今夜も噂の酒場をHOPPING

昼は仕事、夜は酒場経営、パラレルワーカーたちの華麗な日々

アナログレコードとおいしいお酒、東京・渋谷のロックバー「shhGarage」(前編)

取材・文:荒濱 一 / 写真:大槻 純一 04.10.2018

酒場はときにはオーナー(経営者)の人生そのものを映し出す。例えば、東京・渋谷にあるアナログレコードだけをかけるロックバー「shhGarage」。「いい音楽とおいしいお酒を楽しみながらみんなで盛り上がる」というコンセプトにこだわり、連日、多くの常連客で賑わっている。オーナーは、昼にも仕事を持ちパラレルワークを実践する男女3人。彼らはなぜこの店を始め、日々、どんなことを考えながら店を営んでいるのだろう?(文中敬称略)

渋谷駅からほど近くにある雑居ビル。狭く急な階段を4階までのぼり切り、重たいドアを開けると、仄暗い空間から大音量のロックンロールが流れてくる。ここがロックバー「shhGarage」だ。

30人も入ればすし詰めになりそうな広さ。店の奥に、酒を提供するカウンターとDJブースが、L字型に配置されている。DJブースの背後には大量のアナログレコードが並ぶ。

席は長テーブルが置かれているだけでイスのないオールスタンディング。客たちはビールやカクテルを飲みながら、思い思いに会話に花を咲かせたり、体を小刻みに揺すって音楽に聴き入ったりしている。ロックバーというと、なんとなく男臭い印象があるが、この店の客は女性客の比率も高く、アンダーグラウンドな雰囲気の中にどこか華やかさも漂う。

流れる音楽は、洋楽/邦楽の様々な年代のロックを中心に、パンクや歌謡曲、時には演歌までと非常に幅広い。ただし、かけるのはアナログレコードのみ。CDは一切かけない。

「アナログレコードは、CDに比べて音がいい。その良さをみんなに知ってほしいというのがあります」と語るのは、この店の創業者の1人で、主にDJを担当する芹沢孝広。「音があったかい。ライブ感がある。CDと違って1曲ずつ丁寧にかけるから、ながら聴きじゃなくて『よし、聴くぞ!』という感じになるのもいいかな」と話すのは、もう1人の創業者である日比谷尚武。店にあるレコードの枚数は現在、約2000枚。もともと大の音楽好きでレコードコレクターでもある芹沢と日比谷が持っていたものに、コツコツと買い足してきた。

いい音楽とお酒があるから会話が弾む

実際、音の良さは抜群だ。例えばこの日、たまたまかかっていたボブ・マーリーの名盤「LIVE!」。筆者も何百回と聴いてきたアルバムだが、この店で聴くと音が立体的に、膨らみを持って聴こえる上、音の1つひとつが粒立ち、今まで聴き取れていなかった音まで聴き取れる気がする。

「オーディオシステムそのものにはそんなにこだわっていないですけどね。ターンテーブルはテクニクス、アンプはヤマハ、スピーカーは4基あって、うち2基はJBLのL150という大音量型モデル。スタンダードといえばスタンダードです。もちろんできる限りいい音を出したいと思っていますけど、機材にこだわっても場所との相性ってあるじゃないですか? ハイエンドのオーディオシステムを使ったからって、必ずしもすごくいい音になるわけでもない。音って、この場のミラクルでしかないですから。それよりもスピーカーの配置や、部屋に合わせた音調整のほうが大事。そのあたりは徹底的にこだわり抜きましたよ」(芹沢)

ドリンクは数種類のビールやサワー類にはじまり、ウイスキー、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラ、カンパリ、カシスなどを使ったカクテル、さらには日本酒、焼酎、ワインに至るまで幅広い。この店オリジナルのカクテルも数種類用意している。ほぼ全て1杯500円程度とリーズナブルだ。

「お店をやっている私たちもお酒大好きですからね〜。お客さんもお酒好きな人ばかりだし」と語るのは、この店のママである竹内瞳。「お酒は音楽と同じで、お店の潤滑油かな。いい音楽とお酒があるから会話が弾む、みたいな。カクテルの作り方? やっているうちに覚えました」とチャーミングに微笑む。

料理は一切出さない。柿の種やうまい棒などのスナック類が店内に用意してあり、それを自由に食べられる程度だ。「僕らは飲食店をやりたいわけではないですからね。『いい音楽とお酒を楽しみながらみんなで盛り上がる』というのがこの店のコンセプトなんで」と日比谷は理由を説明する。