生きるチカラの強い女性へ

処方箋13 その思い出を、ジュエリーに。

文:ひきた よしあき / 写真:カンパネラ編集部 06.25.2018

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第13回は、お客さんの思い出を美しいジュエリーに変える島田薫さんです。

離婚した。結婚指輪が残った。
捨てようか。売ろうか。そっとしまっておこうか。
その女性は、迷っていた。

離婚から3年の月日が経つというのに、傷が癒えない。引きこもりになり、社会に戻れない。

悩んだ挙げ句、彼女が訪れた先が、ジュエリーデザイナー島田薫さんのショップ「JEWELRY KUNPOO」だった。

「自分の過去を否定したくない」と考えた彼女は、再出発のために結婚指輪を全く新しいジュエリーにすることを決意した。

「オーダージュエリーを作るにあたっては、その人の物語を知ることがとても大切なんです。何度もやりとりしながら、お客様の思いを形にしていく。このお客様の場合は、『決別』と『新しい自分』がテーマでした。ただデザインするだけではないんです。それに触れたときに、『新しい自分』を決意したときのことが思い出せる。その強さと普遍性が大切なんです」

こう語る島田さん自身、順風満帆な人生を歩んできたわけではない。

お客様の人生と向き合い、薫風(かおるふう)を吹き込む

2009年、重い病気の宣告を受けた。「KUNPOO」を立ち上げて3年目のこと。家族に向けて遺書まで書いた。

幸い手術は成功し、彼女はこれまで以上に元気になった。

「大げさに言えば、神様に命をプレゼントされたと思いました。子育てもした。病気にもなった。自分が好きなデザインもした。売れ筋商品も作った。こうした中で、お客様の人生と向き合い、そこに薫風(かおるふう)、つまりKUNPOO(くんぷう)を吹き込むデザインをめざしていきました」

ジュエリーをつくる人には必ず理由がある。自分へのご褒美、大切な人へのプレゼント、記念日、自己再生……それを、見て、触って、思い出せるかというところまで追い込むところが、島田さんのオーダージュエリーが愛される理由なのだろう。

実は私も、島田さんにデザインしていただいたネックレスを3年近く肌身離さずつけている。「本を書こう」決心したとき、島田さんに勾玉のデザインを依頼した。ひと月ほど待って出来上がってきた勾玉はプラチナ製で小さいのにずしりと重い。それでいて丸くて、触って柔らかい。

「小さいものに触って、ぬくもりを感じるもの。いつも肌にふれるものだからやわらかいものをつくる」

という薫風(くんぷう)が見事に体現されている。

苦しいとき、ここ一番の勝負のとき、自分を見失いそうになったとき、親指と人差し指でぷくっとした勾玉を触ると、安心する。はっと我に返る。

これを失った自分が考えられない。ある意味、信仰の対象になっている。

2014年秋には、ローマ法王への献上品を制作する命を受け、「オリーブの葉」のフォークレストを作った。静物なのに、風にそよいで揺れている。不思議な印象を残す逸品だ。

金属は強くて、普遍的。永久に残る

「美大時代に、金属工芸を専攻して学んだのは、金属が強くて、普遍的だから。一度デザインしたものが、永久に残るところが気に入っています」

と語る島田薫さんは、今日も多くの人の思い出を美しいジュエリーに変えている。

「人生の物語」を強く、美しく、永久のものへと加工している。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。