食文化・萩原社長のお薦め

仲間と食べたい、冬の「おとな鍋」ベスト3

津軽海峡のアンコウ鍋、天然ガモの鍋、安心院のスッポン鍋

文:萩原 章史 / 写真:八木澤 芳彦 01.05.2017

1月の第2月曜日は「成人の日」。誰しもが通過する、「子ども」から「おとな」への節目の日ともなる。そこで今回は、仲間と食べたい、冬の「おとな鍋」ベスト3をご紹介しよう。津軽海峡の鮟鱇(アンコウ)鍋、天然鴨(ガモ)の鍋、安心院の鼈(スッポン)鍋(冒頭写真)――。こうした鍋の価値がわかるのが、おとなというものなのだ。

子どもには価値が伝わり難い食材が色々あるが、ジビエの類いと、げてもの的な見た目の食材が典型だと思う。だいたいジビエの類いはどれも見慣れた肉とは色が違うし、決して柔らかくもない。味は濃厚で癖もあり、子どもの“舌には負えない”素材が多い。また、アンコウやスッポン、ウツボなどは実に美味なのに、見た目がグロテスクだから子どもうけは良くない。まあ、食文化の階層を増やそうとは思わないような人にとっても、ジビエや見た目が良くない食材は、あえてお金を出して食べようとは思わないものではあろうが。

ただ、酸いも甘いもわかるほどの人生経験を積んでくると、本当にうまいもんはうまいし、滋味深いものは身体が欲するようになるものだ。また例えば、男女の仲が深まるにつれ、価値を共有して囲みたくなる鍋もある。それこそが、ある種の究極の鍋か……。

ともあれ今回は同性・異性を問わず、真の仲間と食べたい、冬のおとな鍋を3つご紹介したい。鍋を囲みながら人生談義をするもよし、将来の夢を語るもよし。うまい!もここまでくると、感動が思い出に残るほどだから、ぜひ経験してみてほしい鍋ともいえる。

第3位「大正時代の食通本『美味求真』絶賛の安心院の鼈(スッポン)鍋」

脂も乗っているスッポンの、強じんな筋肉や筋や皮からあふれ出すスッポンエキス

安心院の鼈(スッポン)は、大正時代の食通本のベストセラー『美味求真』で絶賛されたもの。美味求真の著者である木下謙次郎の故郷が、スッポンの名産地、大分県安心院だ。当時のスッポン料理を今に伝えるのが、1920年(大正9年)ごろに創業した安心院の『やまさ旅館』。旅館では鍋だけでなく、刺身や茶碗蒸しなど、様々なスッポン料理を堪能できる(スッポン鍋は取り寄せも可能)。

鍋は、一般的にイメージされるトロトロのスッポン鍋ではなく、生のスッポンの身を専用のだしで短時間炊いて、ポン酢とゆずこしょうで食す。コリコリした食感が何とも言えず、かつ、食べ続けても飽きがこない、実に美味な肉(魚ではなく肉!)の鍋だ。

脂も乗っているスッポンの、強じんな筋肉や筋や皮からあふれ出すスッポンエキスとでも言うべき強力な味わいを冬の野菜がまとえば、何段階も上質な野菜に変身する。その間、野菜の味もだしにしみ出すから、“スッポン鍋一族の供宴”状態になる。

スッポンの甲羅酒も良い。フグのひれ酒も良いものだが、スッポンの甲羅酒のコクの深さは天下一品。この濃厚さが少しでも増すと酒を壊すというような、まさに紙一重の美味だ(冬ではなく夏場であればスッポンの卵の焼酎漬けもうまい)。

こういう食材を食べる時は、濃厚な人間関係がないと、感動を十分に共有できないだろう。朝の肌艶が違うよねといった会話だって、一緒にいる関係ならでは。男同士でも『俺、元気になった!』みたいなコミュニケーションで、スッポン鍋体験をシェアできる。単なる美味だけでなく、男女問わず元気にしてくれるのが、この安心院のスッポン。そんなエネルギーあふれる食材をいただく鍋が、第3位だ。

コリコリした食感が何とも言えず、かつ、食べ続けても飽きがこない