ロジックよりマジック

桃太郎の語り部・神木優。そのマジックストーリーに学ぶ

文:関橋 英作 05.10.2017

枠を外れた生き方をしたいビジネスパーソンに贈るこのコラム。今回は、日本の昔話・桃太郎に挑む俳優、神木優さんの話。全国に4000ほどもある桃太郎伝承に新解釈を加えて演ずる神木さんが挑むものは何か?

なぜ、いまでも多くの日本人は「桃太郎」が好きなのでしょうか? CMにもよく使われるし、そのストーリーを聞かれても、ほとんどの人があらすじを話せる。いわゆる、子どものためのおとぎ話なのにです。

それに比べて、五大おとぎ話と言われるのは、「桃太郎」のほかに「かちかち山」「サルカニ合戦」「舌切り雀」「花咲じじい」。みなさんは、しっかり記憶していますか? あやしいですよね。ま、知っているけれど、子ども向けの話だしね、という受け止め方が多い。残念だけれど、これがおとぎ話の現状です。

そのおとぎ話に立ち向かった男がいました。俳優・神木優さん。俳優歴15年で、これから道を究めようという年齢ですが、なぜ、桃太郎か。伺ってみました。

実は、700種類もの桃太郎がある

桃太郎との出会いは偶然とのこと。落語の桂枝雀師匠に「鶴」というお話の教授をお願いしたところ、仔細あってそれは難しい。代わりに、「桃太郎」を教えてやろう、ということになったそうです。

その小話にはまり、桃太郎へまっしぐら。調べてみると、芥川龍之介や尾崎紅葉など多くの著名作家が自分なりの桃太郎を書いている。さらに、いろんな桃太郎のお話が全国に残っていることにも驚きました。

神木さんは、みんな典型的な桃太郎だけが唯一と信じている。その固定観念を取り払い、常識という現代の魔物を退治してやろうと思ったそうです。マジックを起こす人は、この発想。ここから、神木さんのマジックが始まります。

前述したように、この桃太郎、実は全国に約700種類、4000話もの違ったお話として伝承されているのです。山形県庄内地方では、流れてきたのは桃ではなく子どものほしがる玩具としての箱。その中に桃が入っていた。神棚にあげておいたら、勝手に桃が割れて男児が生まれた、と。

和歌山のお話は、流れてきた桃をおばあさんがその場で食べてしまった。あまりにおいしいので、もうひとつ来いと言ったらまた流れてきた。しかし、取ろうとした桃から桃太郎!という声がして、そのまま川下へ流れて行ってしまった、と。

高知県阿波では、きび団子をやって家来にしたのは、栗・はさみ・臼。征伐に行ったのはカニの子だった。石川県能登では、川上からいくつもの桃が流れてきて、その中のひとつから桃太郎が生まれた。しかし、お話はここで終わり、その後の立志談はなかった、と。また、香川県では生まれたのは女の子。鬼にさらわれないように桃太郎と名付けた、と。

なにやら、いい加減なようで何がほんとうかわかりません。しかし、これが民間伝承の特徴。古事記のような神話とは違う。神話は、「定まった日時に、定まった人が定まった方式をもってこれを語り、聞く者がことごとくこれを信じ、もしくは信じぜざる者の聞くことを許されぬ古風の説話であった。」(柳田国男・桃太郎の誕生)つまり、為政者が国の体制をつくるために創造したものでしょう。

一方民間伝承は、誰がつくったのかも知れず、自然発生的に生まれたのかもわからず、それでも長い時間をかけて民衆の間で言い伝えられてきました。神話と違い、話し手は普通の人たち。話術を訓練しているわけではありません。また、頼れるのは自分の記憶のみ。聞き手やそのときの場の雰囲気なども影響したでしょう。灯をともした夜の野外と、家で子どもに話してやる時では、話し手の気分も変わるはずです。

こうして機転を利かせた創造力や、平易な言葉づかい、柔軟な起承転結が行われ、時代を経るとともに少しずつ変化していったのではないでしょうか。

そこでは、当然のように、桃太郎のお話なのに「サルカニ合戦」や「かちかち山」「花咲じじい」などが交じり合っていきますが、仕方のないことですね。