じぶんマネジメント研究所

あなたの組織は「疲れているクマ」ではないか?

組織を生態系として見る「関係性システム」からのヒント

文:高下 義弘 05.16.2017

“星座”を見ながら組織そのものの声を出してみる

この2つの図を見ると、何が分かるのですか。

佐藤:システム・コーチングでは「その人自身や関係性システムに答えを生み出す力がある」という考え方をとりますので、何が分かるかというのは本当に人によって様々です。ただ言えることとしては、多くの場合、コンステレーションに取り組んだリーダーの内側では、自分のチームについていろいろな気づきが起きます。

誰と誰の関係性が強くて、誰と誰が対立しているのか。誰がチームの中心的な存在で、誰の影が薄いのか。もちろん能力のあるリーダーであれば何となく把握している内容ですが、あらためて図化すると、深い気づきが起きます。さらに、現状と理想型という2つの図を並べてみれば、その差と対比がよく分かります。そうすると、現状と理想のギャップを埋めるためには何が必要かが発想しやすくなります。

図の中に立つと分かる、「自分の組織は疲れたクマ」

佐藤:その次の段階としては、「組織の感情を体験する」ということもします。

それはどのようなものですか。

佐藤:リーダーには、現状の図を床に大きめに描いてもらい、その“星座”を見ながら「このシステムそのものになり切って、自分の状態を感じて、声を出してください」とお願いします。これもケースバイケースですが、「疲れているクマのようだ」といった具合に何かに例えて表現する人もいれば、「疲れた」「だるい」「もっと動きたい」などとつぶやく人もいたりして、興味深いものがあります。

「疲れた」というつぶやきは分かりますが、「疲れているクマ」とは面白いですね。

佐藤:リーダーにはそれまで思いもつかなかったような気づきが起きる場合があるんです。そこまでイマジネーション豊かでなくても、“星座”のど真ん中に座り込んで、腕組みをして長考する人は多いです。もうそろそろ、とお声がけしても、なかなかその場から離れなかったりします。

「自分の組織は疲れているクマだ」と感じたリーダーは、どんな風にマネジメントを変化させるのでしょうか。

佐藤:お客様のことなので具体的な説明はできませんが、情報を置き換えたりしながら、あるケースをご紹介したいと思います。

以前、ある企業に対して、社長以下の役員クラスにシステム・コーチングを提供しました。この社長はいわゆるワンマン経営者で、自分で何から何まで決めていた。この社長には、コンステレーションを含めた色々なワークを体験してもらいました。

その後、この企業と私どもは縁が薄くなってしまったのですが、人づてに聞いたところ、最近この会社では、以前では考えられなかったような権限委譲が少しずつ、実施されているそうです。それでこれまた人づてで聞いた話なのですが、この社長があるときに、何気なく「おれも疲れているんだよ」とつぶやいていたそうなんです。

企業がある一定規模から拡大したいのであれば、部下への権限委譲は避けて通れません。おそらくこの社長はその必要性が分かっていながら、自分のやり方にこだわりがあったのか、なかなか踏み出せなかった。

ところがシステム・コーチングで「自分の感情」や「部下の感情」そして「自分が経営している会社の感情」を自覚したことによって、踏み出せなかった一歩を踏み出せるようになった。このように考えられます。

感情というフィードバックが経営者を変えた

感情という社長へのフィードバック情報が、社長の「分かっていてもできない」というカベを乗り越えさせたわけですね。

佐藤:当たり前ですが人間には感情があって、その感情のパワーというのはものすごく大きい。いろいろな形で人の行動に影響します。なのに現状、組織のマネジメントではだいたい無視されています。

合理的かつ理知的なマネジメントが優位とされる外資系企業のような組織でも、「あのリーダーは気にくわない」という感情的な理由で部下が動かないというケースが多々あって、しばしば問題になっています。

そのためか、組織マネジメント関係の学会などでは、社員の感情の問題をどう扱うか、あるいは「組織の感情風土」とも言うべき、集団が持っている感情をどう扱うかというテーマが、今注目を浴びているんです。

