鉄道フォトジャーナリスト・櫻井 寛の “口福”の出張駅弁

新函館北斗駅「津軽海峡 海の宝船」──北の海の幸の超贅沢な“競演”

ウニとイクラの濃厚な味わいをスクランブルエッグが引き立てる

文:川岸 徹(ジャムセッション)/写真:櫻井 寛、スタジオキャスパー 11.02.2017

出張時の楽しみの1つが駅弁や空弁だ。慌ただしいスケジュールの中で、手軽にお腹を満たしてくれる便利なアイテムであると共に、地元の食材を使ったその土地ならではの味わいは、張り詰めた心をほっと和ませてくれる。鉄道フォトジャーナリストの櫻井寛さんセレクトによる、ビジネスパーソンがよく利用する新幹線停車駅の駅弁を紹介する本コラム「“口福”の出張駅弁」。第6回は海の幸を満載した北海道ならではの駅弁です。

2016年3月26日に開業した北海道新幹線。それまで北海道への出張は空路がメーンだったが、新幹線の開通により東京駅と新函館北斗駅が最速4時間2分で結ばれ、「新幹線で出張」という選択肢も加わった。

「空の旅もいいですが、鉄道で行く北海道の旅は楽しいものです。奥津軽から青函トンネルを抜け、車窓いっぱいに北の大地が広がった瞬間、『いよいよ北海道だ!』と胸が高鳴ります。いつも飛行機を利用している方は、時には気分を変えて新幹線に乗ってみてください。テンションが上がり、わくわくした気分で仕事に臨めると思いますよ」(櫻井さん)

北海道新幹線の北海道側の基点が新函館北斗駅。新幹線の開業に合わせて、渡島大野(おしまおおの)駅から新函館北斗駅に駅名が変更になり、駅舎もリニューアルされた。駅構内には「BENTO CAFE 41°GARDEN(ベントーカフェ ヨンイチガーデン)」が誕生。具材を選んで丼やお弁当を作る食事メニューや、北海道産の発酵バターや牛乳を使ったスイーツが充実しており、旅行者から人気を集めている。

実は櫻井さんも、このBENTO CAFE 41°GARDENの愛用者。「この店では駅弁も扱っていて、バラエティー豊かな品ぞろえが自慢です。新鮮な魚介類のほか、北海道の郷土料理『ザンギ(鶏のから揚げ)』をメーンにした弁当もあります。どの駅弁も完成度が高く、何を選んでも満足感は高い! なにせ、駅弁を作っているのは、あの『吉田屋』ですからね」(櫻井さん)

吉田屋は、駅弁ファンなら知らない人はいないといってもいいほどの老舗料理店。1892(明治25)年に青森県八戸駅前で創業し、120年以上にわたって様々な駅弁を世に送り出してきた。「東北本線開通の翌年に、握り飯とたくあんだけのシンプルな弁当をホームで立ち売りしたのが始まりです。以来、伝統を大切にしながらも、新しい時代にマッチする駅弁を作り続けています」(吉田屋)。製造する駅弁の種類は軽く20を超える。業界内の評価も高く、中食・外食業界の業務用専門展「ファベックス」による「惣菜・べんとうグランプリ」の駅弁・空弁部門で2015年、2016年と連続して金賞を受賞している。

その吉田屋が、北海道新幹線の開業に伴い対岸の函館に進出。新函館北斗駅にBENTO CAFE 41°GARDENをオープンし、駅弁を開発・販売しているのだ。「吉田屋の吉田広城(ひろき)社長は味に厳しく、非常に開発熱心な方。試行錯誤を繰り返しながら、斬新な駅弁を次々とデビューさせてきました。ですから八戸や函館に行く時は、今回はどんな駅弁に出合えるのか、いつも楽しみにしているんです」(櫻井さん)

吉田屋の吉田広城社長

そんな櫻井さんの最近のお気に入りが「津軽海峡 海の宝船」。酢飯の上にスクランブルエッグとイクラの醬油漬け、蒸しウニ、トビッコの醬油漬けがのっており、それらに隠れるように入ったキュウリの酢漬けと味付け刻みシイタケが味のアクセントになったユニークな駅弁だ。口直しに白がり(ショウガ)としば漬けも付いているが、それでは足りないほど酢飯の量は多め。駅弁の催事などを手掛けるジャパンフーズシステムの人気駅弁ベスト10(2016年10月〜2017年3月)でも『富山ますのすし』『網焼き牛たん弁当』などに次いで6位にランクインしている。

「私は2017年6月に食べたばかりですが、出来のよさに驚きましたね。北海道ではウニとイクラを使った料理は珍しくありませんが、この駅弁はそれだけではないんです。ふっくらしたスクランブルエッグが、ウニやイクラと一体になり、最高のハーモニーを生み出している。イクラの適度な塩加減とウニの馥郁(ふくいく)たる香りを、かすかに甘いスクランブルエッグが優しく包み込んでいるという感じでしょうか。海の幸をうたった駅弁でありながら、実は卵が味の決め手なんですよ」(櫻井さん)

吉田屋の駅弁は8割方、北の海の幸がメーン。いわばその道のプロがたどり着いたひとつの結論が「スクランブルエッグとのコラボ」なのだろう。国産米でつくった酢飯もほどよく酸味が利いており、箸を進めるにつれて食欲が高まってくる印象。気がついたら結構なボリュームを完食していた。シンプルなつくりだが、ウニやイクラの脂と塩気はビールとの相性もよく、満足度は高い。出張帰りの“旅の友”にぴったりな逸品だ。

「津軽海峡 海の宝船」・新函館北斗駅(北海道新幹線)
製造元:吉田屋
価格:1200円

櫻井 寛(さくらい・かん)
鉄道フォトジャーナリスト
1954年、長野県生まれ。昭和鉄道高校を経て日本大学芸術学部写真学科を卒業。世界文化社写真部勤務の後、フリーに転身。趣味は「乗り鉄」、仕事は「撮り鉄」、好物は「駅弁」という鉄道ひと筋の人生を送る。著作は90冊以上、コミック『駅弁ひとり旅』(双葉社)の監修も。年間250日以上は取材旅行で各地を飛び回っている。東京交通短期大学客員教授。