インタビュー 情熱と挑戦の先に

障害者手帳が、自らの背中を押した 車いすバスケットボール選手・土田真由美氏

土田真由美 車いすバスケットボール選手 東京ファイターズB.C/シグマクシス所属(後編)

文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:中島 正之(特記なき写真) 09.05.2017

結果を残すことに意義がある

現在、日本における車いすバスケットボールチームは全国に74チーム(2017年7月現在)ある。10ブロックの地域に分かれて切磋琢磨している。

土田が所属しているのは東京ファイターズ。実はこのチーム、男子チームである。

「昨年(2016年)9月から、選手強化の一環で、男子チームにも女子選手が登録できるようになりました。このような恵まれた環境に感謝する毎日です」

体格的にも大きく、筋力の差がある男子のプレーはやはり激しい。それでも男子チームに加わった理由は、土田の視野には2020年の東京オリンピック・パラリンピック出場が入っているからだ。

「開催国の日本は、出場権が与えられています。ただ、代表の12人に入れる保証はありません。近年は全体のレベル向上に従って、選手層も厚くなっており、私以上に努力家であるプレーヤーたちがたくさんいます。まずは合宿に召集されるだけのスキルが必要になります。

スピードが速く、身体も大きい海外のチームに負けたくない。そのために男子チームに入りました」

土田はパラリンピックだからこそ結果を残したいと語る。

「よくオリンピックもパラリンピックも『出ることに意義がある』と言われていますが、私は『出て結果を残すことに意義がある』と考えています。

オリンピックはたくさんのメディアが取り扱いますが、パラリンピックは残念ながら、そこまで大きくは扱われません。ただでさえ情報発信が少ないのに、仮に日本が負けてしまうと『まぁ、日本はこんなもんか』で終わってしまうような気がしています。だからこそ、そう思わせないような良い試合して、良い結果を出すこと重要なんです。

それに今度の東京パラリンピックは、試合会場で生で観戦してもらえるチャンスです。生でしか感じ得ない面白さを知ってもらいたいですし、私たちの後に続く世代が、もっと活動しやすい環境づくりのためにもプラスになる結果を残したいと思っています。それがお世話になった方々にできる恩返しのひとつだと思っています」

「当たり前」が失われた時に始まった「プラスの人生」

障害を持つアスリートを『チャレンジド・アスリート』と呼ぶ。その言葉には、単に身体的な障害だけでなく、それ以外の様々な制約にも挑戦しているという意味が含まれている。

土田は、人生の途中から、身体にハンデを持って生きることになった。

「まさか自分が歩けなくなる、走れなくなる、とは思いませんでした。昨日までの当たり前が、当たり前ではなくなるんです。当たり前は、いつまでも続かないということに直面しました。

でもそれを経験したからこそ、普通にあった当たり前が、本当はとても幸せなのだということに気づいたのです。それは私にとってプラスでしたね。

障害者になりましたが、助けてくれる方も、支えてくれる方も、応援してくれる方もいます。人と人のつながりを、深く感じられるようにもなりました。それは代え難いものです。

自分ひとりでは何もできなかったと思います。いろんな方々の支えがあったからこそ、今の私があると思っています。今は、お世話になった方々への恩返しをしたいと思っています」

取材中、土田は終始笑顔を絶やさなかった。その話しぶりや仕草からは、現役アスリートであること以上の生命力が感じられた。

あくまで推測だが、その生命力は、生まれつき備えていたものだけではなさそうだ。身体の障害という逆境を乗り越えて、車いすバスケットボール選手として様々なチャンスを獲得するプロセスの中で、養われたものではないだろうか。

マイナスの出来事をバネに、プラスの人生を創り出した土田。土田にインタビューした部屋の窓からは、急ピッチで建設が進む新国立競技場が見えた。話を聞きながら、2020年に全日本のユニフォームを着てシュートを決める土田の姿を幻視した。

■参考文献/雑誌/Webサイト
・「REAL FUN BOOK 車イスバスケットボール日本代表応援ブック!2015」(集英社)
・「かんたん!車椅子バスケットボールガイド」(公益財団法人 日本障がい者スポーツ協会)
・「クローバー」障がい者のための就職情報誌 2014Winter(ジェイブロード)
病気で諦めた夢と新たな夢 日本代表にふさわしい選手を目指して 土田真由美さん(WEDGE infinity、2015年2月17日)
車いすバスケットボールリオパラリンピック最終予選 6日目結果(NHK福祉ポータルハートネット、2015年10月15日)
土田真由美(つちだ・まゆみ)

車いすバスケットボール選手。1977年生まれ。東京ファイターズ、株式会社シグマクシス所属。幼いころからスポーツが好きで、高校卒業後はスポーツトレーナーを志し体育大学に進学。大学2年生の時に突然腰痛に襲われ、その後次第に日常生活にも支障を来すまでになり、先天性の障がいと診断される。一般企業に就職し競技を続ける中、2009年の選手登録を機に本格的に競技を開始。同年、日本代表の候補合宿や強化合宿に選出される。

2010年、イギリスで行われた「IWBF世界選手権大会」において自身初となる日本代表に選出される。2013年第24回全日本女子車椅子バスケットボール選手権大会ではチームが優勝、MVPに選ばれる。

2017年2月より東京ファイターズに所属。男子チームの中でその実力を磨いている。第28回日本選抜高崎大会(9月16日、17日)に出場予定。

十代目 萬屋五兵衛(じゅうだいめ・よろずやごへい)
フリーライター
本名:高橋久晴。株式会社更竹代表取締役。大学卒業後、音楽業界から職業人歴をスタートさせる。制作、宣伝を中心に独自のマーケティング戦略で有名ミュージシャンやアーティストたちと多くのプロジェクトを成功させる。その後、飲食店開発の企業に転職し、飲食店をリアルメディアとしたマーケィング部門や、他業種のリアル店舗をつなげた新BGMサービス事業、フィットネスコミュニティ事業など、ライフスタイル事業を幅広くプロデュース。数社の役員を歴任後の2013年、家業の会社を軸に自身の経験を活かした企画コンサルティング事業を開始。「現代版よ・ろ・ず・や」というコンセプトを掲げ、多くの企業のプロジェクトに携わっている。

※萬屋五兵衛:1700年代から家系伝承されてきた職業名
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