本田直之の「賛否両論=オリジナリティ」

若い人が食べてくれなくなったら、日本料理はおしまいです。

第5回「傳(でん)」・長谷川在佑(ざいゆう)氏(後編)

文:本田 直之 / 編集協力:上阪 徹 / 写真:鈴木 愛子(特記なき写真) 06.15.2017

東京・外苑前の「傳(でん)」。世界で最も権威のあるセレクションとされる「世界のベストレストラン50」で45位にランクインしたことがあるこのお店、美味しいだけではない。楽しさと驚きに満ちている。オーナーである長谷川在佑(ざいゆう)氏の“否定されまくった”過去と、オリジナリティの根っこにある「愛」に迫る。

2017年の世界のベストレストラン50に入った料理店は、日本からたった2つ。そのひとつが、東京・外苑前に店を構える「傳(でん)」です。オーナー長谷川在佑(ざいゆう)さんが、2008年に作り上げた日本料理店です。かのミシュランでは2011年から星がつき、かつては2つ星を持っていました。日本国内はもちろん世界中からお客さんが訪れます。

傳の料理の素晴らしさは、おいしいだけではなく、とにかく楽しいことです(前編の写真を参照)。オリジナリティ溢れたメニュー、そしてサプライズ演出。フレンドリーな雰囲気に満ちたサービス。傳で食事をしていると、みんなが笑顔になる。そんな店なのです。

オープン時は、居酒屋のようなお店を展開していました。今の外苑前に移転する前、東京・神保町の裏通りで、傳はスタートしました。当初は、自分たちが作りたいものではなく、お客さんが求めるものにこだわり、それこそ夜中に魚とご飯と味噌汁を出していたこともありました。

常連客が次第に増え、アラカルトのメニューがあるのに、いつしか「お勧めを出して」と言われる店になりました。そして開店から3年、傳はコースメニューに切り替えます。伝統にこだわるのではなく、思い切ったことに挑む。大胆に楽しんでもらう。今の傳のスタイルが生まれました。それが評価され、4年目には、あの「食べログ」で全国1位になるのです。しかし、待っていたのは思わぬ事態でした。

否定されるのは、オリジナリティができてきたということ

「コースメニューに切り替えたと同時に、さまざまなお客様から厳しいことをたくさん言われるようになりましたね。君はもう少し日本料理の勉強をしたほうがいい、と言われたこともありました。しかも、スタッフ全員がいる前で。言われた瞬間に、すいません、と思わず謝っちゃったんですが(笑)」

もとより常連客を大事にしてきた店でした。食べログのランキングなどは、まったく見ていなかったと言います。

「あるとき、お客さまに食べログの星4.6がついているよ、全国1位だよ、と教えてもらって。いや、それはウチじゃないんじゃないですか、と思わず返して。するとそのうち、電話がどんどんかかってきたんですよね。おたくの料理の本当の実力を確認しに行きます、と」

オリジナリティのある料理は賛辞も得ますが、一方で否定をする人も必ず現れます。人によっては、傳の楽しい演出をまるで理解できない人もいる。日本料理を食べに来たのに、最中とはなんだ、傳タッキーとはなんだ、と。

そこで謝ってしまうのが、長谷川さんの人のいいところなのですが、本来ならば気に食わないと思ったお客さんのほうが来なければいいだけの話です。

「いろいろなお客様がお見えになるようになりました。もう全然大したことないですから、と電話口で申し上げたこともありました。同じ和食の料理人からは、お前のせいで日本料理が遊びみたいに思われる、と言われたこともありました。でも、節を曲げずにあえてそれをやっていたんですが……」

食べログで高く評価されたり、テレビに取り上げられたり、有名になったりすると、こういうことが起きてきます。

しかし、時には否定されるというのは、オリジナリティがあることの証しでもあります。そもそも食に対する思いというのは、人それぞれ。

日本料理は伝統的なものしか認めない、と声を上げる人もいるでしょう。それはそれでいいと思います。

むしろ、「ああ、傳の料理はすばらしい、納得した」と100人のお客さんが100人ともそう言ったら、そのほうがおかしい。時には否定されるというのはオリジナリティが完成してきたんだ、むしろ安心すべきだとすら、僕は思っています。