塩見なゆの「都境酒場」案内

小岩「けやき」:昭和の活気と人情味あふれる「都境の街」、新鮮な魚介類を味わう

文/写真:塩見 なゆ 06.04.2018

料理の味だけでなく、店主さんやお客さんと触れ合うことができ、古き良き時代の雰囲気を味わえる大衆酒場が人気です。しかも、なぜか東京都とその隣接する県の東京都側の街、すなわち「都境の街」にある酒場は老若男女を惹きつけます。「都境酒場」案内人の塩見なゆさんが紹介するこのコラム、最初にご紹介するのは江戸川区の小岩にある老舗「けやき」です。

初めまして。「都境酒場」案内人の塩見なゆと申します。

いま、老若男女を問わず大衆酒場に注目する人が増えています。ヒトもモノもインターネットにつながり、どこにいても誰かと何かと情報のやり取りができるようになりました。そんな時代だからこそ、オフラインのつながりを求めて「リアル」な世界としての古き良き酒場に興味がうまれるのではないでしょうか。

懐かしい昭和風情の残る「都境の街」、活力と人情味があふれる

酒場といえば普通のグルメとことなり、料理の味だけでなく、店主さんや店員さんとの交流、お客さんたちが醸し出すムード、そして酒場がある街の背景まで、あらゆる要素を含めて魅力がいっぱいです。

皆さまも、街の魅力を映す鏡である大衆酒場を覗いて、「美味しい」だけではない現実世界のぬくもりに触れてみませんか。

東京には様々な表情を持った飲み屋街が数多くあります。サラリーマンの街、新橋や神田。歓楽街の新宿歌舞伎町。どの街にもそれぞれ魅力がありますが、他県と隣接する東京側の街、つまり「都境の街」が持つ独特なオーラは、お酒好きの心をくすぐる要素がたくさんあります。

昭和の雰囲気が色濃く残る小岩の居酒屋

都境の街と言っても様々ありますが、どの街にも共通して、懐かしい昭和風情の残る商店街が広がり、人々で賑わい、明るい時間帯から笑い声であふれる飲食店が充実しています。街にエネルギーがありながらも、そこにいる人々には人情を感じます。街そのものが、いま求めている大衆酒場のムードそのもののような気がします。

そんな活力と人情を求めて都境の飲み屋街を巡るのがこの連載。第1回は東京都江戸川区の小岩を選びました。

お酒を楽しむご隠居や、仕事明けの開放感に浸る常連さんで賑やか

JR総武線でひと駅東に進めば、江戸川を渡って千葉県市川市。小岩はそんな「都境」にあり、古くからある商店街には東京下町の快活さと宿場町と漁師町の雰囲気が融合しています。昭和2年(1927年)にできた駅前商店街「フラワーロード」をはじめ多くの商店街が放射状に伸び、昭和レトロの雰囲気の中で活気に満ちた人々の暮らしが感じられます。

居酒屋巡りは、街巡りでもあります。街を散策した後は、地元の人が愛用する酒場の暖簾をくぐりましょう。

JR小岩駅直結のショッピングモールからわずかの場所、JRの高架線の下に、長く親しまれる老舗の「けやき」があります。

営業はお昼の11時30分から、なんと翌朝6時(金・土・祝前日は翌朝8時)まで通しで営業する超ロングランのお店。そんなに長く営業するというのに、店内に生け簀(す)があり新鮮な魚介類を提供する大衆割烹なのですから驚きです。

小岩は、「けやき」のようにお昼から営業するお店が数多あり、そして明るいうちからメートルを上げたお客さんたちの笑顔であふれています。

小岩にはかつて江東工業地帯の外縁として多くの工場が立ち並び、24時間稼働する職場がありました。タクシーの営業所も小岩に多数集まっていますし、夜勤明けの一杯を求める人たちもいます。

取材時も暗くなる前からお酒を楽しむご隠居や、仕事明けの開放感に浸る常連さんで賑やかです。深夜の時間帯も近隣の飲食店の人たちやタクシーなど遅い仕事をあがった人々に利用されています。「お昼から翌朝まで、たくさんの方に海鮮料理とお酒をお楽しみいただいています」と店長は話す。