インタビュー 情熱と挑戦の先に

【小比類巻貴之】ストイックな元K-1格闘家、再びリングを目指す

闘いの原点に迫る:小比類巻貴之(格闘家) 第1回

文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:陶山 勉 04.14.2016

K-1 WORLD MAXの日本代表決定トーナメントで、史上最多となる3度のチャンピオンベルトを獲得した格闘家・小比類巻貴之。今は道場を各地に展開し後進の指導に力を入れる。だが選手として再びリングに上がる気持ちも消えていない。3回の連載を通じて闘いの原点を探る。

一番強いのは誰か――生身の人と人とがぶつかり合い、勝敗を決する格闘技。これを野蛮な行為と見なす人もいるかもしれないが、少なくとも現代の格闘技は、規則が明確に定められたスポーツとして、人気を得ている。古来伝わる武術と重なる面もあり、自らの可能性を求めてこの道を目指す若者は後を絶たない。

格闘技は、それを観る人々をも魅了する。格闘技選手たちが自らの心・技・身体を鍛え上げていく過程や、選手同士の緊張感あふれる競技から、自らの人生を切り開くためのエネルギーを受け取った人も多いのではないだろうか。

1990年代初頭、空手、キックボクシング、拳法、カンフーなどの打撃を中心とした「立ち技系格闘技」の世界王者を決める大会が、日本で開催されるようになった。それがその後の格闘技ブームの火付け役にもなる格闘技イベント「K-1」の始まりだ。

当初は、重量級の選手たちによるヘビー級の試合が中心だった。平均的に体格が小さい日本人にとっては、そのクラスで出場できる選手層は薄く、腕に自信のある海外選手を中心に行われていた印象が強い。それでもテレビ放映の影響もあり、スター選手が誕生し、短期間の間に格闘技ファンが急増していった。

2000年に入ると、日本人選手層の厚いミドル級(70kgの中量級を基準とするクラス)の大会も開催されるようになった。そのシリーズは「K-1 MAX」。重量級と同様に世界ナンバーワンを決める世界大会「K-1 WORLD MAX」も行われ、重量級よりも軽快でスピード感あふれる戦いが、それまで以上に多くのファン、特に女性を魅了し始めた。

世界の頂点に立った日本代表選手・魔裟斗を筆頭に、K-1 MAXにも多くのスター選手たちが誕生し、個性豊かな日本人選手たちも続々と登場した。

同じ頃、後発ながら立ち技だけではなく関節技や絞め技などもルール内に取り入れた「総合格闘技」系のイベントとも相乗効果が生まれ、テレビ局はこぞって放送を展開した。それらの勢いたるや、あの大みそかの代名詞とも言うべき番組「NHK紅白歌合戦」の視聴率さえも脅かすほどになり、空前の格闘技ブームが日本中を席巻(せっけん)した。

史上最多・3度のチャンピオンベルトを獲得

世界大会・K-1 WORLD MAXの日本代表決定トーナメントで、史上最多となる3度のチャンピオンベルト(2004年、2005年、2009年)を獲得した格闘家がいる。それが小比類巻貴之だ。


K-1 WORLD MAXに出場するための道は極めて険しい。その前段となるトーナメントで一戦一戦を勝ち進むことさえも高いハードルである。そのような中、日本代表として3度のチャンピオンベルトを獲得したのだから、小比類巻の強さは容易に想像できよう。

当時、彼は「ミスター・ストイック」とも呼ばれていた。常に自分を極限にまで追い込むスタイルのトレーニングを行っていたためだ。3度のチャンピオンベルト獲得の裏には、そのような努力があった。

2009年日本代表トーナメントで優勝し、チャンピオンベルトを獲得した時の小比類巻

小比類巻は晴れの舞台であるK-1 WORLD MAXで、日本チャンピオンとして出場した国内外の選手たちと好勝負を展開した。しかしそれでも大きな結果を残すことができず、世界の壁の前に、涙をのんだ。

指導者として、選手として、再びリングを目指す

講演中の小比類巻(右)

第一線を退いた現在、小比類巻のメインの活動は、格闘技の指導である。自身の道場「小比類巻道場」を全国で展開しており、プロ選手だけでなく、事業という現場で“闘う”ビジネスパーソンたち、小さな子供や年配の人々までもが集う。男女の区別なく、幅広い層の人々がやってくる。また各地の企業や団体から招かれ、講演も行っている。

指導者となった今でも、格闘家・小比類巻の内側にある、リングを目指す気持ちは変わらない。それは指導者として選手を育成し、後進がプロとしてリングに上がるのを助けようというだけではない。小比類巻は「もし自分が引退試合をやれるなら、魔裟斗と対戦したい」と語る。

格闘技という道を歩き続けて約25年。言い訳のきかない勝負の世界を通して培ってきたものは何か。格闘技で得たものを糧に、今後どのような価値を世に提供するべく“闘おう”としているのか。再びリングに上がりたいという闘志はどこから来るのか。小比類巻の過去と現在の闘いをひもといていく。

(本文敬称略)