カンパネラ・ロングインタビュー

69歳で年100本のステージ 歌手・森山良子の覚悟とは

半世紀現役歌手の生い立ちとこれから:森山良子(歌手) 後編

文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:山田 大輔 03.09.2017

歌手・森山良子がデビューして半世紀が過ぎた。安定感のある歌唱力に驚かされる一方、トークでは少女のような側面も見せる。今も第一線で活躍し続けていられる理由はどこにあるのか。50年の道程を振り返る。

(前回からの続き

デビュー当時から恵まれた環境にあった森山だが、1980年代半ば頃に苦境を味わうことになる。

「1980年半ばくらいに、コンサートにお客様が入らなくなりました。それは、厳しかったですね。コンサートの数は減っていないのに、お客様の数が減っていくんです。それまで頻繁に来てくれていた人たちが、社会に出たり、仕事で忙しくなったり、それぞれの事情はあるのでしょうが、特に男性の姿が減りました。

コンサートにお客様が入らない。レコードも売れない。もう、私を必要とする人がいなくなってきたのではないか。だとしたら、このまま歌を続けていくことに意味があるのか。自分が時代から遠のいたように思っていました。

そのような状況でしたから、スタッフにも『アルバムを作る意味があるの? コンサートもする必要があるの?』と言っていました」

思い悩む森山。スタッフは「やり続けることに意味がある」と励まし続けた。

女優業が歌に新たな視点をもたらした

そんなある日スタッフが、森山に意外な仕事案件を持ちかけた。それは女優の仕事だった。

「『良子さん自身ができないと思っていても、声を掛けてくれている人たちは、僕らが知らない良子さんの可能性を見いだしているのかもしれません。だから一歩、踏み出してみましょうよ』。スタッフがこう言ってくれたんです」

こうして森山はテレビドラマ「金曜日の妻たち」で女優としてデビューすることになった。金曜日の妻たちは1983年からTBS系列で放送された連続テレビドラマである。20代から40代の幅広い女性に人気を博し、「金妻ブーム」とも言われるムーブメントを引き起こした。

演技のトレーニングを積んだことがない森山は当然、不安を抱えた。だが、このドラマの共演者には石田あゆみや小川知子といった友人たちがいた。彼女らはさかのぼる1970年代を同じ歌手として過ごしてきた。森山より先に女優として活躍していたこの友人たちが、森山の支えとなった。

「仕事場に行くと、同窓会みたいでだったので、思ったよりもリラックスできました。おかげさまで、歌とは違う新しい活動を通じて、新しい話題が生まれもしました。それが精神的な救いにもなったんです。

ドラマの現場に慣れた後で、久しぶりにコンサートのステージに立つと、歌ってすごい新鮮!と感じられました。歌とは別の視点を持てた期間となったので、深い気持ちで音楽に向かい合っていけるようになりました」

女優業を皮切りに、森山はミュージカルにも出演することになった。

「当たり前のことですが、50年の歳月において全てが自分の望み通りに進められたわけではありません。ただ、その場所が自分の望んだ場所でなくても『自分磨きの時間』と考え、自分の本音を忘れずに、時を待つことができた。その時間が、次のステージへと扉を開かせてくれたように思います」