ナウい飲みニケーション!

盛り上がる職場の裏には「飲みニケーション」があった!(前編)

第1回 VASILY(ファッション情報アプリの開発・運営)

文:皆本 類 / 写真:菊池 くらげ 05.15.2017

何かと嫌われがちな会社での飲み会。ところが今や、最先端のスタートアップ企業ほど「飲みニケーション」に力を入れている。21世紀型の「ナウい飲みニケーション」の現場に足を運び、その実態をレポートするこのコラム。第1回はファッションコーディネートアプリ「IQON(アイコン)」を手がけるVASILYの取り組みをリポートする。

かつて「飲みニケーション」という言葉がありました。

仕事が終わった後、職場の上司、部下、同僚が一斉に酒場に繰り出し、杯を交わし、心を開いて職場の結束を固める――。昭和のサラリーマン映画でよく見かけるシーンです。実際、このような「飲みニケーション」が、日本中の企業で、ごくごく当たり前のように実施されていました。

ところが21世紀に突入し、ハラスメント(嫌がらせ)の撲滅やワークライフバランスが叫ばれている今、このような「飲みニケーション」は日本の会社文化の悪しき象徴となった感があります。

インターネットで「飲みニケーション」と検索すれば、出るわ出るわ、「飲みニケーション、ないわ」という記事や投稿や悪口の数々。

「なぜ、仕事が終わってるのに、飲み屋で上司のつまらぬ小言を聞かされなきゃいけないんだ」
「結局、若い女の子といちゃいちゃしたいだけなんでしょ」
「仕事の付き合いは、会社の中だけで結構!」

飲みニケーションには、実に有り難くないレッテルが貼られてしまったわけであります。

かくして、イマドキの若手社員は、「飲みニケーションは過去の遺物。ウェブやSNSが発達したいま、コミュニケーションは、酒場じゃなくスマホでやるものでしょ」と嘯(うそぶ)く始末。

と思いきや、意外なうわさがカンパネラ編集部に届きました。いま、IT(情報技術)関連のスタートアップ企業では、むしろ飲みニケーションがものすごく盛り上がっているらしいのです。

クールなオフィスでスマートに働き、仕事とプライベートはびしっと分け、おっさんくさい飲み会とはもっとも縁遠そうなIT系のスタートアップ企業で、なぜ「飲みニケーション」が流行っているのか?

この謎を探るべく、カンパネラ編集部では、スタートアップ企業の現場にライターを派遣し、飲みニケーションに参加してもらいながら、21世紀型の「ナウい飲みニケーション」の姿を探求することに相成りました。

ナウい飲みニケーション。そこには、もしかすると日本企業を救う、大きなヒントが隠されているのかもしれません。

というわけで、ビール持参で、いざ「飲みニケーション」の現場へ。

歓楽街を過ぎると各種の雑居ビルが目に付く五反田エリア。かつて「ビットバレー」と呼ばれてIT企業が集結していた渋谷エリアに比べて、リーズナブルな賃料設定の物件が多いのが特徴です

「五反田バレー」に快進撃を続けるIT企業が集結

連載1回目に向けた取材日に降り立ったのは、東京都・五反田。山手線駅から眺める五反田は、歓楽街の雰囲気に満ち満ちておりますが、2000年前後に渋谷が「ビットバレー」と呼ばれてIT系ベンチャー企業が集まっていたように、いま五反田には様々な新興企業が居を構えています。野菜通販のオイシックス、クラウド会計ソフトのfreee(フリ-)、実名型グルメサービスのRetty(レッティ)など、既にメジャーになっている企業も五反田に本社があるのです。

今回訪問するVASILY(ヴァシリー)も、五反田に本社を置く元気なベンチャーの1社。ファッションコーディネートアプリ「IQON(アイコン)」を手がけ、ファッションの分野で唯一、米アップルが選ぶベストアプリと米グーグルが選ぶベストアプリの両方に選出されている注目の企業です。

取材したのは、「プレミアムフライデー」が始まった日。念のために説明しますと、プレミアムフライデーは月末の最後の金曜日に早めに仕事を切り上げて余暇を楽しむという取り組みのこと。経済産業省が産業界に呼びかけ、2017年2月24日から始められました。

ただ、調査会社インテージによれば、実際に早く帰れた人は3.7%にとどまっています。約9割の職場で導入されなかったほか、職場で実施・奨励されても「仕事が終わらない」などの理由で帰らなかった人も多かったようです。

一方、VASILYはこれに先駆ける格好で、2016年から月末の金曜日に仕事を早く切り上げ、会社のオフィスで「定例飲み」を開催する試みを始めていました。

この定例飲みは、社長を始め社員全員の参加が原則だそうです。それだけ聞くと、上司から強制されて、会社の会議室などで安く行われる会社の飲み会と何が違うのか、典型的な「昭和の飲みニケーション」ではないか、という気もします。いったい何が新しいのでしょうか?

ポイント1:肩の力を抜いて楽しめる会を演出

ヒントは、この定期飲みに付けた呼び名にありました。VASILYでは、「定期飲み」を「締め会」あるいは「チームビルディング」と呼んでいるそうなのです。

月末に開くこの定期飲みの前には30分ほど全体ミーティングを開催し、取締役が月例報告をします。月の仕事を締めてから飲むので、“締め会”と呼ぶ。しかし、社員全員で社内飲みをすることが、なぜチームビルディングなのか?

