、ひいては組織づくりの基盤になります」(中尾さん)

「気持ちを受けとめる」「あなたは間違っていないという前提」とは、一体どういうことか。中尾さんは会社員時代のエピソードを使いながら、解説してくれた。

中尾さんは支社のある部署に新たに配属されることになった。その部署は「課長は優秀だが、部下が全くダメで、組織が機能していない」と本社から見なされていた。そこで中尾さんは課長補佐として配属されたのだが、いざ部署に来てから中尾さんの目に付いたのが、部下の問題というより、本社から優秀だと見られていた課長の問題だった。

この課長は、マネジメント層にはいい顔をして成果が出ているように見せかけ、その実、部下にはハラスメント(嫌がらせ)をするという「パワハラ上司」の典型例だったという。

この部署では、1人の社員に責任を持たせるのが合理的と考えられる業務を、複数の社員に分散して受け持たせていた。「課長による『誰もが問題に対応できるようにする』という意図からそうなっていたのですが、仕事がきちんと任されないがために、社員の仕事に対するプロ意識や当事者意識が削がれる結果を招いていました」(中尾さん)

課長の完璧主義が逆効果になっていた格好である。中尾さんによれば、人の完璧主義的な行動の裏には、心の奥底に積み重なった不安感が隠れていることが多い。

そのうえでこの課長は、仕事ができない社員をいびっていた。これでは、社員は萎縮する上にやる気を失う。結果、さらに業務で問題が発生するというネガティブループが起きていた。