話せばわかるものなのか。

第2話「ものづくりがしたい」

文:ひきた よしあき / イラスト:もとき 理川 10.27.2016

「若い人たちがわからない」。若手とのコミュニケーションに悩む大人世代は数多い。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが贈る、コミュニケーションのヒントたち。今回は、親御さんなら気になる、就活に悩む娘のエピソード。(カンパネラ編集部)

その女性は、大学3年のときから私の講義を聴講していた。 いつも前の方で聴いている。150人もいるクラスだが、 常に前の方に座って顔まで認識できるようになる学生は20人程度だ。

彼女は、その20人だった。毎回講義の終わりに「リアクションペーパー」を書いてもらう。 講義内容をまとめ、質問があれもそれも書く。 読めば講義をどれだけ把握しているかが一目でわかった。 これを読んでもひときわ優秀だった。 レポートを提出させると自分のエピソードを交えながら 申し分のない内容を書いてきた。

「私、広告会社に就職したいです」

と言っていたのが、昨年の秋。
以後、私の講義はない。次に会ったのは彼女が4年生になり、 私の新しい講義がはじまった4月だった。

リクルートスーツに身を包んだ彼女が、エントリーシートを見てほしいとやってきたのだ。 「そうか、もうそんな季節か」 と「学生時代なんてあっという間に終わるね」 なんて言いながら近くの喫茶店でシートを眺めた。

「あれ、どうしちゃったんだ?」

半年前に比べて切れ味がない。自己分析も甘いし、企業研究もイマイチだ。

「迷っているのかな」

とたずねると、うなづく。自分について、働くということについて、 よくわからなくなってきたと肩を丸めた。 それでもいいポイントを探し出し、 書き直してくるようにと言う。 素直に書き直してきたものの、 数回やって、やはり切れ味が悪かった。

神保町の喫茶店。就活学生たちが他にも数人いた。 相手はOBだろうか。真剣に学生の話を聴いていた。 私はそれを見て、話題を変えた。

「他にどこを受けてるの?」

というと、いくつかの会社の名があがる。あきらかに広告会社とは違う職種が混じっている。

「なんか、バラバラだねぇ」 

と感想を漏らすと、

「先日、名古屋に帰ったときに、お父さんに相談したんです。お父さんとしゃべることなんてほとんどなかったんです。 でも、お父さんはどういう気持ちで働いているのかなと 思ったんですね」

話のペースがあがってきた。

「お父さんはメーカーなんです。研究をやってます。実際にものをつくってるんです。だから就職の話ではなくて、ものづくりのすばらしさを語るんです。ずっと、そればっかり。 『おまえは下町ロケットかよ!』って言いたくなるほど楽しそうに語るんです。でも、それを聞いているうちに『ものづくり』っていいなぁと思いはじめました」

その結果が、彼女のバラバラの就活になっていたのだ。 私は、一度広告会社を忘れて「ものづくり」という言葉で企業を探してみたらと言った。彼女は素直にうなづいて別れた。

しばらくして、彼女からFacebookにメッセージが入った。 とてつもなく大きな「ものづくり」の会社に内定をもらったという内容だった。 そればかりではない。名だたる「ものづくり」企業からいくつも内定がでている。

「その後、メーカーを回ったら、お父さんみたいに目を輝かせて、ものづくりを語る人がたくさんいたんです。 あぁ、こういうところで働きたい!と思いました。血ですかねぇ。私も『ものづくり』をやりたいと心底思いました」

父と娘。価値観も考え方も全く違う。「お父さんはどちらかと言うと苦手」という学生も実に多い。 しかし、嘆くことはない。話せばわかる。自分が打ち込んできた「仕事」の話を真摯に語れば、これから羽ばたこうとする娘には伝わる。 それを欲してさえいるのだ。

自慢話でも武勇伝でもなく、娘の就活を覗き込むようなこともせず、ただひたすら「下町ロケット」と化す。お父さん、あなたが娘を助けられる最初で最後の チャンスかもしれませんよ、就活は。

ひきた よしあき

1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。