話せばわかるものなのか。

第8話 教えた人に教えられる

文:ひきた よしあき / イラスト:もとき 理川 01.26.2017

「若い人たちがわからない」若手とのコミュニケーションに悩む大人世代は数多い。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが贈る、コミュニケーションのヒントたち。今回は、大人世代ならでは楽しみである「若手に教える」の喜びについて。(カンパネラ編集部)

親戚に依頼されて学生を相手に就活について話しだしたのは、
入社1年目の師走のことだった。
4月に入社し6月に大阪赴任。その12月だからまだ半年しか働いていない。
やっと冬休みがとれた安堵と弛緩で、気分は限りなく学生だった。

以来、30年近く学生と接している。
40代に入ってからは大学でも教えるようになった。
この長い期間に日本はもとより世界中に散らばった後輩たちは、
私の数少ない財産になっている。

一番上はもう50代だ。
白髪になった昔の学生と飲みにいくと、卒業後の波乱万丈を語ってくれる。
私と内定をもらった喜びを分かち合った会社は、とうの昔にやめている。
それから4社めになるが、今の会社もやめることを考えている。

「仕事ってのは、齢をとるほど使える絵の具の色が増えるようなもんですねぇ」
なんて言いながらうまそうに酒を飲んでいる姿をみると、
「俺のパレットは、絵の具の色が少ないなぁ」
なんてちょっぴり劣等感がわいてくる。

女子学生の場合は早い。卒業して半年も経たないうちに、
「まぁ、そんなにくよくよしないでくださいよ。
 お互い、死ぬほど生きましょうよ。人生、長いんだから」
なんてカウンターバーで背中を叩かれる。
バンという音と痛みが、自分を若返られてくれるのだ。

「ひきたさんは、自分が好きな人にしか関心がないからなぁ」
「夜道をいっしょに歩いていて何かあったとき、ひきたさんは
 絶対助けてくれない気がする」
「とことん人を好きになったことないでしょ」
「月に一度だけ、ハメをはずす日を作っています。そうしないと
 ちょっとずつはずして、結局だらだらしちゃいますから」
「ひきたさん、『また会おう』じゃだめですよ。3カ月以内に
 会うことにしましょう。それでも半年になるもんです」

これらはみんな、私の教え子たちの言葉。
長くても一年。いっしょに食事をした回数など数えるほどなのに、
みんな実によく観察している。
酒に勢いを借りて彼ら、彼女らの多くは、
それまで培ってきた知識と経験を駆使して、私の欠点を指摘し、
実に的確なアドバイスをくれるのだ。

「教えた人に教えられるのが最高の教育」

と作家の開高健さんは言っている。

若い頃には響かなかったこの言葉に、この頃は始終胸を突かれる。
気がついてみると私の周りには、私の過ちを指摘し、生きる道筋を教えてくれ、
時には背中を叩いてくれる人がここそこにいる。
こんなありがたい話はない。

先日、来年4月に就職する学生とご飯を食べた。

就活中は、私のいうことを聞いてばかりだった子が
自分で店を探し、私より先にメニューを選んだ。
小さなことではあるけれど「学生」という立場から
少しだけ成長したように思えた。

さて半年後、赴任先から戻ってきた彼女に、
私は何を教えられるのだろう。
彼女の母校の近くにある品のいいバーカウンターを探しておこう。

ひきた よしあき

1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。

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