鉄道フォトジャーナリスト・櫻井 寛の “口福”の出張駅弁

金沢駅「利家御膳」──極上の治部煮、加賀藩主が食べた献立を駅弁で再現

映画「武士の献立」の料理監修も務めた老舗料亭「大友楼」

文:川岸 徹(ジャムセッション)/写真:櫻井 寛、山岸 政仁 09.06.2017

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  • 金沢駅「利家御膳」
  • 2015年3月に開業した北陸新幹線
  • 東京と金沢が約2時間30分とぐっと近くなった
  • 海外の雑誌で「世界で最も美しい駅」に選ばれたこともある金沢駅
  • 伝統芸能に使われる鼓をモチーフにした鼓門
  • 北陸新幹線は金沢のほか、富山にも停車。2023年には敦賀まで延伸

出張時の楽しみの1つが駅弁や空弁だ。慌ただしいスケジュールの中で、手軽にお腹を満たしてくれる便利なアイテムであると共に、地元の食材を使ったその土地ならではの味わいは、張り詰めた心をほっと和ませてくれる。鉄道フォトジャーナリストの櫻井寛さんセレクトによる、ビジネスパーソンの利用が多い新幹線停車駅の駅弁を紹介する本コラム「“口福”の出張駅弁」。第5回は加賀百万石の祖・前田利家にちなんだ駅弁を紹介しよう。

2013年末に公開された上戸彩主演の「武士の献立」という映画をご記憶だろうか。実在する加賀藩の包丁侍(剣術ではなく料理で大名家に使える武士)の家に嫁いだ女性の奮闘ぶりを描いた作品で、劇中には多くの儀式料理が登場したが、この料理監修を務めたのが金沢の老舗料亭「大友楼」。大友楼は金沢駅の人気駅弁の製造元でもある。

「創業は1830年(天保元年)です。江戸時代は加賀藩の御料理所を務め、それ以降も藩の伝統的な料理や儀式料理を作り続けてきました。1898年(明治31年)の金沢駅開業時には当時の社長が用地買収や住民の説得などに協力し、その功を認められ、陸運局から駅弁の製造・販売が許可されたのです」(大友楼)

話題を呼んだ1個1万円の超高額駅弁「加賀野立弁当」も大友楼が製造している。加賀野立弁当は、寝台特急「トワイライトエクスプレス」の定期運行開始を機に誕生したもので、2段重ねの弁当箱に鰻巻(うまき)、平目の昆布〆、蒸し雲丹(うに)、車海老のうま煮、鴨の治部煮など、豪華な料理がぎっしり詰まっている。

鉄道フォトジャーナリストの櫻井寛さんも、「加賀野立弁当は高級おせち料理のようなゴージャスな駅弁。見た目も味わいも駅弁の最高峰と呼べるもので、自信をもってお勧めできます」と太鼓判を押す。半面、事前の予約が必要で、1人で食べるには量も多いことから、「プライベートな旅行にはいいですが、出張には向かないかもしれません。ならば、同じ大友楼が出している『利家御膳』がいいでしょう」(櫻井さん)

利家御膳は、城下町・金沢の礎を築いた戦国武将・前田利家ゆかりの駅弁。NHKの大河ドラマ「利家とまつ 加賀百万石物語」が放映された2002年に「おまつ御膳」と共に発売され、以降16年にわたって人気を博してきたロングセラーだ。利家は若き日には「槍(やり)の又左」という異名を取るほどの槍の名手として名を馳せ、織田信長亡き後は賤ケ岳の戦で功を立てて加賀・能登の2国を与えられた。派手な着物を好んだ傾奇者としても知られ、今も人気武将の1人として親しまれている

お値段は1050円と手頃ながら、黒塗りの漆をイメージしたパッケージは高級感にあふれている。弁当箱は加賀の殿様を乗せた駕籠(かご)を思わせる2段重ねのスタイルで、かつぎ棒の部分が箸入れになっている。箱の表面には加賀前田家の家紋(梅鉢紋)があしらわれているが、中身もまた、金沢と加賀前田家が強く感じられるもの。「メニューの開発に当たっては文献を参考にして、加賀藩の歴代藩主が城内での宴席の際に食べた献立を再現しました。使用する食材や調理法は現代風にアレンジしています」(大友楼)

ご飯は白飯と五目御飯の2種類。おかずは焼き鮭、鶏肉入りはすはさみ揚げ、昆布巻、玉子巻、揚げボールなど、実に多種多彩でコストパフォーマンスが高い。ポイントは、金沢の郷土料理である治部煮がたっぷりと入っていることだ。

「おかずの主役は、この治部煮。加賀藩の時代から食べ継がれる治部煮は、小麦粉をまぶした野鳥や鶏の肉を季節の野菜や特産のすだれ麩(ふ)と甘辛く煮合わせた料理で、薬味のわさびと一緒に頂きます。本来、汁物は車内で食べにくく、駅弁に入ることは珍しい。でも、大友楼は汁を少なめにしてとろみを付けるといった工夫を重ねて、見事に駅弁のおかずに仕立てました。治部煮があるとないとでは大違い。金沢の旅に治部煮は欠かせないですからね」(櫻井さん)

おかずはバラエティー豊かだが量は多過ぎず少な過ぎずで、出張帰りに新幹線の中でビールをぐいっとやりながら小腹を満たすのにぴったり。また、金沢駅は北陸本線やIRいしかわ鉄道などへの乗り継ぎ客も多いことから、櫻井さんはこんな食べ方を提案する。「金沢駅の構内にはベンチがたくさんあります。時間的な余裕がある時には僕もよく、人の往来を眺め、金沢の空気を感じながら、ベンチで駅弁を食べているんですよ」

「利家御膳」・金沢駅(北陸新幹線/北陸本線/七尾線/IRいしかわ鉄道)
製造元:大友楼
価格:1050円

櫻井 寛(さくらい・かん)
鉄道フォトジャーナリスト
1954年、長野県生まれ。昭和鉄道高校を経て日本大学芸術学部写真学科を卒業。世界文化社写真部勤務の後、フリーに転身。趣味は「乗り鉄」、仕事は「撮り鉄」、好物は「駅弁」という鉄道ひと筋の人生を送る。著作は90冊以上、コミック『駅弁ひとり旅』(双葉社)の監修も。年間250日以上は取材旅行で各地を飛び回っている。東京交通短期大学客員教授。