感情の状態が安定していてポジティブな気分だと、大変な状態でも「何とかやってやろうか」という気になりますよね。逆に感情が不安定でネガティブな気分に陥ると、本来できるものもできない。そのくらい感情は人の動きを左右しますよね。

佐藤:おっしゃる通りです。マネジメントの世界では感情が無視されがちですが、そうではなく、自分も含めたチームの感情に着目すると非常に役に立つはずです。

責任感の強いリーダーほど、自らの感情を押し殺します。部下の感情面も無視します。つまり、「自分はどう感じているのか」「部下はどう感じているのか」という視点が保ちにくくなってきます。そうなると、理屈だけで策を立案し押し通そうとする傾向がますます強まって、だいたいの場合、組織の動きに無理が生じます。

部下はみんな疲れていて、組織全体がまさに「疲れているクマ」になっているにも関わらず、リーダーだけが無理に頑張って、部下の尻を叩く。これではネガティブループに陥るだけです。

システム・コーチングでは「RSI(関係性システムの知性)」という概念を提唱していまして、リーダーはこれをコンピテンシーとして身に付けると、より良いマネジメントができるとしています。RSIとは「チームが何を感じているのか」をくみ取る知性という意味で、心の知能指数とも言われる「EQ(感情的知性)」や他者の感情を正確に読みとる「SI(社会的知性)」などに近しい概念です。

組織マネジメントの分野で近年よく指摘されていることですが、やっぱり「組織はリーダーの鏡」なんです。単純な話、リーダーが不機嫌だとメンバーがおびえて、リーダーがだれているとメンバーの動きも甘くなる。このような“鏡”である組織の状態を認識する能力がRSIであるといえます。

リーダーが「自分の鏡であるチームという生態系が、今何を感じているのか」に思いを巡らせられるようになると、チームに思いやりのある策が打てる。そんな雰囲気でしょうか。チームの状態に応じて策に緩急をつけると言うべきか。

佐藤:そうとも言えるかもしれませんね。リーダーが焦っていると、メンバーの気持ちをくみ取る余裕がなくなり、打つ手がどれも泥沼を招き、チームがどんどん落ちていきます。

だからこそリーダーはEQを駆使して自分の心の状態に正直に向き合い、SIを駆使してメンバー個人の状態をおもんばかり、そしてRSIを駆使して「この組織の空気感を作っているのが自分だとしたら、自分はどう手を打つべきか」と振り返る。これができれば、事態が深刻になる前に、適切な策が打てるはずです。

佐藤扶由夫(さとう・ふゆお)

東京外国語大学卒業。東京都出身。私立中高一貫校で教鞭をとる中でコミュニケーションの難しさ、面白さに魅かれ、「未来塾異文化対応訓練コース」などで探求を進める。2003年にコーチングを学び始め、その後勤務校で同僚の教職員にコーチングセッションを行う組織内コーチ(スクール・コーチ)を業務として開始。7年間でのべ1200時間のセッションを行いながら、学校組織活性化の一端を担った。独立後はグローバル企業から地域の小規模な組織まで組織開発や研修などで関わっている。

また、「自然、人、つながり」を自身のライフテーマとして世界最大規模のアウトドア・サバイバルスクールである Tracker School や Boulder Outdoor Survival School など国内外の様々なアウトドア・プログラムに参加し、自然に対する学びを深めてきた。

自然環境と社会の両方へ働きかける活動の一環として、「チェンジ・ザ・ドリーム シンポジウム」のトレーニングリーダーなどもしつつ、八ヶ岳山麓の森に移住し新しい生活の仕方を家族と共に模索している。

高下義弘(たかした・よしひろ)
戦略ライター/編集者
1974年生まれ。1998年に日経BP社に編集記者として入社。「日経コンピュータ」「ITpro」で経営改革と情報システム、プロジェクトマネジメント、ヒューマンマネジメント分野を追う。2010年からフリーランス。経営と技術、個人と組織、科学と芸術など、異分野が重なり合う領域を探索することに関心を寄せる。
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