鉄道フォトジャーナリスト・櫻井 寛の “口福”の出張駅弁

博多駅「九州一周味めぐり弁当」──中津からあげ・黒豚角煮…九州グルメのダイジェスト!

“美食の宝庫”九州を代表する9つの味覚を1つの駅弁で一度に堪能

文:川岸 徹(ジャムセッション)/写真:櫻井 寛、スタジオ キャスパー 05.30.2018

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  • JR博多駅博多口の駅ビル「JR博多シティ」。2011年オープンだが今や博多のランドマーク
  • 球磨川を渡る九州新幹線新800系つばめ号(新八代―水俣間)
  • JR博多シティの屋上にある鉄道神社は知る人ぞ知る存在。旅先の無事を祈りたい
  • 九州新幹線のシンボルマーク。中央につばめの舞う姿を図案化した
  • 新800系U007編成は、客室妻面に金箔や蒔絵など日本の伝統工芸を使った雅(みやび)な内装
  • 一部の弁当は、売り場で温めてもらうことができる。「九州一周味めぐり弁当」もOK

出張時の楽しみの1つが駅弁や空弁だ。慌ただしいスケジュールの中で、手軽にお腹を満たしてくれる便利なアイテムであると共に、地元の食材を使ったその土地ならではの味わいは、張り詰めた心をほっと和ませてくれる。鉄道フォトジャーナリストの櫻井寛さんセレクトによる、ビジネスパーソンの利用が多い新幹線停車駅の駅弁を紹介する本コラム「“口福”の出張駅弁」。第17回は、九州7県の郷土の味覚を味わい尽くせる「九州一周味めぐり弁当」を紹介する。

“乗り鉄”を自認するだけに、鉄道を乗り継いで九州まで足を延ばすこともしばしばあるという櫻井寛さん。「九州は駅弁の大激戦区です。7つの県それぞれに個性豊かで質の高い駅弁があり、しかもお値段はリーズナブルとくる。僕としては7県をゆっくりと周遊しながら駅弁を味わってほしいところですが、忙しいビジネスパーソンはなかなかそうもいきませんよね。そこで今回は、九州7県の味覚を一度に堪能できる“秘策”を紹介したいと思います」

その秘策というのが、「九州一周味めぐり弁当」。JR九州フードサービスが企画し、福岡市のグルメトラベラーという会社が開発した駅弁で、20×20センチの正方形の弁当箱が9つに仕切られ、それぞれのマスに各県を代表する料理がコンパクトに盛り付けられている。

お品書きは次の通り。「熟成米の小豆栗ご飯」「がめ煮(筑前煮)」「中津からあげ」「さつま揚げ」「大村寿司」「赤牛のハンバーグ」「メヒカリの南蛮漬け&ドライフルーツ」「黒豚の角煮」「梅ひじき混ぜご飯」。字面を追うだけで思わず空腹を覚える美食のラインアップだ。

九州一周味めぐり弁当メニュー

開発・製造元のグルメトラベラーは、「各県の郷土の味をアレンジなしで忠実に再現することを意識しました。それぞれの土地から食材を集め、伝統的な製法で仕上げています。このお弁当を通して、九州が食においても魅力的な場所であることを感じてもらえるとうれしいですね」と話す。

こうした“ダイジェスト弁当”は過去にも例がなかったわけではなく、正直なところ、「本物の味と違う」と残念に思うこともしばしばだった。しかし、「九州一周味めぐり弁当」についてはそんな心配は無用だ。完成度の高さが業界のプロからも注目を集め、2018年4月に開催された業務用専門展「第21回ファベックス 惣菜・べんとうグランプリ」の駅弁・空弁部門で見事入選を果たしている。

物は試しにと、博多駅構内の駅弁ショップ「駅弁当」で「九州一周味めぐり弁当」を購入してみた。店では「九州一周味めぐり弁当」など幾つかの弁当についてはその場で温めてくれるサービスを行っていることを知り、お願いする。新幹線の車内で早速、弁当箱を開いた。

JR博多シティのシネマコンプレックスは深夜0時まで、レストランは最長翌1時まで営業
博多駅に停車する九州新幹線新800系つばめ号(U007編成)

まずは彩り鮮やかな料理を視覚で楽しむ。盛り付けも美しく、箸を付けるのが惜しくなるほどだ。取材時に櫻井さんに「どのマスから食べるのがいいですか」と尋ねた時のことを思い出す。確か、こう言っていた。「がめ煮か、赤牛のハンバーグですね。理由は簡単。九州7県に対して9マスですから、数合わせのため、福岡と熊本の料理は2マスずつあります。だから、福岡か熊本から始めるんですよ(笑)」

そんな櫻井さんが、「最後までとっておく」と話してくれたのが長崎の大村寿司だ。大村寿司は戦国時代の発祥と伝わる長崎県大村の郷土料理で、戦に勝った兵士たちを迎えるために領民が考え出したもの。当時、兵士たち全員に行き渡るだけの食器がなかったため、大きな箱で押し寿司を作り、兵士たちは小刀で切り分けながら食べたという。「酢飯の上に魚の切り身や野菜を並べ、さらに酢飯を載せてサンドイッチ状にします。その上に錦糸卵を散らせば出来上がり。大村寿司は見た目も美しく、長崎では祝い事の料理として定着しています。そんな幸せな気分になれる料理だから、僕は最後の〆にいただくことにしています。食べているうちに、今回も九州を訪ねてよかったなぁという思いがじわじわと湧いてくるんです」(櫻井さん)

弁当箱の中の郷土料理は、いずれも2〜3口で食べ切ってしまう。一つひとつに「もっと食べたい」という不完全燃焼感を残しながらも、全部を食べ終えるとそこそこお腹がいっぱいになっていた。今度は個々の料理をじっくり味わいに、また九州に来たいとしみじみ思う。そういえば、櫻井さんがこんなふうに言っていた。「首都圏にお住まいのビジネスパーソンだと、空路での博多出張が多いのではないでしょうか。でも、空港から博多駅まで地下鉄でわずか6分! ちょっと足を延ばせば、この駅弁が入手できます。帰りの飛行機で個々の料理を味わいながら、長崎や鹿児島の地に思いを馳せるのも楽しいものですよ」

“九州の玄関口”だけあって、博多駅の駅弁売り場はよりどりみどりで迷ってしまう
「九州一周味めぐり弁当」・博多駅(九州新幹線/山陽新幹線/鹿児島本線/福北ゆたか線)で販売
販売元:JR九州フードサービス 製造元:グルメトラベラー
価格:1500円
櫻井 寛(さくらい・かん)
鉄道フォトジャーナリスト
1954年、長野県生まれ。昭和鉄道高校を経て日本大学芸術学部写真学科を卒業。世界文化社写真部勤務の後、フリーに転身。趣味は「乗り鉄」、仕事は「撮り鉄」、好物は「駅弁」という鉄道ひと筋の人生を送る。著作は90冊以上、コミック『駅弁ひとり旅』(双葉社)の監修も。年間250日以上は取材旅行で各地を飛び回っている。東京交通短期大学客員教授。
家飲み酒とも日記