じぶんマネジメント研究所

だれもが「縦の関係」の犠牲者だ

「勇気づける上司」になる方法・後編

文:高下 義弘 03.29.2017

いい仕事をしたいあなたに向けて、ヒューマン・マネジメントのヒントを送る本コラム。「勇気づける上司」になる方法の後編は、質問によるコミュニケーション術、叱責や嫌味ではない形での励まし方について。アドラー心理学に学びつつ、イノベーティブな会社にするための秘訣をお伝えしたい。

前回のコラムでは、「横から目線による勇気づけ」がテーマだった。こうした勇気づけは「アイ・メッセージ(私目線の言葉)」と言い、相手を尊重する気持ちがよく伝わる。

アイ・メッセージは「主観伝達」とも言い替えられる。人事・組織分野のコンサルタントである小倉広さんは、アドラー心理学を応用した上司・部下間のコミュニケーション法の一つとして、この主観伝達の後に「質問」を投げかけるというスタイルを推奨している。

例えば、部下の仕事が遅れているとする。主観伝達と質問による部下とのコミュニケーション例は、こんな具合である。

「お願いしてある仕事は、明日の夕方までに間に合いそうかな。進捗を見ていると、ちょっと心配だなぁ。お客さんは待ってくれているから、迷惑をかけたくない(主観伝達)。さあ、スピードアップするために、今から出来ることは何だろう? 私に手伝えることはないかな?(質問)」

「主観伝達」と「質問」の組み合わせが効果的

前回の中編でも触れたが、アイ・メッセージは発した本人と受け手との間で共感が生まれやすく、相手が自律的に判断できる雰囲気が醸成されやすくなる

質問は、相手の主体的な考えを引き出すのに役立つ。「それでは○○が良いかと思うので、やってみます」といった具合に部下自身の行動を誘発できれば、本人の自律性をさらに高める効果も期待できる。

この質問にはいくつかのバリエーションがある。一つは「もしかしたらこのやり方だと時間がかかるから、期日までに終わらないかもしれないよ。どうしようか?」などと未来を示唆する方法。もう一つは「こういうやり方もあるけどどうかな」と、適切と思われる別の方法を提案する方法である。具体的な提案をする場合でも、相手の自主性を尊重するために、本人に選択させることがポイントだ。

反対に、手順を丁寧に教えることはアドラー心理学の観点からは望ましくない。「本人が自分で考える機会を奪うことになる」(小倉さん)からだ。「短期的に見れば、やり方を教えたほうが早いのですが、中長期的には部下の考える力が育たない。つまり、中長期的には遅くなるのです。また、勇気づけにもならないので、自力で問題解決するための活力が上がらない。後々、上司自身の首を絞めることになります」

多くの上司は「そうは言っても質問なんてまどろっこしい」と感じるかもしれない。それに対して小倉さんは、「上司の仕事は、短期と中長期の目標の両方を実現することです。短期を重視するやり方ばかり選択していては、人も組織も弱体化します」と指摘する。「それでは上司自身が経営層から失格の烙印を押されてしまいます。まどろっこしいと感じても、短期のスピードを上げながら、中長期にわたる人材育成も実行する。そのバランスを自分で探していくのが大切です」

「論理的結末」と「復活のチャンス」

「相手を信頼し、尊重し、相手の活力を高め、そして自分の力で課題解決できるよう支援する。これを意図しながら、コミュニケーションをとってみてください。これが『横から目線の勇気づけ』の狙いです」(小倉さん)

それでも部下が失敗し続けた場合にはどうすべきか。小倉さんは叱責や嫌みを言うのではなく、「論理的結末」を体験させることが大切だと説く。これもアドラー心理学のセオリーに基づくものだ。

論理的結末とは、「事前に相手とルール設定や取り決めをしておき、相手にはそれに従った結果を体験させる」という考え方である。例えば、仕事でミスが続くようであれば担当替えをする、無理のない妥当な数値目標なのに達成できないのであれば人事考課を下げるといった、ルールや取り決めに基づく「当然の帰結」をそのまま体験させるというものだ。

「本人が『約束を守れないとどうなるか』を実体験で学ぶことになります。次回からミスを防いだり、目標を達成するよう、自分から工夫や努力をするようになります。人は“上”から与えられたやり方では、何も身に付きません。自ら工夫し実践して初めて実になります」(小倉さん)。

叱責や嫌みが“御法度”である理由は、「事前に取り決めをした論理的結末が“罰”であると受けとめられ、人間関係で一番大事な信頼関係が崩れてしまう」(小倉さん)からだ。信頼関係が壊れた後では、いくら相手を支援しようとしてもうまくいかない。

論理的結末を体験させる際に、繰り返しになるが叱責や嫌み、さらには「だから言っただろう」といった教訓めいたほのめかしは厳禁である。小倉さんは、失敗した部下には明るく、カラリと「残念だったね、次回は頑張ろう。きっとできるよ」といった具合に、期待と信頼を伝えることが適切だと説明する。また言葉だけでなく「“復活のチャンス”を与え続けることが欠かせません」とも付け加える。

論理的結末は、部下から見ても納得性が高い仕組みでなければならない。「『遅刻したら会議に出席できない』というものであれば納得できますが、『遅刻で腕立て100回』は納得できません。あくまで合理的で納得性のある結末を用意することが大切です」(小倉さん)

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