ネオンとオンナ

本当にイイ女が操る5つの「そ」

男を手のひらで転がす女が使うのは、「さしすせそ」ではなく、「そ」なのです

文:鈴木 麻友美 03.05.2018

巷で男性が喜ぶとされている会話のノウハウ、イイ女の「さしすせそ」。だが筆者に言わせれば、本当にイイ女は「そ」だけでいいらしい。いや、「そ」がイイ女をつくるのか。お気に入りのワインバーの女店主が示す、アンニュイで色気のある「そ」の使い方を明かす。男も女も、気がつくと彼女の手のひらで転がされているのだ。

先日、本コラムの原稿を編集者さんに「金曜日までにはお出しします!!」と宣言したその金曜日。私は横浜赤レンガ倉庫でバレエダンサーであるジェレミー・ベランガールの肉体美と渋谷慶一郎氏の音楽のマリアージュを脳の芯がしびれるような感覚で鑑賞し、「今日中に原稿仕上げなきゃ……」と思いつつもどうしても美味しいワインが飲みたくなり、ふらふらと寄り道をしてしまった。

横浜に来ると必ず寄る野毛のワインバー「赤い店」が東京移転のために閉店したことを思い出し、都内に戻り自宅近くにあるカウンターバーの戸を叩いた。ここは私の好きな自然派ワインを出してくれる。

目黒区内の雑居ビルの2階、ワインの品揃えはもちろんのこと、店主のしーちゃん(仮)がなんともキュンとしてしまう女性で居心地がよくて、ついふらふらと引き寄せられてしまう。

もうこの際、(仮)じゃなく実名でしーちゃんあることもバラしてしまう。しーちゃんはしーちゃんという響きのもとに成立するんだもの。

彫りの深い顔立ちに、ボリューミィなロングヘア。アニメ声でありながら落ち着いてしっとりしたトーン。コケティッシュなオーラに包まれていて実像が見えにくい魅惑のしーちゃん……、ってここまで書いて、自分の目線がおっさんの官能小説みたいだなと引く。ともかく、しーちゃんは料理上手で博識で、自分から多くは語らないけれど時々毒舌で、男女の酸いも甘いもたっぷり知っていて、人生経験が豊富。いわゆるイイ女なのだ。

時々どこか寂しい表情をしていて(私の幻覚だろうか……)、それもまたキュンとする。

マンガ「きょうの猫村さん」(ほしよりこ)を読んだことがある方には伝わるかもしれない。猫村さんが醸し出す胸を締め付けられるような、キュン。猫村さんにとっての「坊ちゃん※」みたいな存在が、しーちゃんの人生にもあるんじゃないか。永遠に捕まえられない、または戻らないユートピアとか心に秘めた美学とか、そんな意味合いでの「青い鳥」を心に飼っている人だけが持つもの。憂い、みたいなもの。それが我々の心の「キュン」のスイッチを爆押ししてくる。

男女ともに私が惹かれてしまうのは、自慢もコンプレックスも決して見せないのに、ふんわりと「青い鳥」の存在がにおい立つような人。色気の正体ってこういうことなのかも、と思う。

※外国へ行ってしまった飼い主のこと。猫村さんは坊ちゃんに会いに行くために「労働」している

イイ女は「さしすせそ」なんて使わない

しーちゃんと話しながらワインを傾けていたら、書きかけのディストピアな原稿がつまらなく感じてしまい脳内でぐしゃぐしゃと丸めた。

突然だが、モテる女の「さしすせそ」というのはだいぶ人口に膾炙している。

さ・さすが(褒め)
し・知らなかった(承認)
す・すごい(称賛)
せ・センスいい(評価)
そ・そうなんだ(感嘆)

いやしかし待てよ、きょうび「さすが」なんて言葉は、人をおちょくるときの方が登板回数は多い。イイ女しーちゃんにおける「さしすせそ」はこうだ。というより「そ」である。

そ・そうなんだー!(褒め)
そ・そうなの??(承認)
そ・そんなことある??(称賛)
そ・それいいかも(評価)
そ・そうなんだ~?(感嘆)

「そうなんだ」が2回あるって? これがまた、全然違うんである。最初に挙げた褒めの「そ」は、ドレミで言うとソの音から始まり、下りの音階。前半の「そう」にアクセント。一方、感嘆の「そ」は、ドとかレあたり。そして後半の「なんだ~?」にアクセントを置くことで、非常に味わい深い余韻のある相槌となるわけ。

感嘆符や相槌のニュアンスが、ほんの少し疑問形。それによって、ふと我に返るし、次の説明に思考が進む。たとえば、こちらのお酒が進みすぎてちょっと調子に乗った投げかけをしてしまったときなどは、悪戯な表情ののちに「そうかなぁ」「んーでもね」って話をしてくれる。しーちゃんの相槌は、包容力がありながら、結果自分との向き合いにつながる。

たまにお店に、ドヤドヤとしたおっさんがやって来て、「え、ここシャンベルタンないの?」「ワインといえばフランスだろ!」などと言ってしーちゃんを困らせたりする。

そんな時しーちゃんは「そうですねぇ」とアンニュイな反応で返す。相手の繊細⇔鈍感具合を図る踏み絵のようでいて、気づくとおっさんはしーちゃんの手のひらで転がっている。彼女の応対が、ドヤを打ち消し、イイ男をつくっているのかもしれない。

モテるのと、相手を調子に乗らせるのは違う、というリアル体験学習。この応対の手腕により、美女がひとりで切り盛りするお店ながら、秩序と居心地の良さが成立している。