VASILYの代表取締役CEO(最高経営責任者)を務める金山裕樹さんは、次のように語ります。

「社員がお互いを理解し、チームとして結束を固めるきっかけとして、『定期飲み』をやるのが、手っ取り早くて成果が上がるからなんです」

チームビルディングは一般的には、同じ一つのゴールを目指し、複数のメンバーが個々の能力を最大限に発揮しつつ一丸となって進んでいくための組織作りの手法を指します。

しかし、飲みニケーションでチームビルディングができてしまう。そんな「おいしい」話があるのでしょうか。

では、実際に飲み会に加わってみましょう。

19時から21時の2時間1本勝負で「締め会」開始! このレクリエーションタイムが実は肝(きも)なのです
この日は、代々木上原のタイ料理屋さんからケータリングしたというお料理が並びます。エスニックがセレクトされるというのは、昭和の会社飲みではまずなかったことでしょう。VASILYの女性社員たちに大好評でした。パクチーたっぷり、青唐辛子ぴりっとした本格タイ料理、思わず仕事を忘れてお代わりを……

「締め会」は、予定の19時ちょうどにスタートしました。

社員のみなさんと乾杯しつつ、VASILYの飲みニケーションの効用についてお話を聞いていくことにしましょう。

エンジニア部門は男性社員が多い!レクリエーションタイムの前にお腹を満たし、のどを潤します。というのもレクリエーションのときは、食べている暇がない!

まずは男性社員の方々にインタビューしてみましょう。もともと「飲むのが好き」な人たちが多い会社ということで、「締め会」のような飲む機会が定期的にある点についてはむしろ「素直にうれしいですね」「楽しいです」とポジティブな意見が多数。

あるエンジニアの方は、「僕らエンジニアって、仕事をしているときはパソコンの前にかじりついているんで、他部門の人と話す機会って、案外ないんですよ。締め会を機会にコミュニケーションが増え、仕事上のお願いもお互いしやすくなるケースは多いです」とおっしゃいます。

VASILYの締め会にはインターン生(写真左)も参加できます

次にお話を伺った3人組は、インターンの学生さんとエンジニアさん。皆さん、通常はそれぞれ異なる仕事をしているそうですが、締め会ではこのように仲良く交流しています。

「異なるチームに所属している社員の方々同士が、締め会で楽しく交流しているのがいいなと思いました。お酒が入ると本音ベースで話せる雰囲気が出てきますし。私みたいな学生インターンにとっては、会社の雰囲気を知る最高のチャンスです」と話してくれたのはインターンの女性。

他のチームにいる社員の仕事内容やプライベートについても、お酒を飲みながらリラックスムードでさりげなく知ることができるそうです。社員同士の相互理解の場になっているんですね。

最近お子さんが誕生されたというエンジニアさんが、スマホでお子さんのお写真を見せてくださいました

締め会という場が、異なる職種、異なる役職の社員同士の交流を促していることが見えてきました。

取材でとりわけ印象的だったのは、幹部社員と、最近入社した若手社員の方々の次の言葉でした。

幹部社員(写真右)と最近入社した若手社員(写真左)。入社時期の違いに関係なく、楽しくお酒を飲んでいました

「以前、社内の交流を活発にしようという目的で、フリーアドレスを導入した時もあったんです。ところが、誰がどこにいるのかわからなくなって、むしろ混乱を招くだけでした」と幹部社員の方は振り返ります。またある若手社員は、「入社してしばらくしてから、隣に座っている同僚がいったいどんな仕事をしているのか全く知らない自分に気づきました」とも語ります。

VASILYの社員数は約30名で、ワンフロアーにすべての社員が席を並べて仕事をしています。30名と言えば小中学校の1クラスの規模だからコミュニケーションも楽にとれるではないか、とも思えます。ところが、幹部社員と若手社員双方の意見を集めたところ、「30人の組織でも、何か積極的な策を打たないままだと、社内のコミュニケーションはどんどん減ってしまう」という事実が浮き彫りになったそうです。

そこで考え出した解決策が、毎月最後の金曜日に開催する、この締め会。CEOの金山さんは「シンプルな策にも見えますが、いろいろ考えた上に行き着いた結論なんです」と話します。

社員が肩の力を抜いて楽しく交流するために、手軽で、すぐにできる方法、それが「飲みニケーション」だったわけですね。

ポイント2:工夫を凝らした「イベント」で社員の相互理解を促す

VASILYの締め会は、単なる飲食だけでは終わらない企画が盛り込まれています。それが「レクリエーション」と呼ばれるもので、季節やその時の目的に応じて趣向を凝らしたイベントのことを指します。

取材をしたこの日の締め会は、2月という季節柄を反映したバレンタイン企画。女性社員全員が幹事となって「~VASILY女性社員が考える~あなたのステキなところベスト5クイズ」が催されました。

男性社員それぞれの長所について女性社員全員に対してアンケートを実施。結果をランキングにして、穴埋め形式のクイズを行うとのことです。

男性社員に日頃の感謝を伝えたいというのが主旨だそうですが、女性社員が見いだした男性社員の長所とは? クイズではどんな答えが繰り出されるのか? 気になる中身は、後編で。

(後編に続く)

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