食文化・萩原社長のお薦め

青森・陸奥湾の春の味覚、「クリガニ」

地元の人々に熱烈に愛されている美味ガニ

文:萩原 章史 / 写真:八木澤 芳彦 03.30.2017

青森県民が熱愛するカニ「クリガニ」。花見には欠かせないことから、別名「花見ガニ」とも呼ばれる。学名は「トゲクリガニ」で、血筋的には毛ガニの親戚。小振りなため、上手に食べるには指先と舌のテクニックが必要だが、カニとしてはかなりうまい。身はもちろん、味噌、メスの内子も素晴らしい。

陸奥湾沿岸の春の味覚で、地元の人々から熱烈に愛されているローカル美味。文豪・太宰治の好物でもあった「クリガニ」は、北海道から東北にかけて広く生息するが、まとまった漁があるのは陸奥湾だけ。特に青森の桜の季節に、内子を蓄え、旬を迎えることから「桜ガニ」、「花見ガニ」とも呼ばれ、花見には欠かせないものとなっている。青森の花見には、このクリガニとシャコが欠かせないともいわれる。

そんなクリガニは、今から20数年前にNHKの「みんなのうた」にも登場した。『かにさん かにさん』という曲名で、俳優の川谷拓三さんが、「毛ガニ……クリガニ……」と歌った。内容は、(庶民の)クリガニは毛ガニになれないけど、助け合って頑張ろう!という、人生の歌。このようにクリガニは歌にもなるくらい、毛ガニの安価な代用品として扱われることもあるのだが、私はそんな卑下することはないと思う。

確かに立派な毛ガニに比べると小さく、貧相な感じは否めないが、そもそも近似種とはいえ種類が違うから、比べてはいけない。味や香りも、似ているかと言われれば似てはいるが、明らかに違う。少し磯の香りが強いから、好き嫌いは出るとは思うが。

それに、何と言っても一番の違いは、メスが食べられること。日本国内では一部の地域を除き、基本的にメスの毛ガニを獲ってはいけない。もちろん、資源保護のためである。だから、内子が入った毛ガニ(つまり、メス)は食べられないが、クリガニにはそうした制約がない。ゆえに、甲羅の中にたっぷりの味噌と内子が入った状態を堪能することができる。その味わいは格別。ご飯のおかずには不向きだが、酒のさかなとしてはかなり高いレベルだ。脚と胴体の身も、ちまちまと指と舌を駆使して堪能すれば、その味の奥深さはなかなかのもの。

毛蟹との一番の違いは、内子が入ったメスが食べられること

酒をめでる青森の人たちが花見に欠かせない料理としているのも、素直にうなずける。花見の幹事はクリガニを並べるタイミングで評価されるとも聞くほど。これは、最初から並べると宴会が無口となり、ビールはぬるくなるから……とか。恐るべしクリガニ。花よりクリガニ……。まさにそういうことだろう。

もちろん、細かな作業が苦手で「カニで一番好きなのは大きなタラバガニ」といった方にはお薦めできないが、上海ガニやワタリガニが好きなカニ好きには、まさに“刺さる美味”だ。価格も毛ガニよりは安く、お腹いっぱい食べても、財布はそれほど痛まない。内子はないがオスはメスよりずっと大きく、身はオスに軍配を上げる人も多い。

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