ロジックよりマジック

北海道のオーベルジュ&レストラン:ワザのマジックより、ココロのマジック。

美瑛オーベルジュ・ビブレと札幌モリエールにココロ奪われました。

文/写真:関橋 英作 01.15.2018

豊かな生活とビジネスのヒントは、ロジックよりもマジックにあり。著名コピーライター&クリエイティブ・コンサルタントの関橋英作さんが素敵なヒントを探る本コラム、今回は北海道の素敵なレストランから。最高のごちそうの背景にある、おいしい自然、料理人の心。素敵なサービスを生み出すための着眼点がここにありそうです。

ガストロノミー。この言葉だけで、垂涎です。美食術などと訳されていますが、本来は、食と文化を考察すること。単に料理がおいしいなどに限られたものではありません。

食の背景には、芸術はもちろんのこと、物理学・地質学・数学・植物学・人類学・歴史学・哲学・心理学など、ほぼすべての分野が関係している。だから、人間という動物は食べることに、それこそ命をかけるのですね。

今回、北海道・美瑛町のオーベルジュレストラン・ビブレ(bi.ble)と札幌のフレンチレストラン・モリエールに伺って、そのことが深く理解できました。

では、早速、北海道へ飛びましょう。美瑛町。北海道のほぼ中央部、十勝岳連峰と夕張山系との間に位置する日本とは思えない丘陵地帯です。当日は、幸運にも快晴。ビブレに向かう車中で、存分にその光景を楽しむことができました。

所々に目印になるようなポツンの樹があり、絵本の中に入り込んだような気持ちで、ビブレに向かいました。

さて、到着。穏やかなたたずまいです。右手に旧北瑛小学校跡の建物、左手にモダンな長屋を思わせるホテル棟、そこから飛び石(ではありませんが)に導かれるように、レストラン棟へ。広大な丘陵地帯の中のジオラマを歩いているような鎮かな高揚感です。

テレビやネットなどで拝見していたので、期待感は大きかったのですが、それをいとも簡単に超えられてしまいました。

「料理の最も美味しい状態を食べていただく」

いちばんおいしい瞬間、つまり最高の瞬間をお客様に味わってもらう。この信念をいきなり見せてもらうことになりました。テーブルに着く前に案内されたのは、パン釜。客たちは、どう反応していいかという表情を浮かべながら、釜を取り囲みました。

熱気と共に現れたのは、プレッツェル。どちらかといえばお菓子の部類です。あっけに取られていると、次に渡されたのがシャンパングラス。アチチのプレッツェルを右手にもちながら片手にシャンパン。プレッツェルは、おとぎの国の食べ物に変身していました。こういうシャンパンの在り方もあるのだなあ、と驚いてしまいました。

全員が初めての体験だったと思いますが、ふっくらした笑顔のオンパレード。この時点で、ココロがしっかりとつかまれてしまいました。

この後、どんな世界に連れて行ってもらえるのだろうという期待感しかありません。

いきなりのこの驚喜を生み出したのは、北海道に3店しかないミシュラン三ツ星のフレンチのメインシェフ中道博さんと、30年余にわたる料理ジャーナリストであり、美瑛町オーベルジュ・ビブレをプロデュースした齋藤壽さん。このおふたりの巡り合いが、とんでもないフレンチを世に送り出したのです。同時代に生きていることに感謝したい気持ちでいっぱいです。

美瑛町ビブレは、齋藤さん。札幌モリエールは、中道さんと少し離れていますが、いつもいろんなことを共有されているとのこと。

おふたりの信念は冒頭にも書きましたが、言葉を変えると「その料理のもっとも美味しい状態を食べていただきたい」ということです。

たとえばラタトゥイユという南仏風の野菜料理の場合、それぞれの野菜をいつ切るか、どのくらいの大きさに切るか、それぞれの野菜をいつ加熱するかを常に考慮する。その上で、お客さまに食べていただく時間は、作ってからどのくらいがいいのかを考える。それをいちばん大事なことだとお考えです。

また、ブロッコリーにしても、朝早く農家に採りに行ったブロッコリーをその日のうちに使い切る。ゆでるブロッコリーの量や大きさなどで鍋の大きさと水分の量を決める。塩分濃度を一定に保つ。ゆで時間を〇分〇秒と決める。さらには、あらかじめ皿に一緒に食べていただくソースなどを盛りつけることで、茹でてから10〜20秒でお客さんにサービスすることができる。

だから、最高の瞬間をサーブすることが可能になるのです。食べてからこのお話を伺ったので、私の頭と胃袋が一気に連結してしまいました。心底、食べる人のことを最優先して考えられています。とかく、技術優先のような世の中ですが、これこそが飲食業だと再確認した次第です。