見て、聞いて、泊まって、味わう。五感オトナ旅

350年の歴史を重ねた平家伝説の宿「本家伴久」に泊まる──堂々たる古民家建築と渓流沿いの絶景温泉に恍惚

文:カンパネラ編集部 / 写真:長坂 邦宏(特記なき写真) 12.19.2017

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  • 350年の歴史を持つ湯西川の温泉宿「本家伴久」の男性用露天風呂
  • 「本家伴久」の外観。堂々たる古民家建築
  • 2階のくつろぎスペース
  • 玄関ロビー。樹齢500年の姫小松の大柱がそびえ立つ
  • 半露天風呂付客室。開放感のある眺望が魅力
  • 2階客室から湯西川を望む
  • 1階の客室。土壁造りの落ち着いた雰囲気
  • 貸切露天風呂の君待月
  • 伴久名物の囲炉裏会席料理膳は、四季折々の旬の素材を生かしたこだわりの創作料理
  • 1月下旬から3月上旬にかけて催される「かまくら祭」

五感オトナ旅の終着点は、身も心も癒やしてくれる温泉宿。益子の陶芸家・大塚一弘さんと語り合い、 益子の街で陶芸文化を体感する自転車旅の終わりを締めくくるのは、設備が整ったモダンな旅館ではない。タイムスリップしたような古い歴史が感じられる空間で郷愁に浸れる宿がいい。今回訪れたのは、「平家の落人伝説」が語り継がれている土地のひとつ、栃木県湯西川温泉の老舗旅館「本家伴久」。堂々たる古民家建築と土壁造りの落ち着いた客室、絶景が望める渓流沿いの温泉、地元で採れた山川の食材を満喫できる囲炉裏料理などは、ストレスフルな日常を忘れさせてくれる。

野岩鉄道会津鬼怒川線の湯西川温泉駅からバスに揺られながら山道を20分ほど行くと、湯西川温泉街に到着する。標高700メートルの高地にあり、周囲を取り囲む豊かな山林、良質な温泉、そして集落の中を流れる澄みきった渓流が魅力の歴史ある温泉街だ。高度成長期には首都圏を中心に多くの観光客でにぎわった。

渓流釣りをこよなく愛した文豪・井伏鱒二もこの土地を訪れている。井伏鱒二自選全集を開くと「湯西川」と題した短編が収められている。作家仲間10人近くとこの地を訪れ、釣りをしたら大きな獲物がかかり、タモ網がなかったのでピケ帽を使って大奮闘の末、一尺二寸もある大きなイワナを捕獲したと書いている。

よほどうれしかったのか、巻末の「覚書」を見ると、「まぐれ当りで一尺三寸のヤマメを釣り揚げた。温泉宿の隣の鮨屋も一大慶事だと喜んだ」などと長文をしたためている。果たしてイワナだったのか、ヤマメだったのか今では知る由もないが、この時婦人雑誌の作家仲間と大挙して遊山に出かけた温泉宿が「伴」(現在の本家伴久)だ。

平家落人伝説が残るこじんまりとした温泉の町

湯西川温泉は、全国各地に数多くある平家落人伝説が残る場所のひとつだ。創業1666年の老舗旅館「本家伴久」によれば、湯西川温泉の起こりは平安時代にさかのぼる。

1185年、天下を二分にした源平の壇ノ浦の戦いに敗れた平家の落人、平清盛の嫡男である平重盛の六男・平忠実(平忠房)は、家臣と共に、縁戚の宇都宮朝綱(ともつな)公を頼り、関東へ下り、川治の鶏頂山に隠れしのんで生活していた。

そんな折、一族の婦人が男子を出生した。不遇の逃亡生活の中でも、祝事と喜んで、残り布でのぼりを5月の空に上げたところ、源氏方の目にふれ、一族は大敗した。深手を負いながら渓谷沿いに湯西川まで逃げ延び、ここを永住の地と定めたという。このため、現在でも湯西川温泉では、鯉のぼりを上げず、鬨(とき)の声を上げる鶏を飼わない風習が続いている──。

温泉街にただひとつある酒屋「湯沢屋」。店主の大類和一さんは地酒の湯西川を勧めてくれた

湯西川温泉街の入り口には「平家落人民俗資料館」がある。湯西川家に保存されてきた平家ゆかりの鎧(よろい)、調度品などの展示品を見ることができる。館内を流れる資料説明の案内音声がレトロ感たっぷりで十分楽しめる。20〜30分くらいで見学できるので時間があれば立ち寄ってみるといいだろう。

平家落人の伝承を形にした平家の里

旅館が立ち並ぶ温泉街から少し外れたところに、平家落人の生活様式を後世に残すためにつくられた「平家の里」がある。村内の茅葺き屋根の民家を移築・再現した民族村で、平家が源平の合戦に敗れてから800年の節目の1985年につくられた。毎年6月には平家大祭が行われ、最大の見ものは「平家絵巻行列」。鎧兜(かぶと)の武者や雅びやかな姫装束の一行が湯殿山神社から平家の里までの約2キロの道のりを練り歩く。平安時代にタイムスリップしたような絢爛(けんらん)たる行列を見ようと全国から観光客が訪れる。

画像提供:平家の里
写真提供:平家の里