話せばわかるものなのか。

第3話「アッパッパァ」

文:ひきた よしあき / イラスト:もとき 理川 11.17.2016

「若い人たちがわからない」若手とのコミュニケーションに悩む大人世代は数多い。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが贈る、コミュニケーションのヒントたち。今回は、ひきたさんが出会った“大阪おばちゃん”たちの楽しい話。(カンパネラ編集部)

大阪のおばちゃんの特徴として、自分が聞きたいことを前置きひとつなく聞いてくることがある。
関西のあるところで研修の講師をやった。
まだ夏の盛りで、帰りに受講者の数人とビアガーデンにいくことになった。
受講者の多くは、長く販売に携わる大阪のおばちゃんたちだった。

喫煙者と非喫煙者でテーブルを分けると、喫煙者の側におばちゃんたちはけっこういる。
たばこをくゆらせ、ビールを飲む姿は古きよき昭和の時代を彷彿させた。
おばちゃんたちは、実に講義に積極的で発言も多く助けられた。
そのお礼にとピッチャーをもって近づくと、いきなりこう切り出された。

「あんたなぁ、夜寝るときクーラーつけてはる?」

薮から棒とはこのことだ。いきなり胸元から顔がぬっとでてきた感じ。虚をつかれながらも、

「あ、はい。マンションなもんでないと、ちょっと」

としどろもどろに応えると、

「電気代、高うない?」

とまたいきなりだ。

「いえ、特に気にしたことは・・・」

と言いかけたとたん、こちらの話を聞く様子もなくこう続けてきた。

「うちなぁ、マンションの二階やねん。鍵なんか、
かけたことないわ。夜はなぁ、窓あけっぱなしで、 アッパッパァや」

ときた。
大変申し訳ないけれど、私の日常の語彙の中に、「アッパッパァ」はない。
失礼とは知りつつも、どちらかと言えば「パッパラパァ」の方が親しみ深い。
私は勝手に「窓あけっぱなしで、パッパラパァ」という文脈で意味の解析に入ったが、
無力で非力だった。

「アッパッパァってのはムームーみたいなもんですよ」

と耳元で囁いてくれたのは、ここの若手社員だ。
私の動揺に助け舟を出してくれたのだ。

「そうか、暑いので窓あけっぱなしで、
 ムームーを着て寝ているということか」

やっと話に追いついたように思えた。ちょっとうれしくなって、
おばちゃんを見ると、こちらをジロッと見る。

「あんた、イビキかくやろ」

また、全然違う話である。

「アッパッパァは、どこに行ったんや?!」

と叫びたい気持ちになるが、もちろんそんなことを
おばちゃんは気にするわけもない。

「うちのダンナなぁ。すっごいイビキやねん。
 寝床が工事現場みたいやねん。ガガガガガァ!言うてな」

耳をつんざくような「ガガガガガァ!」に仲間のおばちゃんが
一斉に笑った。

「ま、そこまでひどくはないと思いますけど」

というのが精一杯。するとおばちゃんが、ヌッと顔を近づけて、
にやっと笑った。

「ええ枕あるで。うちのダンナ、それしてから工事中止や」

このあと、いやがるダンナをどうやって売り場まで連れて行ったかという武勇伝が続き、
こちらもつい腹を抱えて笑っていた。
楽しくて、おかしくて、あっという間におひらきの時間になっていた。

実は、この話には教訓めいたものがない。
大阪のおばちゃんの話術にいいように操られ、
私は汗を思いきりかきながら、ビールを飲んだ。

強いて結論づけるなら、
「酒には笑いがよく似合う」

ということ。そしてもうひとつ。

「大阪のおばちゃん」は、会ってから5秒で人の心を鷲づかみにし、
独自のワールド(アリ地獄のようでもある)に引きずりこむ。
「話せばわかるか?」と言われると、正直、自信は全くない。

ひきた よしあき

1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。

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