じぶんマネジメント研究所

イチローを褒めることが、あなたにはできるか

「勇気づける上司」になる方法・中編

文:高下 義弘 03.27.2017

いい仕事をしたいあなたに向けて、ヒューマン・マネジメントのヒントを送る本コラム。今回も「勇気づける上司」になる方法をお伝えする。前回は部下の「心のコップ」に着目して、ネガティブな感情を溜め込まないようにする方法をアドバイスした。今回は「上から目線」ならぬ「横から目線」の重要性についてお話ししたい。

前編からの続き)

「人がその可能性を活かして健全に生きるためには、他者に受けとめられる体験が欠かせません」

カウンセラーの中尾英司さんは、会社員時代の経験と家族カウンセリングの経験の両方を踏まえて、そう語る。

父親や母親から存在そのものを認められ、まさに「受けとめられて」育った子供は、問題行動を起こしにくく、困難を自分で乗り越えようとする。逆に、「受けとめられ体験」がない子供は大人になってから“問題上司”としてハラスメントを起こしたり、あるいはバーンアウト(燃え尽き)に陥ったりする。

会社組織にも同じことが言えそうだ。上司がどんと構えて、普段から部下の気持ちを受けとめるようにしていると、部下は安心して前向きな気持ちになる。すると、上司がとやかく指図しなくても自ら考え、自ら行動しようとする。

「エンパワーされ(力が付けられ)、活性化される組織になれば、そこにいるメンバーは気持ちよく働ける。個人も会社もハッピーになります」(中尾さん) 。そのような組織を作ることこそが、リーダーのすべきことであり、またリーダーという職務ならではの喜びといえるだろう。

「勇気」とは劣等感を克服する活力

リーダーがメンバーの気持ちを受けとめるコミュニケーションを心がければ、そこで働くメンバーはエンパワーされ(力が付けられ)、強い組織へと変わっていく――。

中尾さんは家族カウンセラーとしての視点も交えつつ、いわば「エンパワーされる組織」の基本的な考え方と、コミュニケーションと組織の間にある関係性を提示してくれた。

部下をよりエンパワーするコミュニケーションの方法について、 「横から目線で勇気づける」という考え方で語っているのが、人事・組織分野のコンサルタントで心理カウンセラー、そしてビジネス書作家の小倉広さんだ。

小倉さんは管理職や経営幹部の経験を元にした多数の著書があり、『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』(日経BP社)など、著書の累計発行部数は100万部を超える。

「上から目線で操作するのをやめて、横から目線で勇気づける。これが職場におけるコミュニケーションのあり方の基本だと考えます」(小倉さん)

小倉さんが推奨する「横から目線の勇気づけ」とは、どんなものか。この話を理解するためには、基盤となる「アドラー心理学」の考え方を頭に入れておくとスムーズである。

アドラー心理学はアルフレッド・アドラーという20世紀初頭に活躍した心理学者が提唱した体系のことである。2013年から2014年にかけて、『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健、ダイヤモンド社)などの書籍が相次いで話題となり、いわば「アドラー心理学ブーム」が起きた。そのため名称自体は知っているという人も多いはずだ。

このアドラー心理学では、「人は誰もが劣等感を持ち、それを克服しようと自ら対処する存在である」という前提を置いて、人の心理を考える。

困難から逃げて言い訳をする人物が目の前にいたとする。あなたはどう思うだろうか。だいたいの場合、「みっともない」と感じるのではないだろうか。その人物が自分の直属の部下だったり、実の子供だったりしたらなおさらで、叱ったりけなしたくなったりするかもしれない。

アドラー心理学では、難しいことを避けたり、できない言い訳をしたりするのは「困難を克服する活力が不足しているからである」と見る。逆に、活力さえあれば、自ら困難に立ち向かおうとする、と考えるのだ。

前提にあるのは、先に挙げた「人は劣等感を克服しようと対処する存在である」という考え方だ。そして劣等感から逃げずに、建設的に克服しようとする心の活力のことを「勇気」と定義している。

勇気に溢れた人は、自分の力で課題を克服しようと建設的行動を起こす。具体的には、努力、学習、協力といった行動だ。一方、勇気がない人は課題に向き合わず、逃避的な態度をとる。具体的には、逃避、言い訳、攻撃的態度である。

そのためアドラー心理学では、「勇気づけ」という相手に活力をチャージする行動を極めて重視している。

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