街を変える飲食店

「カフェ」で南大沢の団地に再び息吹を呼び起こす

東京都八王子市南大沢「MAY.DELICA&BAR」

文:源川 暢子 / 写真:鎌田 雅洋 04.06.2017

店の前は広場になっており、以前は子どもたちの遊び場でもあった。町田さんはここで定期的にイベントも開催し、カフェをきっかけに多くの人が集う場所を目指している

飲食店のオープンをきっかけとして、街に活気が生まれ、新しいコミュニティーが生まれることがある。そうしたお店によって変わった街、変わろうとしている街を探る。今回紹介するのは、東京都・南大沢の団地商店街のカフェの話だ。

京王線南大沢駅から遊歩道を歩いて10分ほど。古びたイメージが漂う団地商店街の一角に、「MAY.DELICA&BAR」がある。

閉じたままのシャッターが多い商店街には、一見そぐわない洒落た雰囲気だ。

コンクリート打ちっぱなしの店内は、センスの良いアンティークのインテリアが設えられ都心にある隠れ家カフェのよう。「タコライス」や「ジャークチキン」(ジャマイカの肉料理)といったボリュームたっぷりの食事や、日替わりのデリ(お惣菜)、デザートなど、多彩なメニューはどれも洗練されたおいしさだ。

駅前にあるチェーンの飲食店とは、明らかに異なる魅力を持っている同店。営業はランチタイムが中心で、団地に住んでいる主婦グループや年配のご夫婦、遠方からもお客さまが訪れる人気店となっている。夜は不定期で営業しているが、こだわりのワインや輸入ビールなど、アルコールも充実しているため、近隣に住む人のパーティ利用なども多いという。

店内の様子。お店は京王線南大沢駅より緑道を歩いて10分ほど。南大沢3丁目にある団地の商店街の一角。以前は寿司屋だった店舗をリノベーションした。アンティークのインテリアで、あえてレトロな雰囲気にすることで幅広い年代のお客さまが寛げる場所を目指した

なぜ“この場所で”カフェを?

「自分が生まれ育った地元を、もう一度たくさんの人が集まる活気のある場所にしたい。それが、カフェをオープンしたきっかけです」

オーナーの町田綾子さんは、そう話す。

実家から離れて暮らしている人は、久しぶりに戻ったときに「街の様子が驚くほど変わっていた」という経験が少なからずあるのではないだろうか。新しい店や施設が増えて、生活が便利になるのは悪いことではないが、子どもの頃に慣れ親しんでいた場所が活気を失っていくのは寂しい気がする。

町田さんの場合も、まさにそうだった。

町田さんは、ちょうど南大沢でニュータウン開発が最も盛んだった1980年代から90年代にこの団地で子ども時代を過ごした。学生時代、就職後は南大沢を離れて都内で生活し、ひと通り都内の生活を満喫した後、やはり環境の良い地元に戻ろうと考えたとき、すっかりさびれてしまった地元の商店街を目の当たりにした。

オーナーの町田綾子さん。この団地で育ち賑わいのある商店街を知っていただけに、さびれていく商店街を見て「もう一度、ここを人が集まる場所にしたい」という想いでカフェを開いた

ニュータウンの開発から30年以上が過ぎ、南大沢の団地でも少子高齢化の影響は顕著だ。

駅前はアウトレットパークやシネコンがあり、食事も買い物も快適である。しかし、ほんの10分ほど歩いただけの団地群は高齢者が多く、広場で子どもたちが生き生きと遊ぶ姿も減った。団地の空き室も多く、ニュータウンが夢や希望を生み出していた頃とは比べものにならないほど活気を失っていた。

「何とかしなければ」という思いがふつふつと湧いてきたという。

「最初は、『誰かがカフェか何かをやってくれればいいのに』と考えていました。そんなとき、商店街で唯一のスーパーマーケットが撤退して一気にシャッター街になってしまった。危機感が募りました」と町田さん。

彼女が行動を起こすきっかけとなったのは、知る人ぞ知る人気店「チクテベーカリー」がこの商店街に移転オープンしたことだった。