BAR CAMPANELLA

「幸せじゃないと、いい仕事はできない」—マルシア

すべての出会いに感謝して、表現者として生きていく

text by 津田智志/photo by 鎌田雅洋 12.24.2015

「BAR CAMPANELLA」——ここは東京・表参道の青山通り付近にあるバー。エグゼクティブなビジネスパーソンや各方面のスペシャリストたちが夜な夜な集い、「大人の会話」を楽しんでいる。毎週木曜日にこの店に通い、時代の最先端を行く人たちの刺激的な話を聴くべく、今回はカンパネラ編集長の瀬川明秀がカウンターの席に着いた。今宵のゲストは、ブラジル出身の歌手・女優のマルシア。46歳を迎えてなお圧倒的な歌唱力を武器に、コンサートや舞台にマルチな才能を発揮する彼女のパワーの源は何か、瀬川が迫る。

瀬川:マルシアさんは1989年に日本で歌手としてスタートされたんですが、いまやテレビ、ミュージカル、舞台と幅広いジャンルで活躍されています。2016年は1月から岸谷五朗さんと寺脇康文さん率いる地球ゴージャスがプロデュースする地球ゴージャスプロデュース公演Vol.14『The Love Bugs』に出演されますね。女優として、舞台に出演する魅力って何だと感じていらっしゃいますか?

マルシアさん(歌手・女優)
1989年、「ふりむけばヨコハマ」で歌手デビュー。数々の新人賞を獲得し、NHK 紅白歌合戦にも出場。 以降、バラエティーなどでマルチに活躍するほか、圧倒的な歌唱力を活かしてミュージカルにも多数出演。 2001年には、ブロードウェイミュージカル『ジキル&ハイド』で第56回文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。 2015年、「日ブラジル外交関係樹立120周年」親善大使に就任。

マルシア:共演者やスタッフと、舞台にかける情熱や愛を共有できることですね。舞台は長い時間をかけてつくり上げるので、共演者やスタッフとも特別な関係になります。特に地球ゴージャスは岸谷さんをはじめ、スタッフ全員がすごい情熱をかけてつくり上げているので、出演者の魂が光り輝いているような印象を受けます。芝居をつくり上げることへの愛が、本当に伝わってくるんですよ。

岸谷五朗と寺脇康文が主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」がプロデュースする公演『The Love Bugs』。タイトルに「Bug=虫」とあるとおり、今回描かれるのは昆虫の世界だ

瀬川:その愛に応える演技をしようとするから、地球ゴージャスの舞台は共演者や観客から愛されて21年も続いてきたのでしょうね。マルシアさんにとっても特別な経験ですか?

マルシア:そうですね。特に出演者だけでなくスタッフ全員が、仕事であることを超えて「これをやりたいんだ!」という強い思いを持って行動していることが素晴らしいと思います。もちろん、どんな舞台でもそれに関わりたい人たちが集まっているんですけど、その熱量というか愛情というか、一つひとつの行動のエネルギーが半端ないんです(笑)。

瀬川:2015年の5月には、ブラジルに生きた日系人たちの苦闘を描いた物語『GARANTIDO』にも出演されましたね。最近は舞台出演が続いていますが、しばらくは芝居に注力されるのですか?

マルシア:光栄なことに、お話をいただくことが多かっただけで、舞台だけに絞り込んでいるわけではありません。でも、この1年ずっと舞台の上にいるので、とても刺激的で特別な経験をさせてもらっていると感謝していますね。

演じるのではなく、役を生きる

瀬川:1年間も舞台が続くとなると、緊張感の維持やセリフを覚えるのも大変だろうと思いますけど、マルシアさんにとっていちばん難しいことは?

マルシア:役をつくることですね。

瀬川:役づくり、ですか。その役づくりのイメージって、どうやってつかむんでしょう?

マルシア:まず台本を読んでセリフを覚え、歌を覚えるんですけど、そのときは少しずつイメージをつかんでいくような段階です。稽古を重ねていきながら、「こんな感じかな」と毎日いろいろなパターンを試しながら模索して、舞台初日にようやく役が“降りてくる”感じですね。

瀬川:降りてくるようなイメージというと、それは自分にはない人格や感情が入り込んでくる感覚なんでしょうか?

マルシア:舞台人って、役をつくるのではなく、舞台の上で必然的な役を生きているんだと思うんです。関わっている人々の魂が一つの方向に向かっていれば、セリフを覚えた段階でのイメージの種が育って、そうして初日に花が開き、そのまま千秋楽まで花の命を、生き続ける。だから、役とさよならをする千秋楽は、本当につらいんですよ。

瀬川:舞台の役者さんは、みんなそんなイメージを持たれているんですか?

マルシア:これはマルシア流なんで、分からないです。でもね、これだけ舞台が続くと、いろんな人格になりすぎて、本当の自分を忘れちゃいそうになるときがありますね(笑)。