地域おこしに「知の創生」 八戸ブックセンターの挑戦

東北の本屋に人が集まり本が売れている理由

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文:関橋 英作

02.02.2017

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摩擦を起こさないように、ただ無難に生きている。そんな人生、面白いですか? もっと枠を外れた生き方をしたいビジネスパーソンに贈るこのコラム。今回は、青森は八戸にできた新しい知の拠点、「八戸ブックセンター」が人を集めたマジックについて。

みなさんが仕事上で頻繁に使う言葉のひとつが、ブレークスルー。壁を破って前へ進むこと。では、その壁とはいったい何なのでしょうか。ベルリンの壁ではありませんが、みんなが思っていてもなかなかできないことをやってしまうこと。それによって、社会が変化する、人も変化する。まさに、マジックの出番。今年は、多くなりそうな予感がします。

さて、みなさんは行列のできる本屋さんを見たことがあるでしょうか。まちの本屋さんの凋落を考えてみても、あり得ない光景。1999年に約2万2000店舗だったのが、2015年には約1万3000店舗。1日1店舗が消えている勘定です。

本屋業界の常識としても、サイン会に並ぶことはあっても、開店前に並ぶことはない。たとえ、新しいお店であったとしてもです。もちろん、TSUTAYAの特別店舗のような例はありますが。

凋落する本屋業界に挑戦

こんな常識をブレークスルーした本屋さんが登場しました。青森県八戸市に昨年12月にオープンした「八戸ブックセンター」。なんと、八戸市が運営する本屋さんです。

敷地面積約95坪と大型店とは言えません。しかし、行政が本屋さんを運営する例はほとんどない。当然、市議会では侃々諤々(かんかんがくがく)の紛糾。民間の本屋さんにとっては打撃になるのではないか、図書館とのすみ分けはどうするのか、などの課題です。

それを乗り越えたのが、小林眞市長の「本のまち八戸」への熱い想い。本を通して、市民の知性を向上させたいという信念でした。そのために、あらかじめ4000万円の赤字を想定。マスコミは批判的な記事が多かったのですが、これは市民の知的向上へのコスト。公民館などいわゆるハコモノに多額の経費をかけていることを思えば、有効なお金の使い方です。

とはいえ、まちの本屋さんにはベストセラーをはじめとする売れ筋の本が並んでいる。古本屋に通う人は限られている。図書館は特定の人か、勉強をする学生しか利用しない。カフェには主に雑誌しか置かれていない。

本の状況はますます厳しいのですが、一方で、本は毎日200~300冊、1年間で8万冊も刊行されているという事実。本は、決して息途絶えているわけではありません。本は、一生懸命に発信しているのに多くの人が気づかないだけなのでしょう。

では、どういう本屋さんにすれば、想いも課題も叶えることができるのか。

まずは、市内の本屋さんと同じ本をできるだけ置かない。儲かることよりも、誰もが本と出会える場にする。ハイカルチャーな本をあえて置く。本を書くきっかけをつくる。そして何よりも、気軽で洒落たスペースであること。どれも考えることはできても、実現へのハードルは低くはありません。

言ってみれば、本屋さん、図書館、カフェ、勉強部屋、イベント会場を合わせたようなもの。さらには、八戸というまちを盛り上げる場所であってほしい。知性と情緒をあわせもった、新しいタイプのコミュニケーションが求められます。

横連携で目指した「全く新しい本屋さん」

この難題、というより新しいお題に応えるために、八戸ブックセンターはすっくと立ち上がりました。その辺りを、八戸ブックセンター所長、音喜多信嗣さんにお伺いしてきました。

「このブックセンターの基本方針は、本を読む人をふやす、本を書く人をふやす、本でまちを盛り上げる、です。この3つが、ゴールである『本のまち八戸』を達成するために必要なこと。本を取りまく環境はきびしいですが、幸い、市内大手の3書店と協力して運営できるので、八戸としては全く新しい本屋さんがつくれるのではないかと期待しています」

オープンの朝は、前述したように行列です。心にざわついたものを感じたのでしょうか、八戸市民は。

入り口を入ると、奥まで見通せる縦長の構造。いきなり目に飛び込んでくるのが、本屋さんとは思えないレジカウンター。カフェ&バーのような大人な佇まいです。ここで会計するだけで、ちょっと知性を手に入れたような気分になるのは間違いなし。小さなテーブルと椅子があちこちにあるので、ワイン片手に考古学、コーヒーとフランス文学も様になりますね。

本棚は、独自の分類方法。知へのいざないコーナーでは、基本図書を「みわたす」「かんがえる」「よのなか」「いのり」などのようなタイトルで、専門書でも素直に手が伸びるしかけ。人生についてコーナーでは、「どう生きるか」「愛するということ」「命のおわり」などの普遍的なテーマで、考えることを考えさせる工夫がなされています。

来店客に聞いてみると、「目的なしに来ても、おもしろい本に出会えそうな気持ちになります」(親子連れ・女性)、「気になる本に行きつかない。探しやすくしてほしい」(50代男性)、「いままでにないジャンルの本がたくさんありうれしいです。なので、パネルとかでもっと説明をしてほしいです」(20代男性)

本屋さんのイメージが固定されているので、戸惑っている方も見受けられました。一方で、新しい本との出会いを期待している人も多く、そういう人たちも含めて、しっかり心を捉える工夫も必要かも知れません。

地域ならではのしかけは、フェア棚・ひと棚。一般市民の方が好きなテーマで選ぶ「わたしの本棚」。八戸にゆかりがある方が選書した棚、と本への関心を高める工夫も特徴のひとつです。

その他には、ギャラリー、八戸出身の作家・三浦哲郎のコーナー。

しかし何といっても、うらやましいのが、ハンモックとおこもりの小部屋。片や本棚に囲まれながらゆらゆらと読書、一方は狭いスペースに入り込んでペンライトで本を独り占め。まるで、押し入れで遊ぶ子どもです。もう、出たくなくなりました。閉所恐怖症の方にはごめんなさいですね。

ハンモックで揺られながら読書する小学生に聞きました。「本を読むのがこんなに楽しいと思わなかった」「ここで読んでたら、買いたくなった」。はじめてでも、子どもの反応は素直です。裾野を広げる機会になりますね。

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