「飲む」「食べる」のお仕事のひと

お客さんが欲しいのは、家電じゃない。おいしい体験なんです。

バルミューダ代表 寺尾玄さん(前編)

聞き手:カンパネラ編集部 / 文:西本 美沙 / 写真:大槻 純一 08.22.2017

扇風機。トースター。炊飯器。バルミューダが世に出した、主なヒット商品である。いずれも家電量販店に行けば、格安に手に入るものばかり。けれども2003年設立のこの若い会社は、典型的な「成熟分野」である日用家電の分野に殴り込みをかけ、大手家電メーカーの虚をつき、ヒットを飛ばした。

バルミューダの製品には共通点がある。シンプルで美しいデザイン。けっこういいお値段。余分な機能は潔く捨てる。

ただし、ただの「デザイン家電」ではない。どのメーカーにも負けない「気持ちのいい風を届ける」「おいしいトーストを焼く」「最高のごはんを炊く」といった製品本来の目的を実現する。

結果、バルミューダは、これまでの日用家電に飽きたらなかった顧客を獲得した。

バルミューダが型破りな会社なら、同社の創業者である寺尾玄氏も型破りな人物だ。

17歳で高校を中退し、スペインに旅立ちヨーロッパを放浪、日本へ戻った後はロックミュージシャンを目指し音楽事務所に在籍した。しかし音楽への道は途絶え、人生の岐路に立った28歳のとき、彼はものづくりに舵を切る。

ミュージシャンとして世に出た寺尾氏には、ハードウェアを造るための知識も技術もなかった。でも、「知らないことは知っている人に聞けばいい」と、町工場を何十社と訪ね、「春日井製作所」に出会う。ここで見よう見まねでもの作りをはじめた1年後、寺尾氏はバルミューダを設立した。

「私たちが届けたいのは家電じゃないんです」と、寺尾氏は言う。

では、なにを届けたいのか? 自伝ノンフィクション『行こう、どこにもなかった方法で』を執筆した寺尾氏に聞いた。

バルミューダ株式会社
Macbook専用冷却台「X-Base」に始まり、自然界の風を再現した扇風機「GreenFan」などの空調家電で注目を集め、2015年、「BALMUDA The Toaster」を皮切りにキッチン家電に参入。電気ケトル「BALMUDA The Pot」、そして炊飯器「BALMUDA The Gohan」を発表。2017年6月には、カレーソース「BALMUDA The Curry」を発売しフード事業にも参入。https://www.balmuda.com/jp/

機能は捨てた。最高に楽しい食事のために

──オーブントースター「BALMUDA The Toaster」。炊飯器「BALMUDA The Gohan」。バルミューダの発売したオーブントースターや炊飯器が、「行列」ができるほど売れています。トースターで2万円台、炊飯器で4万円台というのは、かなりの高価格。しかも機能を絞っていて、炊飯器に至っては保温機能すら捨てている。なぜこんなに売れているんですか?

寺尾:私たちは、ただ家電製品を作って売るのではなく、その製品を通してお客様に最高の体験をしてもらいたい、と思っています。最高のトーストを食べてほしい。最高のごはんを食べてほしい。朝食を、夕食を、豊かな体験にしてほしい。だから、その目的に徹した商品づくりを心がけました。

そして、モノを売るだけではなく、体験を提供できるよう工夫をこらしています。

お客様とのコミュニケーションも、マーケティングも、「お客様に体験してもらって、お、これはすごい、これはおいしい」と実感してもらうことを狙っています。

具体的には、私たちの製品を使うことで、もっともっと充実した食卓を実現してほしいんです。

ザ・トースターもいきなりヒットしたわけじゃないんですね。発売は2015年6月ですが、火がついたのは半年後です。きっかけは、ザ・トースターを使い始めたお客様たちのクチコミがSNSなどを通じて広がったことです。

調理道具は、料理をするための道具です。モノそのものに価値があるのではなく、それを使ってできあがる料理や食事という体験にこそ価値がある。なので、どんなレシピがオススメなのか。それを実際に試してみたらどうだったのか。具体的な「食」の体験を訴求していこうとしたんです。

たとえば、オーブントースターでできる簡単な料理ってたくさんある。でも、でてくる料理が、みんなが考えているよりも、はるかにレベルの高いものだったら、誰もが味わってみたいですよね。

そこで、ザ・トースターというモノの開発と並行して、魅力的なレシピの開発を進めました。トースターで簡単にできる「ローストビーフ」やすごくおいしい「ピザトースト」など。すでに50種以上のレシピをバルミューダのウェブサイトで公開しています。このレシピをお客様がトライしてSNSにアップしてくださったりすることで、同じ体験をしたいと思ってくださった方たちが新しいお客様になってくれました。

トースターで作ることができる料理はたくさんありますが、それをさまざまな形で伝えることで、消費者とのコミュニケーションポイントが増えていく。「モノではなく、体験を売る」ことで、お客様の輪が広がっていく。「家電メーカー」という枠で自分たちの仕事の範囲を縛っていたらできなかった、と思っています。

私たちの調理道具を買ってくださるお客様は、道具単体だけではなく、その道具と一緒に生み出せる可能性を買ってくださっている、と思っています。

モノが売れなくなった、という話を、製造業の世界でも小売の世界でも耳にします。でも、私たちは、毎日朝ごはんを食べるし、夕ご飯も食べる。そんな一回一回の食事が素敵な体験になるかもしれないと考えると、提案のチャンスは限りなくあるはずなんです。

──トースターの成功に続いて、次は電気ケトル、そして炊飯器を発売しました。構想はいつからあったのですか?

寺尾:実はいま、コーヒーメーカーの開発もしています。その開発のプロセスで、先にできちゃったのが電気ケトルの「The Pot」。おいしいコーヒーを淹れるためのコーヒーメーカーのコア技術はできていますが、新しいテクノロジーを使っているので商品化まで少し時間がかかります。そこで、まずはハンドドリップで美味しいコーヒーを飲みたい方に向けて最適なポットを提供しました。お客様が最終的に欲しいのは、コーヒーメーカーでもポットでもなく、美味しいコーヒーですから。

炊飯器の「The Gohan」は、夕ご飯をもっと楽しくすることを目指して開発しました。トースターが朝ごはんをもっと美味しくしようと目指して開発したので、今度は夕ご飯をなんとかしたいなと。

私個人でいえば、朝はパンを食べ、夜はお米を食べます。そして我が家では土鍋でご飯を炊いていました。土鍋で炊くととっても美味しい。ただガスコンロ1個を占有してしまうのが難点だと思っていました。料理をいろいろ作りたいときにガスコンロが使いにくくなる。だったら、電気炊飯器で土鍋を超える美味しいご飯を炊けるようにできないか。そこで、2015年の秋から炊飯器の開発を始めました。「The Toaster」を発売して半年後のことです。

(中編に続く)